効果的なコンテンツを作るためのカスタマージャーニーマップ活用術

顧客体験を可視化するカスタマージャーニーマップ

カスタマージャーニーマップが大きな注目を集めている。カスタマージャーニーマップは、購買プロセスの各段階で見込み客に起こる出来事や、その際に彼らが持つ疑問や関心などを時系列で整理したものだ。

複雑化する顧客体験を簡潔なビジュアルにまとめることで、顧客体験の全体像を把握し、理解を深めることができる。またそれを関係者と共有して共通認識を持つことにも使える。これがデザインコンサルティング企業などによって紹介される、カスタマージャーニーマップの特長だ。

購買プロセスは、ウェブ上で検索やソーシャルメディア、ブログなど複数のチャネルをまたがるだけでなく、実店舗とも連携するなど複雑さを増している。また業務の縦割りが当たり前になった企業の中では、部署間を横断した協業や、個々の仕事が顧客体験にどのように影響するのかという俯瞰した視点が妨げられがちになる。「顧客体験の一部に目をとらわれてしまい、全体像の把握が疎かになっているケースが多すぎる」。デザインコンサルティング企業のAdaptive Path社は、企業のマーケティング活動について、ガイドライン「Adaptive Paths Guide to Experience Mapping」の中でこのように指摘する。

このような入り組んだ顧客体験を整理し、個別の行動モデルを作る必要性が増したことが、カスタマージャーニーマップが注目されている背景にあるといえるだろう。

カスタマージャーニーマップの一例。購買プロセスの中で見込み客の体験が、時系列で横軸に記されている。Adaptive Path社より。

上記は、鉄道チケットの販売などを手掛けるRail Europeのカスタマージャーニーマップだ。チケットの購買を思い立った段階から情報収集、予約などを経て、乗車後までの各ステップにおける行動が記されている。また各ステップで、見込み客が抱く疑問や感情なども併せて書かれており、顧客体験が横断的にまとめられている。Adaptive Path社によると、Rail Europeはカスタマージャーニーマップを使うことによって、予算やリソースを重点的に投入するべき箇所を見極めようとした。それによって顧客体験を改善しようとしたという。

カスタマージャーニーマップによって、効果的なコンテンツを作成

このように顧客体験の理解に役立つカスタマージャーニーマップだが、コンテンツマーケティング業界でも注目を集めている。調査会社のDemand Metric社は、カスタマージャーニーマップについて、こう説明する。

Most marketers know the advantage of Journey maps to enable the buyers journey. What is often overlooked is the fact that Journey Maps are powerful tools to help marketing organizations more effectively manage their content investment.

ほとんどのマーケターは、ジャーニーマップによって顧客の購買行動を改善できることは理解している。しかし、効果的なコンテンツを作るために活用できるという点は見落とされがちだ。

Adaptive Path社のようなユーザーエクスペリエンスを設計する企業によるカスタマージャーニーマップには、顧客体験の理解を念頭に、ある程度詳細に情報が書き込まれている。一方、コンテンツマーケティング業界では、コンテンツの抽出に重きを置いたよりシンプルなマップが「カスタマージャーニーマップ」もしくは「バイヤーズジャーニーマップ」として紹介されることが多い。ペルソナを縦軸、そのカスタマージャーニーを横軸に据えたシンプルなマトリクスとして使って、コンテンツを発想するのだ。

購買プロセス(横軸)とペルソナを掛け合わせたマトリクスの一例。PR20/20社より

マトリクスを使って、購入に至るまでの各ステップで、見込み客が必要とするだろうコンテンツを考える。その時のコンテンツの役割は2つ。ニーズのある情報を提供すること、次のステップへの進行を促すことだ。なんとなく「必要そうだ」と感じるコンテンツをやみくもに作るのではない。それぞれのステップに適したコンテンツに絞って作成するのだ。

例えば商品の必要性を自覚し始めたばかりの見込み客に対して、いきなり特定の商品を宣伝すると唐突に感じられてしまうかもしれない。このような初期段階では、その商品のベネフィットや魅力を説くことで、自分ごととして感じてもらい、さらに詳細に興味を持ってもらえるようなコンテンツが良いだろう。一方で、購入の一歩手前で最後の判断材料を求めている見込み客には、商品の詳細情報を分かりやすく伝えるコンテンツが最後の一押しになり得るかもしれない。いずれにしても、そのコンテンツがカスタマージャーニーのどのステップに対応して、そこでどのようなニーズに応えるのかを意識しないと、的外れで効果の薄いコンテンツを量産することになりかねない。

この手法のポイントは、必要なコンテンツを抽出するためにペルソナとカスタマージャーニーマップを組み合わせている点だ。仮にペルソナだけを使った場合、見込み客に刺さるコンテンツは抽出できるかもしれない。しかしその場合、コンテンツと各ステップとの関連があいまいになるため、購買につながるかという観点からは、的外れとなる可能性もある。しかしペルソナとカスタマージャーニーを組み合わせてコンテンツを抽出することで、「顧客視点だが購買につながらない」コンテンツが自然と除外されることになるのだ。

実際にコンテンツを発想する際は、まずは手持ちのコンテンツがマトリックスのどこに当てはまるか考えてみよう。ネット上の記事だけでなく、印刷物やツール、ホワイトペーパー、動画などあらゆるコンテンツが対象になる。

既存のコンテンツを整理することで、必要のないコンテンツ、つまり見込み客の疑問解消につながらないコンテンツを洗い出すことができる。そういったコンテンツは、見込み客の満足度を下げ、自社が購買検討リストから外されるきっかけを作ってしまうため、場合によっては削除するのが適切だろう。一方で、必要のないコンテンツを洗い出すだけでなく、販売につなげるために足りないコンテンツを把握することもできる。いずれにしても、見込み客のニーズに応えることを念頭に、明確な基準に照らし合わせてコンテンツの必要性を判断することが重要だ。

デザインコンサルティング企業が顧客体験の把握・共有のためにカスタマージャーニーマップを活用していたのに対し、コンテンツマーケティング企業ではコンテンツの抽出に重きを置いて使われることが多い。ただどちらも顧客体験の複雑化を背景に、顧客視点に立ち返って購買プロセスの全体像を描き出そうとした点は共通しているといえるだろう。

コンテンツマーケティングにおいては、ペルソナによって顧客像を明確にしつつ、カスタマージャーニーマップによって彼らの行動・体験を可視化することで、ビジネスゴールの達成につながるコンテンツを抽出することができる。これは、必要そうなコンテンツを漠然と作るような取り組みとは対照的だ。効果的なコンテンツを確実に作っていくための仕組みを作る上で、カスタマージャーニーマップは非常に重要な役割を果たすといえるだろう。

執筆:三友直樹(日本SPセンター)

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