オウンドメディアを使った採用活動の実態とは?

オウンドメディアを活用した採用活動が増えている。

「自社で働く魅力を自分たちの手で発信できる」、「従来の採用方法とは異なるタイプの候補者と会える」、「コンテンツが自社メディアに蓄積するので資産になる」など理由は様々だ。

主に見込客と接触する手段として広まったオウンドメディアだが、自社の魅力や特長を柔軟に発信できる特性が注目され、採用活動でも使われ始めているようだ。

オウンドメディアを通じた採用の実態はどうなっているのか?

先日、ビジネスSNS「Wantedly」を手掛けるウォンテッドリー株式会社が主催したイベント、「採用につなげるオウンドメディアの立ち上げと運用方法」(4月12日開催)に参加したところ、面白い事例やノウハウを知ることができた。

同イベントに登壇したのは、BtoBのグループウェアを手掛けるサイボウズ、家庭用洗剤などの老舗メーカー木村石鹸工業、プライベートコーチサービス「サイタ」を運営するコーチ・ユナイテッド、ウォンテッドリーの4社。

いずれもオウンドメディアを通じて採用者を獲得している企業の担当者たちだ。

オウンドメディアは採用にどう貢献しているのか?

「記事を読んでも会社や社員のことは分からなかったです。でもなんとなく『この会社好きかも』と思いました」。

サイボウズの明石悠佳氏(コーポレートブランディング部)は、同社に入社するきっかけになったというオウンドメディア「サイボウズ式」の記事に触れた時の印象をこう語った。

最初に登壇した明石氏。

サイボウズ式は、仕事におけるチームワークの重要性や次世代の働き方などをテーマにした読み物記事を発信しているメディアだ。

「私に対してサイボウズ式は、サイボウズという会社への認知と興味・関心の獲得に貢献したんです」と明石氏は話す。

新卒で入社して3年目の同氏。就活生時代の第一志望は出版業界だったという。BtoB向けのグループウェアを扱うサイボウズは、明石氏がもともと出会う可能性の低い企業のはずだった。

そんな彼女とサイボウズを引き合わせる役割を担ったのがサイボウズ式だ。

就活生向けの合同説明会で、サイボウズとサイボウズ式の存在を知った明石氏。元々出版社志望だったことからオウンドメディアに興味を持ち、サイボウズ式の記事を読んだという。

この時にサイボウズに対して感じた「何となく好きかも」を出発点として、企業サイトやOB訪問を通じてサイボウズに関する情報を収集。最終的に入社に至った。

サイボウズ式の記事を通じて、チームワークの重要性や、次世代の働き方といったサイボウズの価値観に触れ共感したことが、入社への興味を持つきっかけになった形だ。

「グループウェアに興味がない一般の方や学生さんにも、サイボウズという企業のことを知ってもらうことが、サイボウズ式の目的です」(明石氏)。

サイボウズのように、読み物として面白く拡散力のある記事を通して、自社の存在や魅力を広める。その結果記事を読んで共鳴した求職者からの応募が増えたり、採用までの流れがスムーズになる。

こうした流れは、他の登壇企業でもある程度共通しているようだ。

オウンドメディア「木村石鹸 よもやま噺」を運営する木村石鹸工業にも、同メディアをきっかけとした採用の応募が直接届くという。

よもやま噺は、掃除のハウツー情報や自社の取り組みを紹介するブログ記事を発信している。フランクで人間味のある語り口や、「日本一掃除しがいのある汚い家に実際に行ってきた」などユニークな切り口のコンテンツが特長だ。

こうした記事によってテレビ番組やニュース記事などでも取り上げられることに成功。メディア露出は、1年で30本以上に上った。同メディアを運営する峰松加奈氏は、「採用目的で運営しているわけではありません」というものの、ブログやメディア露出を目にした人から応募が届く状態だという。

峰松氏。新卒でユニリーバに入った後、2015年に木村石鹸工業に入社した。

また「サイタ開発者ブログ」を運営するコーチ・ユナイテッドの貴山敬氏は、オウンドメディアによって情報発信を強化した結果、「こちらからの採用オファーを受けていただける確率が高まった」と話す。

同メディアでは、同社がサービス開発の際に直面した技術やマーケティング、組織運営などに関する問題点を赤裸々に明かしたユニークな記事で人気を博している。

貴山氏。業務の傍らに同メディアを運営している。

採用につながるコンテンツ作りとは?

面白いだけでは不十分、自社の価値観も伝える

今回登壇した企業によるメディアは、いずれも自社で働くことによるメリットを直接的にアピールしているわけではない。それにもかかわらず採用で一定の効果をあげている。

「読者のためにならない記事は出しません。サイボウズにまだ興味がない人を対象にしているので、読者にとって面白い記事を作ろうという編集方針です」(サイボウズの明石氏)。

とはいえ面白い記事と、自社の魅力が伝わる記事は必ずしもイコールではない。どのような考えで作っているのか?明石氏はこう語る。

「読者が読みたいというだけでなく、サイボウズの価値観も盛り込むことで、サイボウズらしくて、なおかつ多くの人に読まれる企画になるのだと思っています」。

一例としてあげたのが、今回登壇した木村石鹸工業の峰松氏に対して、明石氏がインタビューした記事

大企業であるユニリーバを飛び出して、木村石鹸工業のマーケティングに取り組んでいる峰松氏。「迷ったらドラマティックな方を選ぶ」をモットーに果敢に行動する峰松氏の生き方が、「自立」を重視するサイボウズの価値観と重なるという。

こうして拡散力がありつつも「サイボウズらしさ」がにじみ出る記事が出来た結果、それに魅了された求職者があらわれるという流れのようだ。

そもそも面白いコンテンツを作るには?

