IMCの父、ドン・シュルツ教授が語るコンテンツマーケティング

Content Marketing World 2013での目玉の一つは、2日目のキーノートスピーチに登壇したドン・シュルツだ。ドン・シュルツはノースウエスタン大学の名誉教授であり、IMC(統合マーケティングコミュニケーション)の父とも呼ばれている。また、コトラー、アーカーと並ぶマーケティングの3大巨匠の一人でもある。Content Marketing Worldの第1回大会から、主催者のジョー・プリッツィー氏が登壇を熱望し続け、今回ついに実現した。

“I can now write books about the stuff you think is new, but we were doing 30 years ago. Not the technology, but the content.”

「私は皆さんが新しいと思う内容の本を書くことができますが、それは実は私たちが30年前に研究していたことです。技術のことではありません。コンテンツのことです。」

言い方はやさしいが、意訳すると「君たちはつい最近コンテンツが重要だということに気付いたのかもしれないが、私は30年前にその重要性を説いてきた。(君たちはヒヨコちゃんだ)」ということになる。IMCという言葉は日本ではあまり聞かれなくなってきたように思うが、海外ではマーケティングコミュニケーションの基本的な考え方としてよく耳にする言葉だ。統合マーケティングという言葉が初めて登場したのが1989年。それまで個別に計画されることが多かったコミュニケーションチャネルを統合的にコントロールし、コミュニケーション効率を高めようという考え方である。

登壇するノースウエスタン大学のドン・シュルツ教授

ユーザーが接触するメディアが増加し、その接触時間も断片化する中で、ユーザーに求められる情報をいかに伝達するかという必要性に迫られ成長してきたコンテンツストラテジーの枠組みと共通する部分がある。だからコンテンツマーケターがマーケティングコミュニケーションの基本であるIMCから得られる知見は多いのではないだろうか。シュルツ教授の主張を見ていこう。

生活者がブランドを選ばなくなったのは不況のせいではない

シュルツ教授は種々のデータを示し、ブランド選考度と不況の間には相関関係はないということを示した。2007年から2012年における、「上位ブランド順位の変化」と「消費意欲の変化」との相関係数は-0.02。また、同期間における、「ノーブランド志向」と「消費意欲の変化」との相関係数は+0.03である。どちらも極めて0に近い数値であり、ほとんど相関関係がないことになる。

普通に考えると、ストアブランドやノーブランド商品が普及してきた状況で、2008年にリーマンショックが起こり、それらに比べて高価格であるナショナルブランド商品が選ばれない状況にますます拍車がかかったという説は感覚的にもしっくりくる。しかし、そこに相関関係はないという驚きの事実が示された。ではいったい何が原因だったのだろうか?

ソーシャルメディアに没頭しすぎたことがブランド選好度減少の一因である

「ザッカーバーグが女の子を見つけるために作ったものを、本当にブランド価値向上のために使えると思っているのか?フェイスブックは人と人とのつながりのために作られたのであって、ブランドとつながるために作られたのではない。」、「ソーシャルメディア上で、バーゲンハンターやフリービー集めの昔ながらのセールスプロモーションを行い、それをエンゲージメントという言葉でごまかしてこなかったか?」とシュルツ教授の手厳しい指摘が続く。

結局のところ、フェイスブックをはじめとするソーシャルメディアに生活者のメディア視聴時間を奪われた結果、マスメディアへの接触時間が減少し、結果的にブランドがストーリーを語る場がなくなったのではないかと続ける。データで見ても「ノーブランド志向の増加」と「トラディショナルメディアの減少」との間には高い相関関係が見られる。テレビの相関係数が-0.678、新聞が+0.707、雑誌が+0.897、DMが+0.894と高い相関関係を示している。(±0.7~±0.9は高い相関関係があることを意味する。)つまり、ソーシャルメディアの増加、トラディショナルメディアの減少、ブランド選考度の減少には強い相関関係があると結論づけた。

テクノロジーを一旦忘れて、コンテンツという原点に戻ろう。

ではどうしたら良いのだろうか?シュルツ教授の答えはシンプルだ。「今一度、ブランドはストーリーを語らなければならい。」、「ブランドを作るのはコンテンツだ。」、「コンテンツリッチな環境からブランドは生まれる。」テクノロジーはもちろん重要だが、その前に考えなければならないことが、コンテンツであり、ブランドストーリーテリングであるというのがシュルツ教授の主張だ。

シュルツ教授の専門であるIMCも現代に対応するために大きく進化しているようだ。心理モデルから行動モデルへの転換、ビックデータの活用、過去分析ではなく予測分析、ニューロマーケティングの応用などのエッセンスが紹介された。今後重要となるものとして、メディアインテンシティという指標も紹介された。これは生活者が「メディアに費やした時間」を「購買につながる影響力」で割ったもので、様々なメディアの中でブログが最も高い数値をマークしている。コンテンツマーケティングの基本ではあるが、IMCにおいてもブログの重要性が認められているようだ。

今回のキーノートで、シュルツ教授が示したのは、あくまで相関関係であって、因果関係ではないこと。IMCがどうしてもマス広告を主体に議論が展開され、情報ニーズというよりもブランドに視点が偏りがちなこと。こういったことに留意する必要はあるが、コンテンツマーケティングを実践する上で、貴重なヒントを得ることができた。またシュルツ教授の"Content Marketing is future of all marketing.”(コンテンツマーケティングは全てのマーケティングの未来だ。)という言葉は、コンテンツマーケティングに取り組む人々に非常に勇気を与えてくれるのではないかと思う。

執筆:渡辺一男(日本SPセンター)

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