「売上増はオーディエンスを確立した後で良い」、コンテンツマーケティング進化への提言

今年で7回目となるContent Marketing World(CMW)が9月5日に開かれた。今回の全体テーマはストーリーの重要性を強調した「A world of stories」だが、その中でもキーノートではその受け手であるオーディエンスについて取り上げられることが多かった。

Joe Pulizzi氏によるスピーチは、コンテンツマーケティングの歴史を振り返るところから始まった。

Joe Pulizzi氏

商品を売るのは後、オーディエンス確立が先

第1回目のCMWが開催された2011年には、Googleトレンドでは検索回数が少なかったものの、その後2012年以降少しずつ増加していき、世の中に普及していったとした。

すでにマーケティング業界の人間であれば誰もが知る手法となったコンテンツマーケティング。次の段階に進むためには、少し発想の転換が必要だとした。

商品を売るという考え方のマーケティングを一旦忘れて、オーディエンスを集めた上で、そこで何ができるかという考え方が重要だというのだ。

まずオーディエンスを増やし彼らのニーズを理解した上で、商品を開発すれば、より大きな販売につなげやすくなるという。

Joe氏が一例とした挙げたのがスターウォーズ。

当時映画のチケット販売を唯一の収益源をみていたFoxの重役は、スターウォーズ関連の商品の販売権をすべてジョージ・ルーカス監督に渡してしまった。

しかしルーカス監督は、このオーディエンスたちを相手に何が出来るかを考え、彼らのニーズに合った関連商品を開発・販売することで、チケット販売の倍以上の売上をあげることができた。

1977年~2015年の間のスターウォーズ関連の売上は、チケット販売が50億ドルにとどまるのに対し、商品販売が120億ドルにも上ったのだ。

また獲得したオーディエンスに対して、ビジネスを広げるやり方は、他の企業にも広がっているという。

オリジナルのテレビ番組制作へ10億ドルを投資することを決めたアップルや、料理コンテンツの「Tasty」で集めたオーディエンス向けに、紙の本や調理器具を販売しているBuzzfeedなどがその一例だ。

いまやメディア企業が読者に対して商品を開発して販売する時代なのだ。

Content Marketing Instite(CMI)がアンケートを取ったところ、コンテンツマーケティングで成功している企業の9割はオーディエンスを増やすことを重点的に行っているという。

Pulizzi氏はコンテンツマーケティングを次のステージに進めるためには、従来のマーケティング手法を全て忘れ、何が出来るかをゼロベースで考える必要があると締めくくった。

GEによるオーディエンス獲得施策

次の登壇者はGEでCMOを務めるLinda Boff氏。彼女はGEによるコンテンツマーケティングの取り組みを紹介したが、その中でもオーディンス獲得に関する部分を紹介しよう。

GEのBoff氏

GEといえば、知名度は高いものの、具体的に何をしているかは知られていないことが多いのではないか。そこで新たなオーディエンスを獲得する手段として、SXSWにて「バーベキューリサーチセンター」という試みを実施したのだ。

ここではおいしいバーベキューソースを科学的に作る試みや、バーベキューを食べる時の脳の様子を提示するなどした。

また1969年の月面着率時の宇宙飛行士の履いていたブーツはGE製だったとアピールするために、現代の技術で新たにブーツを開発。発売から7分で売り切れる人気だったという。

このようにBtoB企業のGEも、新たなオーディエンス獲得に動いているのだ。

差別化できる優れた施策、直観が重要

次に登壇したのはJay Acunzo氏。元々Googleでデジタル・メディア・ストラテジストを務め、現在はポッドキャストを中心にスピーカーとして活動している。

Acunzo氏によるスピーチには、新しいオーディエンスを獲得する手法を考えるためのヒントが詰まっていた。まずAcunzo氏は、現代のマーケターが陥る平均化の罠について語った。

Googleの検索結果など、誰もが取得できるノウハウだけに頼ると、その他大勢の施策しか出てこないというのだ。

たとえばTwitterに投稿する最適なタイミングを検索した時に、午後3時に投稿するのが良いという結果が出てきたとする。そうするとその時間に投稿するアカウントが増え、自分のツイートが埋もれることになってしまうのだ。

今後コンテンツマーケティングで生き残るためには、誰かの成功事例を真似するのではなく、自らの直観に従うことが重要だという。

この場合の直観とは、自分の中に蓄積された知識から生まれるもの。単なる思いつきではなく、日常の観察や学習の結果の末に湧き出るアイデアを指す。

漠然としているため分かりづらいかもしれないが、Acunzo氏はいくつかの例をあげている。

一つ目はDeath Wish Coffee Company。

同社を経営するMike Brown氏は元々コンサルの意見に従い、世間一般で人気のアラビカ種のコーヒーを打ち出したところ、自宅を売らないといけないほどに経営状況が悪化してしまったという。

再建策を考える中でBrown氏は、「一番濃いコーヒーは何か?」と尋ねる客が多かったことを思いだした。

強いコーヒーを求める人がいる場合、その理由はカフェインを欲しているから。その理由は元気になりたい。その理由は肉体的にハードワークな人たちが多いから、ということに思い至った。

これがAcunzo氏のいう直観。つまり集めた観察や学習結果からアイデアを生み出す行為だ。

この直観を元に、Brown氏が立ち上げたコーヒーブランドがDeath Wish Coffeeだ。

直観を元にしたビジネスモデル構築のポイントとして、結果ではなくプロセスを評価することが重要だという。この手のアイデアを元にしたビジネスは、短期的には失敗となることが多いからだ。オーディエンスのフィードバックを元に、少しずつ改善していく試みが重要だというのだ。

次にMarriam-Websterという辞書の会社の事例を紹介した。

同社は2016年5月、「ホットドッグはサンドイッチだ」というツイートを投稿。パンで挟んだものがサンドイッチならば、ホットドッグもサンドイッチではないか、という冗談だ。

真面目な投稿を続けていた彼らによるおかしなツイートに対して、面白がって便乗するユーザーが続出した。「アカウントが乗っ取られたんじゃないか」と突っ込むユーザーや、「ホットドッグはサンドイッチなのか?」というアンケートを取り始めるメディアが出てくるなど、ネット上が大いに盛り上がったのだ。

さらにこのトピックは大手メディアにも取り上げられ、なんと普段、辞書の企業を取り上げることなどないVogueのようなメディアでも記事化されたことで、新たなオーディエンスへの露出を増やすことができたという。

既存の考え方の枠を外して、ゼロベースで考えるべきという、冒頭のPulizzi氏の考えにも通じる施策だ。

コンテンツマーケティングも普通に取り入れられる手法として、多くの企業が取り組むようになった。その中で他社から抜きんでるためのカギは、オーディエンスの確立にあるとPulizzi氏は語る。

これは商材として適したCMIや、オーディエンスを獲得するまで持ちこたえることができる体力のある大企業には適したモデルだが、たとえばコンテンツマーケティングで有名な事例で、小さなプール施工会社のRiverpools and Spas社などには当てはまりにくいだろう。

ただ他社から抜きんでるための施策をゼロベースで考えるための切り口として、今回の考え方を検討することも重要だといえそうだ。

コンテンツマーケティングが今後どのように進化していくかに期待したい。

執筆:三友直樹(コンテンツマーケティングラボ編集長)

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