「普通の会社だったら絶対やっていない」、メルカリが取り組む採用オウンドメディア

注目度が高い会社であれば、お金をかけて採用サイトを運営したり、採用エージェンシーを活用したりするのが一般的だが、メルカリはあえてオウンドメディア「メルカン」を通じて、自社に関する情報を地道に発信し続けている。

社員へのインタビュー記事や取り組み、日々の出来事に関する日記をはじめ、同社の業務だけでなく社内の雰囲気も伝わる内容が特徴だ。

目的は、自社情報が集約されたコンテンツプラットフォームを作ることと、それによって人材採用へつなげることだという。

メルカンの詳細について、編集長の松尾彰大氏に話を聞いた。

メルカン編集長の松尾彰大氏

メルカン立ち上げの狙い

2016年5月に創刊したメルカンについて、「メルカリ以外の会社だったら絶対にやっていなかった」と松尾氏は話す。

採用目的でコンテンツを発信するのであれば、Wantedlyのようにすでに整備されているプラットフォームを使ったほうが、一般的には近道だという。しかし松尾氏が入社した2016年3月当時のメルカリは、事情が違っていた。

当時すでに取材依頼も多い注目企業であったため、自社でコントロールできないメルカリに関する情報が、外部に乱立していたという。

「コントロールできないままにしておくよりも、自社について出来る限りこちら側の言葉で発信できるメディアを作ろうと立ち上げました」(松尾氏)。

メディアから取材依頼が届く際も、メルカンで発信するか取材を受けるかという選択をできるようになったことは大きいという。

また「メルカリ以外の会社であればやっていなかった」というもう一つの理由として、オウンドメディアに対する社内理解という点がある。

「メルカンがうまくいっているとみられる決定的な要因の一つは、経営陣の理解が非常に大きいと思っています。こちらに任せてくれるし称賛してくれる、ダメだった時には『全然面白くなかったよね、もっとこうした方がいいんじゃない?』という風にちゃんと言ってくれる。結果なんて正直みえないですし、そういうのに縛られないと動けない人にとっては、かなりきつい仕事になってしまうと思います」(松尾氏)。

また作ったコンテンツがストックとして溜まっていくことも、オウンドメディア立ち上げの理由だという。

「それによって採用候補者がメルカリで働くことに興味をもってもらえれば、結果的にベストです」(松尾氏)。

「更新がないイコール『死』」、コンテンツ制作への考え

一口に自社を紹介する採用オウンドメディアといっても、メルカンには多種多様なコンテンツが掲載されている。

たとえば「メルカリ500人の社内インフラをたった1人で支え続ける立役者の正体とは?」のような社員紹介記事や、「ランチ代がツケ払い!?メルカリの社内制度を支える画期的仕組みについて」といった社内制度に関する記事。また広報担当者がアップする「#メルカリな日々 2016/9/21 今日は社長の誕生日!!だよ」のように社内の出来事などを書いた記事もある。

記事では様々な部署の社員を取り上げているほか、東京オフィスだけでなく、仙台やサンフランシスコのオフィスに関する記事もある。コンテンツ化に向けて、社内から適切な情報を随時吸い上げている印象だ。

「メルカリには、情報はオープンであるべきだという文化がある。社員も情報を取りに行く姿勢がある。だから結果的にこういうアウトプットになるんだと思います」(松尾氏)。

制作チームには、松尾氏が所属するHRグループから2名、広報から3名、総務から1名、CSから1名、そして(子会社の)ソウゾウからコミュニティマネージャーが1名、参加しているという。松尾氏を含め、メンバーがみな本業のかたわらで運営に携わっている点が特徴だ。

またコンテンツの制作は外部に委託せず、今のところすべて内部で行っている。

「編集プロダクションに頼んで何十万円もとられるというよりも、自分たちで『それ面白いじゃん』みたいなノリでできる環境の中でやれてきたことは、メルカンというメディアとしては良いことだと思います」(松尾氏)。

さらにコンテンツ企画の作り方については、こう話す。

「完全に僕が企画を作ることもあるし、メンバー側から提案があがってくることもある。その場合はまず企画書を作ってもらいます。テキストコンテンツで出すなら、タイトルと導入を出してもらいます。それが分かれば面白いか面白くないか、出すべきか出すべきじゃないかが分かります」(松尾氏)。

