ネットで読者の心をつかむ記事づくり、弁護士ドットコム元編集長が明かす「4つの鍵」

今回は、コンテンツマーケティング支援ツール「GinzaMetrics」を提供するGinzamarkets株式会社主催の「オウンドメディアにおけるコンテンツ企画セミナー」(2016年2月24日開催)の模様をお伝えする。

コンテンツマーケティングの一環として、企業が運営するオウンドメディア。企業発信のコンテンツを通してマーケティングゴール達成につなげるためのメディアとして、急速に存在感を増している。

オウンドメディアの重要性については、検索流入を獲得するための手段として紹介される場合が多い。グーグルの検索エンジンのアルゴリズム変更によって、上位表示に向けて質の高いコンテンツが重要になってきているからだ。

確かに正しい説明であるものの、すべてのオウンドメディアがその型で運営されているわけではない。外部サイトやSNSからの流入が大部分を占める成功例も存在する。今回のセミナーで紹介された人気オウンドメディア「弁護士ドットコムニュース」は、その代表例だ。

ニュースや生活関連のトピックを法律の視点から解説するこのメディア。親サイトである法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」の認知獲得を目的としている。

2012年の立ち上げ以来、Yahoo!ニュースへの記事配信やソーシャルメディアでの拡散によって、企業のオウンドメディアとしては絶大な集客を達成してきた。

サイトの月間訪問者数400万~600万人という数値は、検索流入コンテンツを積み重ねるだけでは達成が難しい水準だ。

この膨大なトラフィックが、一般の読者や弁護士を含む幅広い層からの認知獲得に大きく貢献している。

圧倒的な集客を実現するコンテンツ作りの秘訣とは何か?セミナーに登壇した弁護士ドットコムニュース元編集長で、現在は弁護士ドットコム顧問を務める亀松太郎氏が語った。

コンテンツをヒットさせる4つの鍵

弁護士ドットコムニュースを率いる亀松氏は大学卒業後、朝日新聞の記者などを経て、J-CASTニュースやニコニコニュースといったネットメディアでコンテンツ制作に従事。2013年に弁護士ドットコムニュースの編集長に就いた。

Ginzamarketsによるセミナーに登壇する亀松太郎氏

「コンテンツを作るときは、SEOでの流入とポータルサイトやSNSからの流入、どちらを意識するか決めることが重要」。こう話す亀松氏によると、弁護士ドットコムニュースは後者を重視してコンテンツを作っているという。

検索エンジンという機械が介在するSEOと異なり、ニュースポータルサイトやSNSという場で純粋に読者の心に響く記事作りを意識しているのだ。

そのためのポイントとして、亀松氏は次の4つを挙げている。

  1. 読者の「5W1H」を考えてみる
  2. 自分たちの「強み」を生かす
  3. 記事制作の4つの視点「タワオヤ」
  4. ネット記事は「タイトル」が9割

順番に説明していこう。

読者の「5W1H」を考えてみる

「記事を書くときは“5W1H”で考えろ、という話は新聞社でも教えられた」と語る亀松氏。

「5W1H」とは、「When(いつ)・Where(どこで)・Who(誰が)・What(なにを)・Why(なぜ)・How(どのように)」の略。事実を伝える文章を書くときに押さえるべき6つの要素だ。

ただし亀松氏がここで強調しているのは、読者を具体的にイメージするための「5W1H」だ。つまり誰に向けて発信するのか?彼らはいつどこでどのようにコンテンツに触れているのか、という具合だ。

ちなみに弁護士ドットコムニュースの読者層は男性が7割を占め、年代別では35~44歳がボリュームゾーンだという。これは同サイトへの主な流入元であるYahoo!ニュースの読者層と近くなっているためだ。

自分たちの「強み」を生かす

また競合と比べたときの自社の強みを明確にする必要があるという。「ネットはコンテンツの競争が激しい世界。徹底的に差別化を考えないと埋もれてしまう」(亀松氏)。

自社の強みを明確にする際の視点として、亀松氏は「ヒト」「モノ」「コト」の3つを挙げた。弁護士ドットコムニュースを例に説明している。

「ヒト」はメディアの運営に携わる人材や、関連する人々を指す。弁護士ドットコムニュースの場合は、マスメディアの経験者が多い点を生かして、積極的に取材を実施しているほか、弁護士とのネットワークも活用しているという。

また「モノ」は、立地条件や技術、お金などの物理的なリソース、「コト」は企業の本業における知見やノウハウを指す。

さらにこの3つを考えた上で、「本当に強みといえるのか?」「他社との差別化につながるのか?」といった観点から、その有効性を検証していく必要があるという。

記事制作の4つの視点「タワオヤ」

ここでは記事を書く際のポイントとして、「正しく」「分かりやすく」「面白く」「役に立つ」の4つを挙げている。

まず最も重要になる項目が「正しく」。企業が事実を発信する場合は、まず正しいことが大前提となるからだ。

しかし正しくても、うまく理解されなくては意味がない。そこで「分かりやすく」を考慮する必要がある。たとえば弁護士ドットコムニュースの場合、扱っている法律関連の情報は本来専門的で一般人には理解が難しい用語が多い。そこで正しさは保ったまま、分かりやすく編集することがポイントになっているという。