しかし多くの読者に読んでもらえるコンテンツを作ることは簡単ではない。

作成ノウハウを定型化しやすいSEO向けコンテンツと違って、読み物として面白い記事にするには、センスやより高いテクニックが求められるだろう。とはいえ、ある程度は法則としてまとめることもできそうだ。

今回の登壇企業はそれぞれ業種もコンテンツの編集方針も異なるものの、ベースとなっているノウハウには共通点が多いようにみえた。

ウォンテッドリーで採用広報を務める稲生雅裕氏は、読まれるコンテンツの重要な要素として、

  • 意外性を演出するギャップ
  • ストーリーを効果的に伝える具体性
  • 共感

の3つを挙げた。

最後に登壇したウォンテッドリーの稲生氏。

意外性を盛り込んだ一例として挙げたのが、同社でAndroidエンジニアを務める坂口諒氏の経歴について書いたこちらの社員紹介記事だ。

こうしてニトリの販売員だった僕は、Wantedlyに入社して、DroidKaigiで登壇しました。

ニトリの販売員から未経験のままエンジニアに転身し、ついにはAndroidカンファレンスのDroidKaigiに登壇した、という異色の経歴を持つ坂口氏。「ニトリ販売員」と「DroidKaigi登壇」のギャップが、読者の興味をひきつける記事になっている。

記事を執筆した稲生氏は、意外性の見つけ方についてこう話す。

「まずは坂口に関する要素を洗い出します。その中でどれとどれを組み合わせると一番離れたギャップを作れるか考えました」。

稲生氏が洗い出した坂口氏に関する要素

また次に考える要素が具体性だという。見つけたギャップを具体的なエピソードで埋めていき、ストーリーにしていくのだ。単に事実を伝えるだけでなく、その時の状況や人物の様子も描くことで、読み応えのあるコンテンツが出来上がる。

このギャップや具体性の要素は、他の登壇者によるコンテンツにもみられる。

木村石鹸工業の峰松氏も、ギャップを演出する重要性を強調する。「私たちの場合は、創業100年の老舗なのにテクノロジーを駆使しているという点です」(峰松氏)。

さらにこのギャップを具体性や共感の要素もおさえながらコンテンツ化しているようにみえる。峰松氏が書いたこちらの記事では、同氏が木村石鹸工業にてITなどを使ってマーケティングに奮闘する様子が描かれている。

年収半分、ワクワク2倍、失敗も成功も全部自分に返ってくるの最高(老舗石鹸会社に転職して一年やった事とその結果)

エピソードの具体性や面白さもあいまって、読者の共感を呼びやすい記事になっている。

具体性については、コーチ・ユナイテッドが徹底している。これは、自社だからこそ作れる独自性のあるコンテンツを追求した結果だという。

採用目的のメディアを作ることになったコーチ・ユナイテッド。同社の貴山氏は当初、コンテンツの方向性を決めるにあたって、サイバーエージェントの藤田晋社長によるブログや、医療ベンチャーのメドレーによる採用ブログなどを参考にしようとした。

しかしこれらは確かに面白いものの、藤田氏のような影響力、もしくはメドレーのような編集力が不可欠だと判断した貴山氏は、同じ路線をあきらめる。

「うちが書ける記事で、みんなが読んでくれる記事とは何だろうかと考えました」(貴山氏)。

そこで行き着いたのが、自社サービスを開発するにあたって、直面した技術やマーケティング、組織運営などに関する課題を赤裸々に明かすコンテンツ。社員数が約20人と小規模な組織だからこそ、公開に踏み切れるというわけだ。

「こんなに内部情報を出して良いの?というくらいダダ漏れな感じでやったら面白いんじゃないかと思った。だからとてもリアリティにこだわって作っています」(貴山氏)。

たとえば「すごいマニュアルを作る10個のノウハウ」では、コーチ・ユナイテッドの社内業務を例にしながらマニュアル作成ノウハウを紹介している。例として挙げられるマニュアルは、どれも同社が実際に使っている生々しいものばかりだ。

消費者同士がコミュニケーションするサービスを運営する同社には、時々警察から問い合わせがくることがあるという。その対応方法を示した警察対応マニュアル(目次)

ほかにもメール配信サービスを導入した際の検討プロセスを紹介した記事や、同社独特の間接業務の進め方を紹介した記事など、自社の具体的な事情を例にしながらも、一般的に参考になるノウハウになっている点が特長だ。

オウンドメディアによって採用につなげようとしても、「この記事によって何人採用できた」といった明確な効果を出すことは難しい。実際に今回の登壇企業は、いずれも明確なKPIは設けていなかった。

そうした中でメディアを運営する意義について社内理解をどこまで得られるか、また執筆者などのリソースや社内でのネタ元収集に向けて、いかに他の社員を巻き込めるか、といったことがコンテンツ以外の部分で非常に重要になりそうだ。

執筆:三友直樹(コンテンツマーケティングラボ編集長)

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