ブランド企業とメディア企業の境界線が曖昧に、直近のコンテンツマーケティング事情

2月に「マーケティング・テクノロジーフェア2018」に参加してきた。

目的の一つは、世界のコンテンツマーケティング業界をけん引する団体、米Content Marketing Instituteで代表を務めるRobert Rose氏の講演。

数々のグローバル企業によるコンテンツマーケティング施策のコンサルも手掛けるRose氏が、最近のトレンドや事例などについて話した。

前々から感じていたことだが、オウンドメディアと従来の専業メディアとの違いが益々あいまいになってきたなと、Rose氏の講演を聞いて改めて思った。

専業メディア顔負けの質の高いコンテンツを発信し、マネタイズも達成するオウンドメディア事例が増えてきたというのだ。

ただ専業メディアと違う点は、マネタイズの目的が企業としての収益増ではなく、従来コストセンターとしてお荷物だと見られがちだったマーケティング部門の自立だ。

マーケティング施策そのものでマネタイズすることで、目先の成果が見えづらい潜在層向けマーケティングを長期的に実施しやすくすることが狙いだという(コンテンツマーケティング先進国といわれるアメリカでも、そのような課題感が強いというのは少し意外だった)。

こうしたトレンドの先頭を走る企業として、Rose氏が触れたのがレッドブルだ。

Rose氏が紹介した「Content Marketing Value Curve」。横軸が施策の進化度合、縦軸が創出される価値を表しているという。右上にレッドブルがプロットされている。

この日のRose氏は同社の取り組みを詳細に紹介したわけではないが、色々調べてみると興味深い事例だったため重点的にまとめてみた。

メディア化したレッドブル

レッドブルは、エクストリームスポーツや音楽をはじめ、特定のコミュニティに特化したコンテンツを発信。発信方法は紙の雑誌やブログ、イベント開催など多岐にわたっている。

主要雑誌の「The Red Bulletin」は全世界で200万部を売り上げるほどの人気メディアだ。

雑誌「The Red Bulletin」。スケートボードや自転車競技などのエクストリームスポーツに特化している。

コンテンツによってマネタイズできる水準にまで、メディア事業に注力している。これは立派なメディア企業といえるだろう。

実際に彼らの有名な言葉として、次のようなものがある。

「われわれは飲料を販売しているメディア企業だ」(“We are media company happened to sell drink”)。

彼らのFacebookページを見てほしい。レッドブルは、自社の業種を「食品・飲料会社」ではなく「マスコミ」と設定している。

実際にコンテンツ発信の目的はあくまで企業ブランディングであり、飲料の販促ではないという。

マーケティングにおけるコンテンツの役割が世間的に増しているとはいえ、標ぼうするメイン事業をかけ変えてしまった例は中々ないのではないか。

ただしこれは単に先進企業による極端な例で、その他の企業には関係のない動きだ、とは言い切れない気もする。

レッドブルはこれまで、「メディア企業」と標ぼうできるくらい質の高いコンテンツによって、特定のコミュニティと関係を築きながらマーケティングをしてきた。

マス広告に注力してきた他の飲料メーカーとは対照的だ。

その他の事業会社が「メディア企業」を名乗る必要があるかは別として、「宣伝広告が効かない」と言われる今や、レッドブルのように強力なコンテンツマーケティングの仕組みによって、特定のコミュニティとつながる必要性は増しているだろう。

次に紹介するようなレッドブルの試みが、参考になる企業は多いはずだ。

見込客のコミュニティに入り込みマーケティング

1987年にエナジードリンクの販売を始めたレッドブルは、当初からマス広告によって見込客を引き寄せるのではなく、見込客たちが集まる場所に自ら赴くスタイルのマーケティングを実施してきた会社だ。