また分かりやすいだけでは、コンテンツ競争の激しいネット上で埋もれがちになってしまう。そこで「面白く」の要素を盛り込む必要がある。読者がその記事を人に伝えたくなるかどうかが基準の一つだという。

さらに面白いだけではなく、読者にとって「役に立つ」情報も含まれると尚良いとした。

「4つすべてが備わっていることが理想ではあるが、場合によっては面白くはないが役に立つから書くというケースもありうる。4つのうち“正しく”は必要な条件だが、残りの3つは可能な限り盛り込めば良い」(亀松氏)。

ネット記事は「タイトル」が9割

亀松氏は「ネットの記事において、タイトルは決定的に大事。その記事が読まれるかどうかを左右する」と述べ、タイトルの重要性を強調した。

タイトルをつける時のポイントは次の5つだという。

  1. 「良いタイトル」は媒体ごとに違う
  2. 見た人の脳に「映像」が浮かぶように
  3. 情報を盛り込み過ぎない(シンプルが大事)
  4. ユーザーの「感情」を少し動かす
  5. 基本は「ビッグワード」の掛け合わせ

良いタイトルは媒体ごとに違う。これは企業やメディアとしての姿勢や、読者の特徴などによって変わってくるからだという。

また2つ目のポイントについては、「タイトルを読んだ読者の頭に映像が浮かぶかどうかも重要。何らかの絵が頭に浮かび、それが動いている感じになるといい。逆に何のイメージもわかないタイトルはダメなタイトルではないか」と亀松氏は語っている。

さらに情報は盛り込みすぎず、シンプルなタイトルにまとめる必要もあるという。「一番重要な絵を思い浮かべてもらうためだ」(亀松氏)。

「ユーザーの“感情”を少し動かす」という点については、こう述べている。「感情を大きく動かそうとすると、スベったり紋切型になってしまうことが往々にしてある。少しだけ人の心を動かすという塩梅をとても真剣に考えている」(亀松氏)。

タイトルの中に2つのビッグワードを盛り込むことも重要だという。「2つのワードの組み合わせが意外であるほど、映像が頭に浮かびやすくなる」(亀松氏)。

一例として直近の時事ネタを引き合いにこう説明した。

「たとえば“スマップ×テレビ出演”では当たり前過ぎるが、“スマップ×解散”であれば意外性がありインパクトも大きくなり得るのではないか」。

さらに亀松氏は、5つのポイントを踏まえた上で事例を2つ紹介した。

一つ目の事例は弁護士ドットコムニュース。ライターがつけたタイトルに対して、亀松氏が修正案を出した記事だ。

修正のポイントについて、亀松氏はこう述べている。

「修正前のタイトルに“医師法違反で逮捕者も”とあるが、“医師法”といわれても詳しくない人にとってはピンとこない。また“レーザー脱毛に医師の指導”という部分を読んでも、考えた末にこういうことかなという気がするだけという印象だ」。

一方で修正案についてはこう説明した。

「まず“エステ”という言葉が入ったため、読者の頭に絵が浮かびやすくなったのではないか。“医者がいないエステ”という場面は具体的でイメージしやすい。一行目でイメージを持ってもらうことができれば、このタイトルは成功だ」。

また2つ目の事例として、朝日新聞によるヤフーの宮坂学社長へのインタビュー記事を紹介した。大学生の時は新聞記者志望だったという宮坂社長が、朝日新聞の面接を落とされてしまったエピソードも交えながら、ヤフーのニュース部門の狙いを語っている。

この記事のタイトルについて、SNSでの拡散を重視する弁護士ドットコムニュースならば次のように修正するとした。

「朝日新聞を受けて落ちました」ヤフー宮坂社長「ニュース」への思い

「まず“ヤフー社長”というビッグワードは外せない。もう一つは“朝日新聞”。僕はヤフーの社長が、面接で落ちた朝日新聞のインタビューを受けている点が面白いと思った」。

さらに「ただ朝日新聞ではこういうタイトルは付けない。良いタイトルは媒体によって異なるから。大事な点は、改善した理由と視点だ」と付け加えた。

一般の人には馴染みが薄く難解な法律の話題。弁護士ドットコムニュースの優れている点の一つは、これらをただ分かりやすく説明するだけでなく、時事ネタや芸能界のゴシップなど、キャッチーなトピックと結びつけることで、時に爆発的な関心を引き起こしている点だ。

独自のコンテンツ作りによって、もはや企業のオウンドメディアという狭い枠に収まらず、ネットメディアとしての評価を確立しているようにみえる。

今後企業によるコンテンツ競争がますます激しくなると予想される中で、同メディアのように自社独自の編集・運営スタイルを追求する必要性が高まりそうだ。

執筆:三友直樹(日本SPセンター)

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