コンテンツを徹底的に「科学」し作り出す、クラフトフーズ社の“生きた戦略”とは?

オーストラリアはシドニーで開催された、世界最大級のコンテンツマーケティングカンファレンスのアジアパシフィック版「Content Marketing World Sydney」。最終日最初のセッションには、アメリカのイリノイ州ノースフィールドに本社を置く食品・飲料会社 クラフトフーズ社でDirector兼Media and Consumer Engagementを努めるJulie Fleischer氏が登壇した。

登壇したクラフトフーズ社のJulie Fleischer氏

Google社と協業で消費者行動を分析

クラフトフーズ社は先日公開したレポート記事 で言及された”Youtility”( 「長い付き合いのできる顧客」を作り出すために手助けする行為のこと)を重視したスマートフォン向けのアプリケーションも展開する、コンテンツマーケティングの先進的企業。Julie Fleischer氏はそんな同社のコンテンツ戦略策定のプロセスを語った。

Julie Fleischer氏によると、同社は発信するコンテンツを企業側の計画とターゲットとなる消費者がとるだろう行動を組み合わせて作成されたコンテンツカレンダーを元に、企画・制作しているという。

特に同社のマーケティングで注目に値するのは、カレンダーの一翼である、“消費者行動”を浮き彫りにする方法だ。

普通ならば、長年企業や担当者に蓄積された経験則に基づいて、「この時期にはこういうネタが刺さるだろう」という推測でコンテンツの企画が行われる場合が多い中で、同社は検索大手のGoogle社と協業し、インターネットユーザーの検索ボリュームから消費者行動を丹念に読み取るプロジェクトを行った。

すると、ほんの一例ではあるが、“欧米では一般的すぎて誰も検索していないだろう”と思われがちな『バナナブレッドの作り方』についての検索ボリュームが多い、などいくつかの意外な事実が分かったという。バナナブレッドといえば日本でいう「みそ汁」くらいメジャーなものである。経験則に基づいてコンテンツを考えていればこの視点は発見すらされなかった可能性が高い。この事例は、企業側の経験や思い込みに基づくコンテンツ企画の危うさを示唆している。

面白い!で終わらせない、コンテンツの精度を高める4つの“型”

また、同社は社内で出たコンテンツの企画案を、制作に着手する前にいくつかの“型”に一度分類するという。

グラフの縦軸を“手の込んだもの(produced)か即時性(executional)か”、横軸を“一過性のもの(perishable)、永続性のあるもの(evergreen)”とし、マトリクスを組む。

そして、このマトリクスから導出される、

  1. 手の込んだもの、かつ一過性のもの
  2. 手の込んだもの、かつ永続性のあるもの
  3. 即時性、かつ一過性のもの
  4. 即時性、かつ永続性のあるもの

という、4象限にコンテンツを当てはめる。

このように一度企画したコンテンツ案をマッピングすることで、単純におもしろいコンテンツなのか、それとも顧客を惹きつけるコンテンツになりうるのかを判断できるのではないだろうか。

おもしろい例がある。先日クラフトフーズが製造するクッキーのブランド『オレオ』がスーパーボールで起きた停電中にTwitterで配信した“暗闇でもダンクする(オレオをミルクに浸す)ことはできる”とういコピー付きの画像広告は、先ほどのマトリクスに当てはめるならば“(3)即時性かつ、一過性のもの”象限にあたるという。

そのときのツイッターの模様

このようにクラフトフーズ社ではコンテンツマーケティングを続ける中で、コンテンツだけでなくその枠組み(マトリクス)までも独自に編み出している。この枠組みがあるからこそ停電というハプニングにも即座に対応したコンテンツが生み出せた、ともいえるのではないだろうか。

コンテンツの反響が、他媒体での投資判断の材料になる。

こうして企画制作されたコンテンツを、同社はオウンドメディアで配信したら終わり、ではなく、その後アーンドメディアでどの程度シェアされるのかを計測し、そのシェアの度合いや自社CRMプログラムに参加している顧客の購買動向やプログラム内での顧客行動を検証しているという。

それらの検証を踏まえ、ペイドメディアで本格的に投資するべきかまでを判断しているというから驚きだ。

精緻な消費者行動に基づくコンテンツカレンダーの作成から、企画案のブラッシュアップ、コンテンツ配信後のフィードバックに至るまで、“コンテンツマーケティングはプロセスであり終わりがない”ということを体現している企業の生きた戦略として非常に参考になるものであった。

と同時に、“コンテンツマーケティング”という概念そのものの進化を感じるセッションであった。

執筆:岡徳之(Noriyuki Oka Tokyo

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