記事をほぼ毎日アップする更新頻度の高さも特長だ。

「あくまでメディア、コンテンツプラットフォームを名乗る以上、更新がないイコール『死』だと思います。メルカリは毎日何かしらのニュースがある会社だと思っているし、そうあり続けたいと思っています」(松尾氏)。

またインタビューに同席した広報担当の片山悠氏もこう語る。

「情報発信の頻度はPRの一つのバロメーターになっています。もしネタを作れていないと危機感を持ってせまってくるので、そういう意味でも効いてるなという感じがします」。

メルカンによる効果とは

実際に採用に対するメルカンの効果はどうなのか?当然ながら「メルカンによって何人採用できた」といった数字は計測できないものの、効果の実感はあるという。

松尾氏は「入社前後の人に『メルカンを読んでいたか?』と聞くと、ほぼ100%のメンバーが読んでいます。また入社直後に社内の雰囲気に慣れやすくなるということもあると思います」と話す。

「色々な方が色々な動機でメルカリに応募すると思います。その時に探せばメルカリに関する情報があるよ、という状況をこちら側が作れているのは大きい。どういう目的、思想をもって仕事をしていて、どういう人材を求めているかが伝わる。メルカリのミッションやバリューにもとづいた採用をするとも公言しているので、候補者と面接官とで共通認識をちゃんと持てます」(松尾氏)。

また社員同士のコミュニケーションにも、メルカンが一役買っているという。

「なるべく多くの社員をメルカンで紹介することで、『あ、この人のことか』と知ることができたりですとか、色々な社内コミュニケーションのフックとして使われたりするというのが往々にあります」(松尾氏)。

また社員が知り合いを候補者として紹介する縁故採用が、採用全体の半分以上を占めるメルカリだからこそ、効果を実感できた部分もあるという。

「社員数が1年で200人くらい増え組織が急拡大している状態で、隣のチームが何をしているか分かりづらくなると、社員が知り合いを紹介できる相手が、自分の知っている範囲に限られてしまうという問題がありました」(松尾氏)。

しかしメルカンがあれば、社員の情報や取り組みがより社内で共有されやすくなるというわけだ。

さらにメルカンでは、地域コミュニティアプリ「メルカリ アッテ」、エンタメ・ホビー特化型アプリ「メルカリ カウル」などを手掛けるソウゾウなど、子会社に関する情報も発信している。その意義について、松尾氏はこう語る。

「社外的な意味でいえば、『メルカリってメルカリだけやってるわけじゃないよ』というのをもっと伝えないといけない。メルカリはプロダクト名と社名が一緒なので、ソウゾウなどが手掛ける新規事業も伝えていかないと、候補者にとってはメルカリ=メルカリで終わってしまいます」。

メルカンの役割は採用だけにとどまらず、コーポレートブランディングにも及んでいるようだ。

このようにメルカンによる効果を実感しているものの、KPIは特に設けていないという。ありがちなKPIとしてアクセス数を評価するケースも多いが、松尾氏は「正直PVそれ自体はどうでも良い」と話す。過度に広げるのではなく、届けるべき人に届けるという考えだ。

メルカンの今後

最後にメルカンの今後について尋ねると、松尾氏は次のように話した。

「この1年間メルカンをリードしてきたのは僕ですが、0から1がうまい人と、1から100に向かう手段を見つけて実行できる人は違うと思います。そういった人のアサイメントやリクルーティングはやりたい。意思がある人にぜひ来てもらいたい。メルカンというメディアは、コーポレートブランディングの最初の礎というか、方向づけのテストができるメディアという気もしています。そういった観点でどうすべきか考えられる人が良いです」。

採用オウンドメディアを積極的に運用することで、求職者に対するコーポレートブランディングだけでなく、普段業務でかかわりの少ない社員同士の関係性の強化などの、副次的な効果にもやり方によってはつながり得ることが分かった。

またメルカンのように自社ネタを積極的に発信することで、自社の現状をより把握しやすくなるということもありそうだ。ただし、採用オウンドメディアを運営する際には、メルカリのように明確な運営方針を持つことが重要になるだろう。

執筆:三友直樹(コンテンツマーケティングラボ編集長)

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