インバウンドマーケティング実践者がレクチャーする、ブログ、ソーシャル、SEOを使った“ユニークなコンテンツ”のつくりかた

日本初となるインバウンドマーケティング・コンテンツマーケティングのカンファレンス「INBOUND MKTG 2013」。主催である株式会社マーケティングエンジンの代表取締役社長CEO/共同創業者 高広伯彦氏によるOpening Noteに続くのは、Panel discussion “Inbound Content Strategy & Tactics”『インバウンドなコンテンツづくり。ブログ、ソーシャル、SEOの活用と課題』。

登壇者は関信浩氏(シックス・アパート株式会社代表取締役)、清水昌浩氏(Ginzamarkets株式会社カントリーマネージャー)、栗原康太氏(株式会社ガイアックス)の3人

一見つながりがあるようには思えないメンバーだが、彼らに共通するのはインバウンドマーケティングの実践者であり、かつインバウンドマーケティングに有効なサービスの提供者でもあるということだ。

ブログ、ソーシャルメディア、SEO……既存のサービスを手段として使いながら、どのようにして魅力的なコンテンツをつくるのか、そのエッセンスを盗みたい。

ブログ:ルールは「読者にとって有益かどうか」。会社が責任をもってコンテンツを配信する。

8年間続く人気の「広報ブログ」をはじめ、「MovableType.jp」、「Zenbackブログ」など、会社や自社製品に関する全8つもの公式ブログを運営するシックス・アパート。同社はそれらに加えて、社員が自分の思いを自発的に書ける場を用意しようと、2012年3月に『Six Apartブログ』を新設した。

Six Apartブログ

同社がSix Apartブログを新設した背景には、公式にリリースする情報に対して”限界”を感じていたという理由がある。プレスリリースには定型ともいえる「型」があり、広報ブログでの見せ方もある程度決まっている。製品の魅力を自分の言葉で書きたくても、それぞれのメディアの「型」にハマらない場合は、発信できる場所がなかった。

代わりにそういった思いは、社員個人のブログやソーシャルメディアを通じて書かれるのみ。公式ブログなど、会社が持つメディアと比べると、影響力は圧倒的に少ない。会社という組織に所属して有益な情報を発信しているのに、それではもったいないと感じた(関氏)。

シックス・アパート株式会社代表取締役 関信浩氏(右)と、このセッションのモデレーターを務める高広伯彦氏

Six Apartブログには、社員が独自の言葉で語った製品の魅力や、リサーチした競合企業・製品などの業界動向、社会人向けのライフハックなど、多様な記事が並ぶ。読者が読みたいと感じる情報であれば、基本的には何を書いても構わない。

とはいえ、公式ブログゆえに、ある程度「ネタ」を選別する必要はないのだろうか。これについて関氏は「『●●について書いて』と強制するのではなく、なるべく自由に書いてもらう。義務付けるよりも、書く意欲を“くすぐる”ことが大事だ」と話す。

重視しているのは「継続性」と「楽しさ」の2つ。”業務を超えて参加してもらいたい”、”そもそも書き手として楽しめない限り、発信し続けるモチベーションを保てないだろう”、というのが関氏の考え方だ。

Six Apartブログでは月に1度、1時間半の「編集会議」が開かれる。自由参加で、アジェンダは用意されない。雑談ベースでネタ出しをするゆるい会で、全社員およそ40人のうち、毎回15人程度が参加する。様々な部門のメンバーが集まるため、ちょっとした情報交換の場ともなっている(関氏)。

会議中には「その記事はまだ書いていないから調べてみたら?」「●●さんのネタと●●さんネタをあわせたら、読み応えがあるんじゃない?」といった意見が活発に飛び交う。あくまでも、社員が読者に届けたいことを尊重しながら、より役立つコンテンツになるよう社員間で微調整が行われる。

しかし、気になる点もある。「属人的になりやすいブログだが、公的な部分とどう整合性をとるのか」という高広氏の問いに対しては、「確かに属人的にはなってしまうが、そうでなければユニークなコンテンツは生まれない」と関氏。

ただし、シックス・アパートが記事内容の吟味から公開にいたるまで、ブログの運営に大きく関わっている。つまり、コンテンツに対して会社が責任を持つとともに、オーソリティーを与えているということだ。

また、提供する情報は必ず正当なものであるようにと、強く意識されている。月に更新される6〜8本の記事はすべて入念につくり込まれており、中には14万PVを叩き出したものもあるという。Opening Noteで高広氏が語っていたように、月数本のコンテンツでも良質なものをつくれば、十分なトラフィックが生まれることを証明している。

