アメックス、アドビはなぜ、自社製品とはまったく関係のない記事コンテンツを提供するのか?

「顧客の関心事コンテンツ」の位置付け方

自社サイトやブログなど、いわゆるオウンドメディアのみならず、FacebookページやTwitterアカウントなど、発信するコンテンツの裁量が自社にあるようなソーシャルメディアを運営している企業担当者の中で、「読者に興味を持ってもらえるコンテンツってなんだ?」と苦心している方は少なくないだろう。

自社の商品に関する情報だけを発信しても、読者は興味を持ってくれない」「かといって自社と全く関係のない情報を発信しても、マーケティング施策として機能しない」その絶妙な折り合いを付けられない場合もあれば、「投稿する写真で目を引けばよいのか?」と技術を磨いてもうまくいかない場合もある。

煮詰まったときはいちど基本に立ち戻り、発信するコンテンツがどのような種類なのか分類してみよう。マーケティングのためのコンテンツには「商品情報」「商品関連情報」「顧客の関心事」と3種に大別される。

コンテンツマーケティングにおいて必要なコンテンツ類型

商品情報とは、その商品が持つ機能や特長、生まれた背景のこと。商品関連情報は、ターゲットとして想定されるペルソナが、商品や商品が属するカテゴリーを利用することによるで得られる便益(ベネフィット)のこと。ペルソナの関心事とは、商品情報とは一線を画したところにあるペルソナが持っている興味のことだ。

これら3つのコンテンツが商品情報を起点に、同心円を描くように分類される。そして、当然ながらそれぞれのフェイズで目的は異なる。自社が発信すべきコンテンツはどれにあたるのか、まずはそれを明確にしたい。

本記事では、上記概念図における「ペルソナの関心事」に該当するコンテンツを発信したい企業が、企画の実践的な場面で参考にしていただける事例を2つご紹介する。商品とは一見関係のないコンテンツに触れた読者の心の微かな動きを想像しながら、読み進めていただきたい。

アメックスのコンテンツ戦略は「短期的な効果を望まない」こと!?

アメリカン・エキスプレス(以下、略称のアメックス)は、米国に拠点を置く金融企業だが、そのアメックスが運営するメディアが「OPEN Forum」だ。

「OPEN Forum」

タグラインは“Powering small business success”。スモールサイズのビジネスを支援するという。同社は、日本ではテレビCMの影響もあってか、海外旅行先でも使えるクレジットカードの会社としての印象が強いかもしれないが、企業向けコーポレートカードももちろん手がけている。

OPEN Forumは、この企業向けコーポレートカード加入促進を目的とした小規模企業の経営者向けのコラムサイト。「Business Growth」「Social Media」「Branding」をハイライトしており、この他「Money」「Managing」「Marketing」「Technology」「The World」「Lifestyle」「Innovation」などのトピックを扱う。

2月8日時点でTop Storyとして取り上げられているのは、「Business Growth」のタグが付いた2012年に世界最大のフィットネスブランドとなったZumbaのCEOが語る成功体験。

記事“How Alberto Perlman of Zumba Turned His 20th Business Into the World’s Biggest Fitness Craze”

彼がこれまでのプロセスで学んだ“決して諦めない”“ユニークなプロダクトを見つけ出せ”“顧客以外のひとの声は気にしてはいけない”などの教訓は、経営者を奮起させるだろう。

図解でビジネススキル向上のtipsを学ぶ「Infographic」コンテンツは楽しみながら隅々まで読みたくなるキラーコンテンツが充実。

記事“6 BODY LANGUAGE MISTAKES TO AVOID”

“6 BODY LANGUAGE MISTAKES TO AVOID(やめたほうがいい6つのボディーランゲージ)”では、胸の前で腕を組むポーズは相手に保守的な印象を与え、会話中にスマートフォンを眺める様子は「あなたの話には興味がありません」という気持ちを表す、など打ち合わせでついやってしまいがちなビジネスマナー違反を知ることができる。

2月8日時点で、OPEN FORUM内の記事で最も共感を呼び、シェアされた記事は“11 Easy Ways to Finally Overcome Your Fear of Public Speaking(公衆の場で話すことへの苦手意識を克服する、11の簡単な方法)”だ。記事によるとその方法とは、“想定問答をする”“最悪のシチュエーションを想定して練習する”“大きな声で言葉を発しながら練習する”“スライドの順番を覚える”“いくつかの回答のために予備のスライドを用意しておく”など。経営者でなくとも参考にしたい記事だ。

