紙媒体を熟知するコンテンツマーケターが語る!紙媒体の「今」

今年も3月31日~4月2日に開催された世界最大級のコンテンツマーケティングカンファレンスのアジアパシフィック版「Content Marketing World Sydney2014」。これまで、「いまこそコンテンツマーケティングに戦略を持とう~Content Marketing World Sydney2014のキーノートを振り返る」、「人を動かす6つのアプローチ、「影響力の武器」とは?」と、その内容を紹介してきた。

今回は、コンテンツマーケティングにおける紙媒体のあり方について語ったNenad Senic氏によるセッションを紹介する。

Nenad Senic氏は、Content Marketing Institute(CMI)が発行する印刷物とデジタルで発行する季刊誌”CCO”(Chief Content Officer)の編集長を務めている。

あのGoogleも紙媒体でコミュニケーション! 印刷物の重要性は変わらない

Senic氏は「ウェブサービスやSNS、アプリをはじめ新しいテクノロジーが次々と登場する中、マーケティング施策として紙媒体が注目される機会は少ない。しかしながら紙媒体は今でもコンテンツマーケティングにおける強力なツールとして力を発揮し得る」と語る。「紙媒体の売上が下がっているのは事実だが、それはビジネスモデルの原因であって、コンテンツとしての紙媒体の問題ではない」。

Senic氏が紹介したデータによると、ECサイトの購買者のうち、紙のカタログを受け取った消費者は、ウェブサイトを訪れただけの消費者に比べ消費額が28%多かったという。このことからSenic氏は「人々はまだ紙の情報に触れたいと感じている」と語る。

実際に、企業が紙媒体の役割を見直す機会は過去数年で増えているという。例えばGoogleは2011年に紙のマーケティング雑誌“Think Quarterly”を立ち上げ、アメリカとイギリスにいる特定のマーケティングディレクターに配送している。

Googleが2011年に立ち上げた”Think Quarterly”の紙面。オンライン版も発行されている。

またイギリスの多国籍企業Virginグループは、ネット上で展開してきた社内報「The Roger Collective」を2013年に紙媒体に切り替えた。外回りが多く、オフィスでPCを開く機会の少ない社員による閲覧機会を増やすためだという。

Virginグループが発行する”The Roger Collective”。より自分ごととして読んでもらえるよう、読者となる従業員に積極的な記事の寄稿を促すなどの方針が特徴。

「補完」「脱売り込み」「Webでテストし紙媒体で深掘り」…紙媒体をつかったコンテンツマーケティングの今

Senic氏は、今でも紙媒体がコンテンツマーケティングで効果を発揮できることを示した事例として、いくつかの施策を紹介した。その中から3点ほど紹介したい。

紙の欠点をデジタルで補完~IKEAのケース

まず挙げたのは、紙媒体と他のチャネルを組み合わせることで、施策をより効果的にできる例として、家具販売大手のIKEAの事例だ。IKEAでは、紙のカタログ経由での購入者のうち14%が、部屋の大きさに合わないサイズ違いの家具を買ってしまうという状況があったという。そこで同社は2013年、紙のカタログと“Augmented Reality”(拡張現実)の技術を組み合わせた施策を打ち出した。家具を置く場所にカタログを置き、専用アプリをインストールしたスマートフォンやタブレットで映すことで、その位置に実寸大の家具が表示される。これによって消費者は、購入予定の家具が部屋にどのようにフィットするか、事前に確認できるようになった。「紙媒体は単なる紙切れではない。他のツールや媒体と組み合わせることで施策の可能性が広がる」とSenic氏。

「脱売り込み」を図り競合他社と差別化~イギリスの不動産エージェンシーKinleigh Folkard & Hayward(KFH)のケース

イギリスの不動産エージェンシーKinleigh Folkard & Hayward(KFH)は、競争の激しいロンドンの不動産市場で、自社ブランドの認知向上を狙っていた。そこで打ち出したのが紙雑誌“The Completely London”の発行だ。従来の不動産業界にはないユニークな出版物を目指したという同誌は、あからさまに不動産を売り込むのではなく、ロンドンの食やアートなどエリア情報の提供に徹したのだ。

この施策によってKFHは、ロンドンで不動産を探している人々によるブランド認知を劇的に上げることができたという。「コンテンツマーケティングの施策の中でも、認知獲得に成功した主要な事例の一つだ」とSenic氏。

“The Completely London”の表紙。2009年に創刊し年に3回発行。Senic氏は「初めて手にしたとき、コンテンツマーケティングの施策に対する考え方が変わった」と振り返る。

Webでテストし、紙媒体で深掘り~イギリスの職業専門家団体RICSのケース

イギリスにおける、土地や不動産、建築分野における国際的な職業専門家団体で、主にこの会員に対して、倫理基準、行動規範、技術的基準を提供する、英国王立チャータード・サベイヤーズ協会(RICS)が発行する会員向け雑誌“Modus”は、イギリスにて9.5万部以上も発行されているBtoB向け雑誌だ。Senic氏が着目するのは、紙媒体とネット版を意識的に使い分けている点だ。”Modus”では、ウェブサイトに掲載した記事で反響があった場合、それを紙媒体でさらに深堀するという方針を取っているのだ。異なるチャネルを組み合わせることで、コンテンツ発信の効果を高めた好例といえるだろう。

RICSが発行する雑誌”Modus”誌。スペインのイラストレーター集団に発注しているというデザインは、大きいサイズの写真や美しいフォントなどを駆使することによって、ビジュアルに訴えかける内容だ、とSenic氏も評価する。

Senic氏曰く「BtoBの雑誌といえば面白味のないデザインになりがちだ。しかしこの雑誌は、デザインに時間と労力を割き、より興味を惹く紙面づくりを心がけている」と語る。

これらの事例を紹介した上で、最後にSenic氏は次のように語った。「紙媒体もコンテンツマーケティングの施策としてぜひ検討してほしい。従来のようにウェブだけでなく、紙媒体も選択肢に入れることで、より多くの種類の人々と接触できる可能性が広がる」。

紙媒体の欠点をデジタル技術で補完したり、Webと紙媒体と有機的に繋げたり、はたまた紙媒体を「ユーザーの関心事」を起点に組み立てなおす…コンテンツマーケティングにおける紙媒体の最新事例はどれも実に興味深い。

Webと比べものにならないくらいの長い歴史のある紙媒体。デジタルがそのすべてを凌駕したと考えるのは早計だ。まだまだ紙媒体がコンテンツの乗る器として適しているケースはたくさんあると考えられる。ユーザーの関心事に寄り添う、という基本を常に意識し、時には紙媒体の欠点をデジタルがカバーしながら、トータルでユーザーがコンテンツにあるメッセージを受け取りやすい状況を作って行くことが大切であろう。

執筆:三友直樹(日本SPセンター)編集:野口聖晃(日本SPセンター)

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