ソーシャル:ガイドラインに則って「会社の人間」として情報発信することで、信頼される。

シックス・アパートはソーシャルの活用にも非常に積極的だ。前出の全部で9つのブログに加え、なんと17個もの公式SNSアカウントを保有・運営している。公式サイトに社員のソーシャルメディアアカウントが記載されていることも、大きな特徴のひとつだ。社員の半数にも及ぶおよそ20人が希望した上で、個人アカウントを自発的に公開している。

これは現職の社員に限らず、退職した社員についても同様で、シックス・アパートに所属していた期間とともに、退職後もアカウントはそのまま掲載され続ける。「彼らがしてきたことや、どういう立場でどんな記事を書いてきたのかについて、外部へ可視化する目的がある」と関氏。

たとえ現在は別の会社にいたとしても、当時はシックス・アパートの人間であったことは確かだ。彼らの書いた記事も残っているし、そのときになぜその記事を書いたのか、というコンテクストも明らかになる。

社員個人が積極的にソーシャルを利用する同社だが、利用に関する規定として「シックス・アパート ソーシャルメディア利用ガイドライン」を整備し、公開している。社員などの関係者を対象に、ブログを含めたソーシャルメディア・サービス全般に関わるための振る舞いや基本マナーについて定めたものだ。

シックス・アパート ソーシャルメディア利用ガイドライン

”個人情報や秘密情報を公開しない”、” 会社の不利益になるような発言は避けること”などの基本的なものから、同社が有償で提供する技術サポートサービスを守るための”サポート外の専門的な投稿をする場合には、個人としての投稿であることを明記すること”など同社ならではのものまで、9つの注意事項が定められている。

このガイドラインは、ソーシャルメディア・サービスの普及や発展のため、クリエイティブ・コモンズの「表示—継承の条件」で一般利用も許諾されている。

一方、ガイドラインからさらに対象を狭めた「公式アカウント」の運用方針も「ソーシャルメディアの公式アカウント運用方針について」というページで定められている。いずれも“なりすまし”を防ぐ目的が込められているが、目的はそれだけではない。

会社としてもリスクの担保になり、個人としても「ガイドラインに沿ったかたちで情報発信している」と示すことができる。会社に所属し、会社が定めたルールにもとづいて情報を発信することは、見る側に信頼感を抱かせるというメリットもある。

SEO:入念なリサーチで、キーワードを意識しつつ、既存のコンテンツを超える情報を提供せよ。

いま、アメリカではSEOツールのニーズが高まっているという。その背景には、インバウンドマーケティング時代の到来がある。製品に興味のある消費者は、自ら積極的に検索をしたりソーシャルメディアで見たりして、あらかじめ調べてから企業に接近してくるからだ。

日本でもこれからインバウンドマーケティングの波が徐々に大きくなってくる。コンテンツづくりをする上で、SEOは意識せずにはいられない要素となるだろう。では、SEOを意識してコンテンツをつくるためには、どんなことに気をつければよいのか。

シリコンバレーにあるGinzamarkets株式会社に所属し、日本のカントリーマネージャーとして、ひとりでSEOツール「ginzametrics」の営業からマーケティング、コンテンツづくりまで幅広く手がける清水昌浩氏は、SEO観点でのコンテンツを制作する際に意識すべきことは「ニッチなキーワードと検索する人のモチベーション」だと話す。

Ginzamarkets株式会社カントリーマネージャー 清水昌浩氏

インバウンドマーケティングをする上では、比較的ニッチなキーワードやロングテールキーワードを狙って、コンテンツをつくっていく。ビッグキーワードについては、誰もが意識しているため書き続けなくてはならないが、資産性が薄いともいえる。

清水氏は1年前に「中国 SEO」での検索を意識したコンテンツを制作し、それは現在も検索結果上位にヒットしてくるという。コンテンツをつくる前に狙いを定めたキーワードで検索し、既に存在する情報を超えるような上質なコンテンツを提供することがコツだと言う。

「中国 SEO」でのGoogle検索結果

丁寧に検索してリサーチをかけ、消費者の確かなニーズを拾い、コンテンツに落としこむことが求められる。役に立たないコンテンツを量産しても意味がない。新たにコンテンツを生み出すのであれば、消費者に見つけてもらえるような、消費者が求めるものでなくてはならない。

清水氏はコンテンツを制作するプロセスについて、「コンテンツというよりも、プロダクトを作っている感覚が強い」という。記事を書くというより、自分の持っている能力を使って、プロダクトをつくっているという意識がある。技術者でなくとも、製品とダイレクトに関わっているという実感が、コンテンツづくりのモチベーションには必要なのかもしれない。

コンテンツを読んだ後、意識的にサイトを訪問する顧客は、購買に対して前向きな状態となっている。「あの記事のことをもっと教えてほしい」と問い合わせがくればゴールは近くにあるだろう。

