2020年、日本のコンテンツマーケティングはどうなっていくのか?(解答編)

アメリカのコンテンツマーケティングの源流はカスタムパブリッシング

今後のコンテンツマーケティングについて語る前に、コンテンツマーケティングとは何かについてざっと確認しておこう。一番有名なコンテンツマーケティングの定義は、コンテンツマーケティングインスティチュート(以下CMI)による下記の定義であろう。

Content marketing is a strategic marketing approach focused on creating and distributing valuable, relevant, and consistent content to attract and retain a clearly-defined audience — and, ultimately, to drive profitable customer action.

コンテンツマーケティングとは、適切で価値ある一貫したコンテンツを作り、それを伝達することにフォーカスした、戦略的なマーケティングの考え方である。見込客として明確に定義された読者を引き寄せ、関係性を維持し、最終的には利益に結びつく行動を促すことを目的とする。

http://contentmarketinginstitute.com/what-is-content-marketing/

定義の中で特に重要なのは、「適切で価値あるコンテンツ」、「戦略的な考え方」、「最終的に利益に結びつく」という3つのポイントになる。またこの定義の中で、メディアについて言及されていないということもコンテンツマーケティングを理解する上で重要だ。必ずしもブログやオウンドメディアを使わなければならないという訳ではないのである。

定義については知っている人も多いと思うが、コンテンツマーケティングを理解する上で、もうひとつ重要なことがある。それはアメリカのコンテンツマーケティングの源流はカスタムパブリッシングにあるということだ。

カスタムパブリッシングとは会員誌やPR誌、機内誌など企業が出版する雑誌等を意味する。企業専用にカスタマイズされた雑誌と言うことでカスタムパブリッシングと呼ばれている。

CMIの創設者であるJoe Pulizziは初期のブログ記事でこう語っている。

Custom publishing has been the traditional US-based term for what is now known as content marketing.

… marries the marketing ambitions of a company with the information needs of its target audience.

カスタムパブリッシングとは、アメリカで長年使われてきた言葉であり、今やコンテンツマーケティングと呼ばれている考え方である。
カスタムパブリッシングは、企業側の売り込みたいという野望と、ターゲットオーディエンスの情報ニーズという、相反するものを融合させる力がある。

https://contentmarketinginstitute.com/2010/12/custom-publishing-content-marketing/

感の良い方ならお気づきだと思うが、カスタムパブリッシングが目指していた情報提供のスタイルは、「企業が伝えたいことと生活者が知りたいと思うことをコンテンツでつなぐ」というコンテンツマーケティングの情報提供スタイルと基本的には同じものになる。

というよりもカスタムパブリッシングで提唱された新しい情報提供の形が、コンテンツマーケティングの基本OSとして引き継がれたといった方が正確かもしれない。カスタムバプリッシングが唱える情報提供スタイルは斬新ではあったが、当時は基本的には紙のメディアしかなかったため、理想を実現するための手段が不足していた。

しかし時代は進み、インターネットの登場、そしてデジタルマーケティングの発展があり、それらをうまく取り込むことにより、カスタムパブリッシングが求めていた、広告モデルとは違う情報提供が実現できるようになっていった。

つまり、コンテンツマーケティングとは、昔からあるカスタムパブリッシングという確固たる考え方に、ウェブサイト、SEO、Eメール、SNS等を活用したデジタルマーケティングという新しい潮流が合流して進化したものということがいえる。このことを理解しておくと、アメリカにおけるコンテンツマーケティングの未来が理解しやすくなる。

アメリカにおけるコンテンツマーケティングの今後

さて、日本におけるコンテンツマーケティングの将来を考察する前に、アメリカにおけるコンテンツマーケティングのこれからの流れについて見ていこう。アメリカにおけるコンテンツマーケティングの状況はグーグルトレンドで見てみると下記のようになる。2018年に一旦落ち込んではいるものの、また上昇し始めている。

実はアメリカにおけるコンテンツマーケティングが進む先は明確であり、ブランドパブリッシングであるということが各所で言われている。下記はその一例になるが、コンテンツマーケティングのコンサルティング等を手がけるIMPACT社のコンテンツマーケティングの予想図になる。コンテンツマーケティングは今後、ブランドパブリッシングに向かっていくと描かれている。またブランドパブリッシングとコンテンツマーケティングの最大の違いは、それ自体で収益を上げているかどうかという点も記されている。

