重要性を増すクレーム対策…今こそコンテンツマーケティングを活用しよう

今回取り上げるのは、2015年9月に開催されたContent Marketing Worldの専門セッション「Content as Customer Service : or Hug Your Haters(カスタマーサービスとしてのコンテンツの可能性とは?クレーマーを大切にしよう)」。登壇者はContent Marketing Worldのキーノートスピーカーも務めるJay Baer氏だ。多くのコンテンツマーケターの愛読書となっているYoutilityの著者であるJay Baer氏。顧客に一方的に商品を売りつけるのではなく、有益な情報を提供して顧客との関係を深めることで商品購入に導いていくという、コンテンツマーケティングの基本の大切さを提唱している。

セッション中のJay Baer氏。Content Marketing Worldではキーノートスピーカーも務めたことのある米国では著名なコンテンツマーケターの一人だ。SNSなどの普及に伴ってクレームが企業に与える影響も大きくなりつつある今、いかにクレームに向き合い、積極的に活用していくべきなのか、が今回紹介するセミナーの テーマだ。

インターネットを介して情報が瞬時に拡散してしまう現代…高まり続ける、クレーム対応の重要性

「製品の使い方がわかりづらい」「イメージしていた色やデザインと違う」「店員の態度が気に入らない」———製品やサービスに寄せられる意見や苦情に対応し、いわば“企業・ブランドの顔”として応対するのがカスタマーサービスの部署だ。しかしながら多くの企業・ブランドは、より多くのリソースをカスタマーサービスではなく、新しい顧客獲得などのマーケティングに費やしてしまっているのが実情ではないだろうか。Baer氏によると、全世界で毎年5,000億ドルもの予算がこのようなマーケティングに費やされているのに対し、顧客対応の予算はたった90億ドルだという。つまり多くの企業・ブランドは、既存の顧客対応に、新しい顧客獲得のためのマーケティングの約1/50の価値しか認めていないということになるのだ。そこでBaer氏はこう提言する。見込み客に対してマーケティング予算を使うのも大切だが、クレームを介して接点を持つことのできた顧客にもう少し予算を割くことを検討するべきではないか、と。

その理由の一つとして、ひとつひとつのクレームに対応することで、同じ不満を抱える多くの顧客の問題解決にも貢献することができ、結果的には見込み客にとってよりよい製品・サービスを提供することが可能になることが挙げられる。実際、登壇者のBaer氏も、自身の著書である「Youtility」を出版後、アマゾンのカスタマーレビューをチェックしたという。新着順に10個のレビューをピックアップし、改善点を抽出。それらを可視化し著書に反映することで、より効果的な内容にバージョンアップすることができたと語る。「こういった方法は、手間も時間もほとんどかからない。実際、アマゾンをチェックするのはわずか数分で済む作業だ。SNSや口コミサイト、評価サイトなどを活用し、様々な辛口コメントを集めることが、次なるコンテンツのヒントになるのだ」。

セッションでBaer氏が用いたスライドより。アマゾンのレビューから抽出したレビューで用いられた単語を自動的に分類し、図のようにその傾向を視覚的に表現するWordleというツールを活用し、レビュー内における共通項をあぶり出し改善に役立てているという。

二つめの理由は、SNSや口コミサイトの利用者が爆発的に増えていることから、悪評価が瞬時に拡散してしまいやすいという昨今のネット環境にある。一旦悪評化が拡散し炎上してしまうと、収拾するのは非常に困難だ。ゆえに、顧客対応にコストと時間をかけ、しっかりとクレームに向き合う必要があるのだ。さらに Baer氏は続ける。「クレームといかに向き合うかを考えることは、企業・ブランドのマーケティング活動にとって非常に重要だ。なぜなら適切に対応することで、単なるクレーマーから、企業・ブランドと信頼関係が結ばれた好意的な顧客(アドボカシー)獲得につながるからだ」。つまりクレームとは、マーケターにとって無視できない、“ダイヤの原石”となりうる存在なのだ。

困り事を解決したいOff Stage型と、不平不満を言いたいだけのOn Stage型…クレームは、大きく2種類に分けられる。

覚えておくべきなのは、製品やサービスに対する不満を抱えていたとしても、95%の顧客はクレームを言わず、そのまま企業やブランドから離れて行ってしまうということ。実際にクレームを発言する人は、全体の5%に過ぎないのだ。つまり、クレーマーは不満を感じている顧客の代表者であり、貴重な存在だと言える。このようにBaer氏は数多くのクレームを分析してきた結果、クレーマーは2種類に分類されることに気づいたという。

