SEOは策を立てるより実行するほうが難しい

タイトルについては、SEOに限らずマーケティングやビジネス全般に言えることだが、このように感じることが最近増えてきた。

数年前からSEOツールのGinzaMetricsを活用している。

その関係で、Ginzamarkets社カントリーマネージャーの黒瀬淳一氏と、今年に入って何度かざっくばらんに情報交換させていただく機会があった。

その度に黒瀬氏が強調していたのは、小手先のSEOテクニックではなく、それを効果的に実行するための組織作りについてだ。

最終的な目標は何か?解決すべき課題は何か?など、そもそもの問いに立ち返った場合、必要な施策はSEOの範囲にとどまらなくなるということだ。

逆に言えばページの検索順位だけ上げても、傷口に包帯を巻くような対処療法に過ぎなくなってしまう。

この課題感は、コンテンツマーケティングを実施している立場としても共感できた。

顧客のカスタマージャーニーベースでの課題解決を前提としたマーケティングオートメーションやCRMといったテクノロジーが一般的になるにつれ、部門横断的な視点で解決策を考えざるを得ない局面が増えてきたからだ。

「確率思考の戦略論」などのベストセラーを持つマーケターの森岡毅氏が、『マーケティングとは「組織革命」である』という書籍を最近になって出されたこともタイムリーだなと個人的には感じている。

マーケティング文脈において、組織作りに関するトピックが今後ますます増えることは間違いないだろう。

SEOのインハウス化に向けた組織作りとは?

Ginzamarketsが先日主催したイベント「FOUND Conference Tokyo 2018」(7月25日開催)は、黒瀬氏が強調してきた組織作りに関する課題感をテーマにしたイベントだ。

今回はSEOのインハウス化という観点で、必要な組織作りや取り組み方について事業会社の担当者たちが語った。

イベントの冒頭で黒瀬氏はこう話す。

「本来あるべきSEOの取り組み方は会社やチームによって異なる。この辺りの情報はWebで探しても中々出てこない」。

この記事では、登壇した株式会社ウエディングパークの西山隼人氏と、スカイスキャナージャパン株式会社の中村純氏によるスピーチを紹介する。

2人ともSEOのスペシャリストだ。

彼らのような人材さえ獲得すれば、インハウス化が実現できると勘違いしがちだが、やはりそうではない。

個人が効果的な施策を立てても、それを実行するのは組織だからだ。

つまり優れた人材がいて、初めてスタート地点に立てる。

インハウス化への取り組みを検討する場合、こうした事実を十分に認識する必要があると改めて感じた。

ウエディングパークの場合

「SEOはインハウス化すべきなのか?という点については、どちらが良いとは言えない」と、ウエディングパークの西山氏は話す。

西山氏はサイバーエージェントとカカクコムを経て、現在は結婚準備クチコミ情報サイト「ウエディングパーク」にてSEOのインハウス化に取り組んでいる。

冒頭の発言の理由は、当然ながらインハウス化にはメリットとデメリットがあるからだ。

インハウス化によって、外注する場合よりも施策の実施スピードは速まる。さらに自社の環境に適した独自ノウハウが社内にたまりやすいといったメリットもある。

ただし特定の人材に依存しがちなため、その人が抜けると途端に行き詰まりやすくなる、などのデメリットもあるとした。

そこで重要になってくるのが、SEOを実行するための組織作りや社内コミュニケーションだ。

西山氏は、インハウス化に向けてまずクリアすべき障壁の一つとして、上長や役員によるSEOへの理解を挙げる。

施策の内容や結果について説明・説得する局面で、コミュニケーションをうまく図れなければ、プロジェクトの推進に支障をきたしかねないからだ。

「上長や役員がSEOについてある程度理解していないと、進めるべきではない」と西山氏は語る。

プロジェクトに取りかかるフェーズでも工夫が必要だ。

西山氏がウエディングパークに入社して取り組んだ点の一つが、SEO施策のロードマップ作成だという。

「ロードマップは必須。インハウス化による目標や期限、実現に向けたステップなどを細かく決める」(西山氏)。

施策を可視化することで、社内のメンバー間での共通認識を図るという効果がありそうだ。

またmetaタグの設定やcanonicalの使い方など、スタッフによってバラつきが生じがちな細かな作業についてはレギュレーションルールを設けるなど、施策の内容が個々人のスキルに左右されにくい体制を整えたという。

さらにこうしたレギュレーションを社内で浸透させるために、SEOに関するクイズを実施した点もユニークだ。

西山氏が作ったクイズを各チームが答えるというもの。非常に好評だったという。

「SEOを学びたいというエンジニアの方がとても多かった」(西山氏)。

「インハウス化の実現は登山のようなもの」と話す西山氏。

それも自分一人で駆け上がるのではなく、関係者全員で一段ずつ着実に登っていくイメージなのだろう。

スカイスキャナーの場合

「急成長サービスのSEOを少人数で支える」。

これが次に登壇した、中村氏(スカイスキャナージャパン株式会社)のテーマだろう。

同社は航空券やホテル、レンタカーの比較検索サービス「スカイスキャナー」を運営する英Skyscanner Ltdの日本法人だ。

中村氏は、日本法人初のSEO専門担当者としてスカイスキャナージャパンに参画。日本独自の施策の立案・実施も含め、SEO施策を中心に手がけてきた。

「マーケットNo1がゴール。まずはブランド認知拡大を目標とし、その施策の一つとしてSEOがある」(中村氏)。

中村氏の入社当時、スカイスキャナーはすでに月間利用者が6000万人(現在は7000万人)にも上る大規模なサービスだったものの、SEOの専任担当者は中村氏のみだったという。

「SEO施策は成功もあれば失敗もある。だから打ち手の数が多いほど、結果につながりやすい」と考える中村氏。

非常に限られたリソースの中で、いかに効果的な「打ち手」をより多く繰り出すかがこのケースのポイントだろう。

その点でユニークだと感じた取り組みの一つが、数ある施策候補の優先度をスコアリングするフレームワーク「ICEスコア」だ。

施策によるインパクトの大きさと仮説の信頼度、実装の難易度をもとにそれぞれ10段階で評価。平均スコアが高い施策から実施していく方針だという。

ただ当然ながら事前に確実な効果を予測することは難しい。

「分からないものは分からないので、そこに時間はかけすぎない」(中村氏)。

それよりも施策候補の全体感の整理や、社内メンバー間での認識共有につながるといったメリットもありそうだ。

より多くのSEO施策を少ないスタッフで回すための工夫は、他にもある。

スカイスキャナーでは、いわゆるT字型人材が推奨されている。たとえば中村氏のように、マーケターであってもエンジニアリングに関する知識やデータ分析スキルを持ち、一人で担当できる幅を広げることで、施策を実行するスピードをあげているのだ。

さらに作業の中で内製と外注の範囲を明確に分けてルール化するなど、個人スキルと運用方法の両面での取り組みを徹底しているようだ。

Webマーケティングに関する教科書的なセオリーやノウハウを手に入れることは比較的容易なため、それだけで差別化につながることはもはや少ない。それらを自社の文脈で使えるように応用方法を考えることが必須だ。

従来の縦割り型組織にマーケティングが収まりきらなくなっている今、組織作りの視点から応用方法を検討する場面は今後増えていきそうだ。

執筆:三友直樹(コンテンツマーケティングラボ編集長)

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