IMPACT社によるコンテンツマーケティングとブランドパブリッシングの関係性を表した図

ブランドパブリッシングについては、実は既に実現している企業がある。コンテンツマーケティングの事例として取り上げられることが多いレッドブルがその代表になる。レッドブルは協賛するエクストリームスポーツの情報をウェブサイトや紙の雑誌などで発信している。しかもメディア運営自体でも収益を上げているといわれている。

企業がブランドパブリッシングを目指す例は増えてきており、今年の9月のアドウィークの記事では、マリオットホテルがメディアカンパニーのようになりつつあるとレポートされている。
https://www.adweek.com/brand-marketing/marriott-is-starting-to-look-a-lot-like-a-media-company/

マリオットのように自前でメディア企業になるには時間がかかるため、手っ取り早くメディアを買収する例も増えてきている。例えばPCメーカーRaspberry Piは、雑誌「Custom PC」を買収して自社のメディアとして利用している。

アメリカの状況をまとめると、コンテンツマーケティングは、カスタムパブリッシングがもともと目指していたブランドパブリッシングに進化しようとしていることが窺える。これはカスタムパブリッシングという源流を知らないと特別なことに見えてしまうかもしれないが、源流を知ると不思議でもなんでもなく、読者を増やす、読者と直接つながるという、元々やりたかったことを目指して正統進化しているだけなのだということがわかるだろう。

日本におけるコンテンツマーケティングの将来

さて日本のコンテンツマーケティングの今後について見ていこう。同じくグーグルトレンドで日本の状況を見てみると、2016年頃にピークを迎え、その後落ち込んでいることが見て取れる。アメリカと比べてブームが来るのも遅かったが、去るのも早く、現在は輝きを失いつつあるといえる。

コンテンツマーケティング衰退を象徴するような出来事として、今年の5月にヤフーがコンテンツマーケティング撤退というニュースが流れた。

8月ごろになると、ぐるなびの「みんなのごはん」、nanapiなどの有名なオウンドメディアの更新停止や閉鎖が続々と報じられるようになった。

著名なコンテンツマーケティングの情報サイトもいつの間にかアクセスできなくなっているし、少し前になるが、日本最大級のコンテンツマーケティングソリューションと謳っていたサービスもいつの間にか終了してしまっている。

以上のような状況から考えると、残念ながら、日本ではコンテンツマーケティングは下火になっているようだ。どうしてこうなってしまったのだろう?筆者は日本のコンテンツマーケティングの発展の過程で生じた3つの微妙なズレが原因の一つではないかと考えている。

日本のコンテンツマーケティングがたどった3つの分岐路

2013年にコンテンツマーケティングの最初のブームが立ち上がってくるのだが、その頃に登場したのがバズるコンテンツだ。これまでは、TVCFのようにコンテンツの合間に広告を挟むというスタイルだったが、これからは広告とコンテンツを融合させた方が生活者に受け入れられるという考え方がコンテンツマーケティングと提唱された。この頃は、いわゆるバズるコンテンツを作る会社が有名になった時代でもある。コンンテンツマーケティングとは面白いコンテンツを作ることだと思った人も多かったのではないかと思う。

さて、バズるコンテンツの影響もあり、コンテンツマーケティングブームが到来した。そこで2013年から2014年ごろにコンテンツマーケティング関連の書籍が出版され始める。

最初に出てきたのが「オウンドメディアで成功するための戦略的コンテンツマーケティング」(翔泳社)という本だ。原題は「Managing Content Marketing」なのだが、どういうわけか日本語版にだけ「オウンドメディアで成功するための」というサブタイトルが付いている。よく考えてみるとこれはちょっとおかしい。オウンドメディアで成功することがコンテンツマーケティングの目的となってしまっている。ちなみに原書では、オウンドメディアという言葉は一度も使われていない。

次に出たのが「~編集者のように考えよう~ コンテンツマーケティング27の極意」(翔泳社)という本になる。原題はコンテンツマーケティングにおける重要な概念をそのままタイトルとして使った「Think Like a Publisher」である。翻訳者によって訳が多少異なることはよくあることだが、「Publisher」を「編集者」と訳してしまったのはいただけない。「編集者」であるならば原題はThink Like an Editorであったはずである。

しかも編集者のように考えようというのは、制作サイド側の人間として言わせてもらうならば、何を今更という次元の話である。Think Like a Publisherというのはカスタムパブリッシングからコンテンツマーケティングが受け継いだ重要な概念、つまり企業自体がパブリッシャー(情報発信の主体)になろうという考え方なのだ。