一つはOff Stage型というもので、主にメールや電話を使って企業・ブランドに直接クレームを発信するタイプ。このタイプはSNSや口コミサイトなどネット上にクレームを発信することは少なく、そのことから比較的年齢層が高い世代が多いことが推測される。クレームの目的は、主に自身の困りごとを解決するため、というシンプルなものだ。

もう一つはOn Stage型というタイプ。SNSや口コミサイトを盛んに活用し、不特定多数の聴衆に対して自身の思いや経験を拡散することを好むタイプだ。彼らはインターネットを高頻度に使用すると考えられることから、年齢層は比較的低い傾向にあることが推測される。そして彼らは問題の解決よりも、単に不満を撒き散らしたいという志向が強い。

Baer氏によるクレームの分類をコンテンツマーケティングラボにて整理した。クレームの宛先を企業のカスタマーサービス担当者としているクレームをOff Stage型、特に宛先を担当者に定めない不特定多数に向けたものをOn Stage型としている。

今後増加が予測されるOn Stage型クレーム。重要なのは、放置するのではなく“探し出し””答える”こと。

現状、問題の解決を望むOff Stage型クレームが、クレーム全体の約2/3を占めているという。一方で不満をまき散らすだけのOn Stage型クレームがものすごい勢いで増加しつつあるという。あるイギリスの調査によると2014年1月から2015年5月までの間でOn Stage型クレームが約800%もSNS上で増加したという。若い世代が電話・メールを使わなくなり、その代わりにSNSや評価サイトを利用する頻度が非常に高まっていること、様々なBtoCビジネスで評価・口コミサイトが増加していることを考慮すると、今後さらにOn Stage型のクレームは増加することが予想される。

Baer氏はさらに「クレームが持つデメリット、とくにOn Stage型のデメリットとして押さえておきたいのが、クレームが「匿名」で広く発信されてしまうことだ」と指摘する。匿名のため、クレーム対象となっている製品・サービスを特定することができず、課題解決を図ることが非常に困難になる。しかしだからといって不満の声は無視するべきではない。無視することでさらなる悪評価の拡散を招くことにもつながりかねないため、きちんと時間を割いて自社にまつわるクレームを“探し出すこと”、そして一つひとつに対して“答えること”を徹底するべきだ、と主張する。

このセッションでは、FacebookやTwitterなどSNS上を行き交う膨大なフィードから自社に対する発言を特定し、クレームを抽出するためのツールの一つとしてGeofeediaが紹介されていた。このツールはSNS上のフィード発信場所を分析することができ、検索したいエリアのフィードを抽出できるのだ。

Geofeediaは、指定したエリア内で発信されているSNS上の発言をリアルタイム検索できるツール。様々なプラットフォーム上でやりとりされている発言を地図上に表示させることで、そのエリアでどういう話題が盛り上がっているのかなどを知ることができる。

このツールの活用事例として紹介されたのが、シカゴ郊外にあるチーズケーキ店の取り組み。発端はFacebook上での次のような発言だったという。

「チーズケーキをオーダーしてから1時間半も待たされた」

この店名や場所について言及されていないただのテキスト情報からGeofeediaを用いて発言地点を特定。特定した地点が店舗であったことから自店に対する発言である可能性が高まり、自社へのクレームとして受け取った、という。

このような場合であれば、たとえば「新鮮なものをお渡しするために、オーダーをいただいてから一つひとつを手作りしているので時間がかかってしまうのです」というコメントを発信者に対して返信するのはもちろん、このようなクレームとその回答をコンテンツとして展開することが重要なのだ、とBaer氏は語った。

これからのクレーム対応のポイントは、顧客対応とコンテンツマーケティングのコラボレーションにある

On Stage型クレームが増加傾向にあると言われている中、大切なのは様々なメディアに散らばっているこれらのクレームを見つけ出し、一つひとつに対応すること。しかし今後は、さらに一歩進み“対応する”だけでなく“活用する”ことを考えるべきだ。そしてそのためには、顧客対応にコンテンツマーケティングの力をプラスすることを考えることが重要だ、とBaer氏は主張する。そうすることで、単なる“守り”のクレーム対応ではなく、新たなリードを獲得するための“攻め”のマーケティング活動へと発展させることができるのだ。