OPEN FORUM内(少なくとも目立つところ)にはアメックスのサービスに関する記述が見当たらない。顧客の関心事でコンテンツを企画しても、直接「売り」には結びつかないため、短期的なメリットは皆無と考えられる。しかし、読者である経営者や、将来の経営者がコーポレートカードの利用を検討する際に、数多ある企業の中からアメックスを検討台に乗せてもらい、採用してもらえるかもしれない。そのような、読者の心の動きを狙って運営しているものと考えられる。

ペルソナの関心事に愚直に向き合い「なくてはならない情報源」へ

米国のアドビシステムズが運営する「CMO.com」も、ペルソナの関心事でコンテンツを企画している。

「CMO.com」

アドビ製品といえば、IllustratorやPhotoshopなどクリエイター向けの画像編集ソフトがよく知られているが、企業のデジタルマーケティングをサポートするソフトウェアも開発・販売している。CMO.comはそうした製品群のターゲットであるCMO(Chief Marketing Officer)=最高マーケティング責任者を対象とするニュースサイトだ。

「News」では、CMOならチェックしておきたい、マーケティングに関する速報記事を読むことができる。直近では、話題になった「ヤフーとグーグルの広告商品における提携」に関するニュースも取り上げられている。CMO.comがユニークなのは、速報記事の提供の仕方だ。

CMO.comに掲載された記事“Yahoo Reveals Advertising Deal With Google”

CMO.comは他のオンラインニュースサイトで掲載された記事を配信している。上記のヤフーに関する記事 も、全文を読もうとするとCNETのサイトに飛ばされる。

CNETに掲載された記事

もしもCMOに関係するニュースを毎日ピックアップ、記事化しようとすると、最低でも数人の編集記者を抱えなければいけない。そしてかなりのコストがかかってしまう。それを避けるために、各ニュースサイトに記事掲載料を支払っているものと思われる。

「CMO EXCLUSIVES」では、CMO.comでしか読めないコラム記事を提供している。執筆しているのは企業の経営者やCMOだ。例えば、最近人気の記事は、Stein + Partners Brand ActivationのCMO Ted Kohnen氏が執筆した“Super Bowl Activation Index: ‘Lights Out’ Brand Activation”。米国の一大スポーツイベント「スーパーボール」で打たれたスポットCMの批評コラムだ。

記事“Super Bowl Activation Index: ‘Lights Out’ Brand Activation”

このほか、産業ごとにニュース記事を分類した「INDUSTRY」、マーケティングに関するノウハウをまとめた「SLIDE SHOWS」、マーケティング関連のイベント情報を提供する「EVENTS」などがある。CMO.com内でアドビシステムズ社の製品を紹介しているのは、サイト上部とサイドカラムにあるバナーのみだ。

「Slide Shows」内で公開されているスライド“13 Major Marketing Trends For 2013”

CMO.comはニュース記事も掲載されるため、コンテンツ量がとても充実している。「CMOはこのサイトだけをチェックしておけば、情報収集は充分なのでは?」と思ってしまうほどだ。

「その瞬間が来るまで待つ」コンテンツマーケティング

コーポレートカードも、マーケティングサポートのソフトウェアも、いまは必要ないかもしれない。しかし読み手にとって検討の必要性が将来起きないとは限らない。いずれ来る、しかるべきときに必ず思い出してもらい「商品の関連情報」、そして「商品情報」へと歩みを進めてもらうためにこれらのコンテンツは存在する、ということを忘れてはならない。

これまで2つの事例を通じて「ペルソナの関心事」へのフォーカスを当てることの重要性をみてきた。ここで注意しておかなくてはならないことがある。それは提供するべき情報が「ターゲットとして想定されるペルソナにとって役立つものであるか」どうかという点である。いくら読者を惹きつける情報を配信してもペルソナが関心を示さなければ、それはマーケティング用のコンテンツとして失格であることを肝に銘じなくてはならない。

執筆:岡徳之(Noriyuki Oka Tokyo

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