一方、市場の動向を先取りしたキーワードを意識して、コンテンツをつくるのはシックス・アパート。「来月あたりにこのキーワードで検索されるだろう」と予想して攻める姿勢は、まるで“編集者”のようだ。

実際にコンテンツへの流入数をウォッチすると、公開直後はSNSと検索エンジンが半々だが、後から検索がどっと増えてくる。事実を即時的に伝えるストレートニュース的な記事コンテンツはネット上にあふれている。サイトのパワーをつけるために、キーワードを意識しつつ、読んだ人が”使えるな”と思えるような有益なコンテンツをつくるべきだ(関氏)。

各コンテンツによって異なるペルソナを意識し、「もっと知りたくなる」編集で惹きつける。

インバウンドマーケティングでも、ほかのマーケティングと同じようにペルソナを設定するが、実際にコンテンツをつくるときにも、ペルソナを意識してつくるのか、またどのようにコンテンツに落としこむのか。

インバウンドマーケティングに関する情報を提供するブログ「INBOUND marketing blog」編集長を務めるガイアックスの栗原康太氏は、「もちろんペルソナは意識している」と話す。

株式会社ガイアックス 栗原康太氏

とはいえ、毎回同じペルソナを意識するとは限らない。社内的な資料には、定義が設けられ「●●な人たちには●●の情報を提供する」といった進め方が書かれている。しかし、実際には顧客から相談されたことや質問されたことを解決するような記事を書くことが多い。

読んで役に立つものになっているかどうかが、コンテンツをつくる際の一番の目標だという。ガイアックスでは2007年頃までアウトバウンド型の営業をしていた。中心となる手段はテレアポ。1日に150〜200件電話をかけても、月のリードは数件程度に過ぎなかった。

「お客様を狩りにいくというか、気持ちが焦ってくるというか、思考自体がいまと違った。お客様にサービスを提供して喜ぶというより、買ってくれる人を必死で探していたと思う」(栗原氏)と当時の心境を表現する。

アウトバウンド型の従来の営業方法からは、顧客は営業されている感を強く感じ、製品だけではなく会社、目の前の営業マンにも心を開きにくい状態にある。

ところが、ブログを開設して情報発信を始めるなど、インバウンド型の営業を始めると、公式サイトやブログを中心に、月におよそ150件のリードを獲得できるようになった。“ノウハウ”を丁寧に提供することで、潜在顧客から信頼され、向こうから近づいてきてくれる、非常に良いパターンだ。

ペルソナの設定についてシックス・アパートの関氏は、「各記事によってペルソナは異なる。ただ、最後に編集長が、顧客にどんなアクションをさせたいかにもとづいて、少し手を入れる」という。知らせたい製品があるときには記事の最後に誘導を入れる、といった具合にだ。各々の記事とマッチした出口を用意することで、顧客は欲しい情報へと行き着きやすくなる。

ヒットコンテンツの例も聞いた。シックス・アパートの代表的なものは2012年6月に書かれた「早起きの常識を覆したら、毎朝5時に起きられるようになったお話」という記事。14万PVを超え、ツイート数やいいね数はおよそ1000、はてなブックマークはおよそ1600も付いた。Six Apartブログの記事ランキングでも、ダントツの1位だ。

こうしたヒット記事を生み出すことで、大幅に知名度を上げたSix Apartブログをエントリーページにしたところ、売上が100万円を超えたという話もある。そこに「100万円売り上げよう」といった明確な意識はない。コンテンツをつくることで生まれる売上については、1年くらいで考えている、と関氏。

「むしろ売上について考えたことがない」と話すのはGinzamarketsの清水氏。コンテンツをつくったからすぐに売上、というのではアウトバウンド型と変わらず、ガツガツした印象が出る。ガイアックスの栗原氏は「半年〜1年」と見ており、”顧客の社内で使ってもらえたらいいな”、という感覚だという。あくまでも、コンテンツを見て「いいな」と感じた顧客に、近づいてきてもらいたいといったスタンスなのだ。

高広氏は最後に「オールドエコノミーマインドセットでは、企業側の都合でマーケティングを行っていたが、人々のスケジュールにあわせておこなうのが最近のマーケティング」と締めくくった。企業側ではなく、顧客側にそっと寄り添った、ニューエコノミーマインドセットを備えている企業が、潜在顧客を含めた人々の心を真につかめることが分かる。

次回は、Panel discussion “Lead Nurturing Strategy and Tactics”『見込み客育成のためのクリエイティブ、その手法と課題』のレポートへと続く。

執筆:執筆:池田園子編集:岡徳之(Noriyuki Oka Tokyo

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