この頃は、コンテンツマーケティングのキーワードとして編集とかオウンドメディアが語られるようになったため、オウンドメディアを作ることがコンテンツマーケティングと思ってしまった人も多いと思う。

さて時代はさらに進み、グーグルの検索アルゴリズムが大きく変わった影響により、2014年から2015年にかけては、キーワード対策や被リンク対策よりも、コンテンツの質が重要ということが言われるようになった。そこで日本でだけ登場したのがコンテンツSEOという言葉だ。SEO関連の会社が盛んに喧伝したため、コンテンツマーケティング=コンテンツSEOと思い込んでしまった人も多いと思う。

以上時系列で日本のコンテンツマーケティングがたどってきた道を振り返ってきたが、バズるコンテンツも、オウンドメディアも、コンテンツSEOも、コンテンツマーケティングに内包されるものではあるが、それぞれは部分戦術であり、コンテンツマーケティングそのものではない。

アメリカのコンテンツマーケティングは、カスタムパブリッシングという太い軸があり、広告とは違った新しい情報提供の形を実現するためにデジタルマーケティングの潮流を取り入れて着実に進化してきた。一方、日本のコンテンツマーケティングは、しっかりとした軸を持たずに、アメリカの表面上の真似をしてみたものの、実質は認知獲得を重視しすぎた広告的発想から抜け出すことができなかったともいえる。

脱線した日本のコンテンツマーケティングを元の軌道にもどすために

広告脳をコンテンツマーケティング脳に入れ替えるためにはどうしたらよいのか?カスタムパブリッシングからやり直すということは現実的ではない。手っ取り早い3つの方法について紹介したい。アメリカのコンテンツマーケティングを知っている人なら、どれも聞いたことがあるような基本的な処方箋だ。

まず一つ目は、コンテンツマーケティングの考え方を小さな施策でも取り入れようということだ。先ほど紹介した書籍Like a Publisherの作者であるレベッカリーブはセミナー等でこう表現している。「コンテンツマーケティングはマーケティングキャンペーンを構成する原子のようなものだ(Content marketing is the atomic particle of all the rest of a brand’s marketing campaigns)」と。

どんな小さな施策を行う際でも、コンテンツマーケティングの全体戦略を描いた上で行うべきであり、それぞれの小さなキャンペーンも、その全体戦略に基づいた役割を担うべきであるということだ。小さな施策に、コンテンツマーケティングの原子が組み込まれているならば、ユーザーとの間に良い化学反応が起こる確率も高まるだろう。

二つ目は、ウォンツコンテンツではなく、ニーズコンテンツを作ろうということだ。この場合のニーズとウォンツは小難しいマーケティング的意味ではなく、英語の辞書に載っている意味でのニーズとウォンツになる。ウォンツはあったら欲しいもの、できれば欲しいものであり、ニーズはなくては困るものを意味する。

マーケターとしては、成功すれば爆発的なパワーを持つウォンツコンテンツを作りたいという気持ちになるのは仕方がないことかもしれない。しかしウォンツコンテンツが力を発揮できるのは、ニーズコンテンツが揃ってからの話だ。まだまだユーザーが必要としている、無くては困るコンテンツが不足していないだろうか?今一度コンテンツを見直してもらいたい。

三つ目は、ファネル の下からコンテンツを作っていこうということだ。認知を獲得したいという従来の広告脳のままだと、どうしてもファネル の上から考えてしまいがちだ。しかし認知を獲得できたとしても、それ以降の段階のコンテンツが揃っていなければ、購入につながる確率は小さくなってしまう。顧客の購買支援をしたい、最終的に利益に結びつく行動を促したいのであれば下から考えるのが近道となる。しかも下からコンテンツを整備していけば、それ以降のコンテンツが揃っているわけだから、流入した見込み客を購入に繋げやすいというメリットもある。

さて、コンテンツマーケティングを成功させるために重要な要素がもう一つある。それはコミュニティが重要だということだ。

アメリカでもコンテンツマーケティングに関して誤解している人やズレたことを言っている人は多くいる。しかし、コンテンツマーケティングワールドのような世界中から集まるイベントがあり、そこで意見を交わすことで大きなベクトルとしては同じ方向に向かって成長している。コンテンツマーケティングのように、概念的なものをうまく進化させていくためには場が重要だ。コンテンツマーケティングデイがそういった場になることを期待している。

執筆:渡辺一男

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