18~35歳の若い男性たちを主要ターゲットとして、彼らが集まるカレッジパーティーや大学、カフェなどでのサンプル配布や販売を重視してきた。

これは当時のレッドブルにとって、

  1. マス広告が高い
  2. 飲料メーカーとして後発だったため独自の施策が必要だった
  3. 一方的に宣伝されることに敏感な若年層を相手に新規市場(当時はエナジードリンクというカテゴリはなかった)を創り出すにあたって、「宣伝・マーケティング臭」のする施策では具合が悪い

などの事情があったのだろう。

最近ではエクストリームスポーツなどのイベントスポンサーやコンテンツ発信だ。

10~30代の男性が中心に集まる、かつ「翼をさずける」というブランドメッセージに合致した世界観を持つコミュニティという意味で、エクストリームスポーツは同社のマーケティングと親和性が高いのだろう。

特定のコミュニティを相手にしたレッドブルによるコンテンツマーケティングは、非常によくできているように見える。

見込客とつながり続ける施策として一般的にありがちなやり方は、レッドブル飲料のファンを集めてコミュニティを作るといったものだ。

しかしいくら飲料としてのレッドブルが人気商品だとはいえ、それについて熱心に語りたい人が多いとは思えない(自動車やカメラなどのように趣味性の高い商品ではないため)。

だからレッドブルによるマーケティング施策はその逆だ。

  • 自社を好きになってくれそうな人たちが集まるコミュニティ(カレッジパーティーやエクストリームスポーツなどのイベント)に自ら入り込み
  • そこでブランディングを目的としたコンテンツマーケティングを実施する
  • 作ったコンテンツがコミュニティの中で人気になりマネタイズできたため、マーケティング施策が「コストセンター」ではなくなる

といった好循環が出来ている。

単にコンテンツによって集客できれば良いといった表面的な施策ではないのだ。

またこうして見込客となるオーディエンスとの関係をより密接にできたため、さらなる有料イベントの開催や物販によるマネタイズ、見込客に関するマーケティングデータの収集なども容易になるだろう。

「メディア企業」として見込客層とのつながりを持ったからこそ、ビジネスの幅が広がったといえる。

今回の講演でRose氏は、コンテンツマーケティングの現状について、「コンテンツ発信が容易になった分、コンテンツを量産するだけの”Lazy Marketing”が横行している」と批判しつつ、今後目指すべき方向性について、次のように話した。

「コンテンツマーケティングによって、将来顧客となるオーディエンスを構築しなければいけない」。

エクストリームスポーツなどのコミュニティに入り込んだレッドブルのように、一旦オーディエンスとつながり続ける仕組みを持てば、潜在層である彼らに対するマーケティングを継続的に実施できるようになるからだ。

しかもコンテンツを通したマネタイズや見込み客情報の収集によって、マーケティング施策の幅を広げていくことも可能になる。

オーディエンス構築の重要性(著者作成)

こうしたオーディエンス構築の動きは、トレンドになりつつあるとRose氏は話す。

その他にもアマゾンやアップル、フェイスブック、ネットフリックスといった大手企業が数億~数十億ドル規模の投資を実施して独自コンテンツを制作するなど、事業会社のメディア化がますます加速しているというのだ。

レッドブルのように既存のコミュニティに入り込むのか、もしくは自社である程度創出するのかなど、商材の特徴やターゲティングなどによって、オーディエンス構築のやり方は変わるかもしれない。

いずれにしても潜在層となる見込客たちと、メディアを通じていかにつながり続けられるかがコンテンツマーケティングのポイントになってくる、というのがRose氏の考えだ。

そうして単発・短期の刈り取り施策に終始しがちな現状を打破することが、今のコンテンツマーケティングの課題だという。

レッドブルのように「宣伝・マーケティング臭」を出さず、見込客たちとより自然な関係性を持ち続け、長期的な成果につなげていく、というやり方をより突き詰めていく必要性が増しそうだ。

執筆:三友直樹(コンテンツマーケティングラボ編集長)

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