このセッションでは、この顧客対応にコンテンツマーケティングをうまく融合させた例として、音楽配信サービスであるSpotifyの事例が紹介されていた。

Spotifyは、ヨーロッパを中心として展開されている音楽配信サービス。2015年6月の時点でユーザー数が7500万人を突破したという。

「Spotifyは気に入っているけれど、実はよく使い方がわからない」というユーザーのTwitterでのつぶやきに対して、Spotifyはプレイリストのキャプチャ画像を添付したコメントを返信。一見、ただ曲名を並べたプレイリストのように見えるコメントだが、つなげて読むと「悩むことなくSpotifyで音楽配信を楽しんでほしい」旨を伝える、個人向けメッセージとなっているのだ。顧客対応窓口だけで対応すると、「申し訳ありません。不明点や問題点につきましては、コールセンターまでお問い合わせいただくか、ホームページのFAQページをご覧ください」といった定型文のコピペになってしまいがちだ。しかしコンテンツマーケティングの力をプラスすることで、受け手のためにカスタマイズされたメッセージ発信となる。そしてさらにバズを呼ぶマーケティングコンテンツとしても力を発揮することができるようになるのだ。

SpotifyからツイートのあったScott氏への返信コメント。一見、曲名が並んだただプレイリストのように見えるが、つなげて読むと「Hey Mr.Scott Welcome To The Party We’re Here For a Good Time So Don’t Worry About a Thing We’ll Be Here When You Need Us Just Shout And We Will Come Running (ヘイ、スコットさん、パーティにようこそ。良いひと時を過ごすため私たちはここにいます。だから心配しないで。私たちはここにいます。あなたが必要なときに叫べば私たちは駆けつけますよ)」というScott氏へのメッセージとなっている。音楽配信サービスという事業内容をうまく利用した、ウィットの効いた対応だ。

他に顧客対応とコンテンツマーケティングの協業不足だった例として、Baer氏の友人のエピソードも紹介されていた。

飼っていた猫が、あるメーカーの餌を食べると必ず嘔吐することを心配した友人は、メーカーに電話で問い合わせをして苦情を申し立てたという。すると「私たちが提供している商品は、専門機関によって安全だと証明された材料だけを使用しています。もしさらに詳しい情報が必要な場合は、カスタマーセンターまでお問い合わせいただくかホームページをご覧ください」という杓子定規な返答で対応された。Baer氏はこの事例から、こういった問い合わせを受けた時点で、顧客対応部門がコンテンツマーケティング部門に協力を要請するべきだと語る。なぜなら、原材料をわかりやすく表現するインフォグラフィックを作成したり、猫が嘔吐しないようにするための方法を記事にしたりといった可能性を考えることで、その他の顧客の課題解決が図れるからだ。

クレームに対して、謝罪文や回答のフォーマットから引用した杓子定規な対応をするのではなく、一人ひとりのクレーマーに対して「カスタマイズ」された適切な情報発信をすること。その発信内容をコンテンツととらえることが重要なのだ。

最後にBaer氏は「顧客のクレームを抱きしめることは、彼らが顧客であり続けることにつながる。ひいてはあなたがよりよいコンテンツマーケターであり続けることにつながるのだ」と語りセッションは終わった。

顧客のリアルな経験が詰まっているクレームには、マーケティング的にも高い付加価値がかくれていることは言うまでもないだろう。商品を実際に利用するユーザーの声を収集・整理することで、新商品開発に役立てたり、見込み客向けコンテンツ開発に活用するケースはよくあることだ。このユーザーの声はコンテンツの宝庫といってもよいだろう。

だからこそ、今押さえておくべきポイントは、SNSの発展によってクレーム自体が変容している点だ。対応しないとこれまで以上にリスクが増大する可能性があり、逆に対応することで得られるメリットも今まで以上に増える、そんな時代になった、という認識を改めて持つことが重要だろう。

今後はOff Stage型クレームをスピーディに企業が発見し、その解決手段のひとつとしてコンテンツの可能性を検討する探るケースが急増しそうだ。

執筆:隠岐由起子編集:野口聖晃(日本SPセンター)、Gunes USTUNER(日本SPセンター)

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