HubSpot活用施策で受注金額が8倍増、ブイキューブの成功ノウハウは基本に忠実だった

デジタルマーケティング界隈において、マーケティングオートメーション(MA)が話題になり始めてしばらく経つが、具体的な実践ノウハウが表に出てくることは、まだ多くはない。

そういった状況において、株式会社ブイキューブの佐藤岳氏(マーケティング本部 本部長)が明かすHubSpotの活用事例はとても貴重だ。

HubSpotを毎日利用している」と話す佐藤氏。

2016年の導入から約2年半の間に、オンライン経由でのリード獲得数が2.7倍、マーケティング施策を通した受注金額は8.3倍に増えたそうだ。

これほどの成果をどのようにして達成したのか?ポイントは次の4つだという。

  • 見込客の購買行動と情報ニーズを把握する
  • コンテンツを作成・展開し、反応を確認する(テクノロジー導入はここから)
  • 数値レポートを毎週確認する
  • 自分で使えるMAを選ぶ

佐藤氏によるセッション内容は、まさに現場で使える実践ノウハウだった。詳しくみていこう。

ブイキューブの佐藤岳氏

※本記事は、コンテンツマーケティングラボによる主催イベント「Content Marketing Day」(2018年11月8日開催)のレポートです。

ミッションは商談件数の最大化

佐藤氏は、ブイキューブ製品(Web会議・テレビ会議のクラウドソリューション)のマーケティングとインサイドセールスを統括している。

つまり見込客の獲得・育成を通じた商談件数の最大化がミッションだ。

ブイキューブによる業務の流れ。最初の2フェーズ(「見込客の獲得」「見込客の育成」)が佐藤氏の担当領域。

そのためには商談を創出するマーケティング部門と、それを契約にまでつなげる営業部門とのスムーズな連携が必要になるが、佐藤氏が入社した2015年11月当時は、まだ課題があったという。

何をもって「商談」とするかの定義やROIが不明確だったことに加えて、営業部門との組織連携も不十分という状態だったからだ。

そこで佐藤氏は、次のような抜本的な解決策に乗り出した。

  • 見込客による購買行動を改めて整理する
  • そのうえで適切なコンテンツを発信する
  • 適切なコンテンツ発信などを促進するためにMA(HubSpot)を導入する
  • 上記をより実現しやすい組織体制を整える(インサイドセールス部門の立ち上げなど)

必要なコンテンツ整理や制作リソース、適切な組織体制が抜け落ちてしまうことで、せっかく導入したMAが塩漬けになってしまうケースは少なくない。

佐藤氏が紹介した知見やノウハウは非常に参考になりそうだ。

佐藤氏らによる取り組みの全体像(2015~2018年)

まずは購買行動の理解から着手

佐藤氏がまず取り組んだのが、顧客のペルソナ像と購買行動の理解だ。

ペルソナとカスタマージャーニーを作成するために、製品企画・マーケティング・営業の各部門から社員10人を集めて、ワークショップを実施したのだ。

異なる部門の視点からの情報や意見を集めることで、より立体的な顧客像を仕立て上げたほか、3部門での共通認識を図った。

カスタマージャーニーに沿ったコンテンツ案

カスタマージャーニーをベースにしたコンテンツ施策の効果は、すぐに現れ始めた。

ワークショップ後に配信したメールニュースをきっかけに、早速引き合いにつながったのだ。

問い合わせてきた顧客はメールニュースをきっかけにコンテンツに触れ、自分たちの抱いていたニーズがブイキューブ製品によって満たされることを知ったからだという。

また購買行動の後半にあたる「評価選定」フェーズ向け施策として打ち出した、製品体験セミナーも効果を発揮した。

同社によるテレビ会議システム「V-CUBE Box」を実際に体験できるセミナーを実施したところ、来場した21社のうち約半数の10社が商談化。さらに、セミナーに参加された企業の1社から3週間後に「V-CUBE Box」と「V-CUBE One」を受注。

これは担当営業スタッフにとって、上期予算の達成につながるほど大きな受注だった。

こうして顧客理解と必要なコンテンツ施策に注力した一方で、MAの選定も同時並行で進めていたという。

MA選定、ポイントは使い勝手の良さ

MA導入の狙いは、より契約につながりやすい確度の高い見込客・顧客情報を営業部門に渡すことだ。

そのためには、見込客の属性や行動をもとにしたスコアリング機能を通じて、検討熟度を数値で管理できるようにすることが重要視するポイントの一つだ。

さらに検討熟度に応じたコンテンツの出し分けなどを実施し、徐々に検討熟度を高めることを狙う機能も必要になってくる。

上記の条件などから鑑みて、MAの選定作業は、HubSpotを含む3社を対象に実施した。複数の社内スタッフが、それぞれのツールに対してポイントを付与し、最も数値が高かったツールを採用する方式だ。

その結果が次の画像だ。HubSpotが満点で、最も高い点数となっている。

特に「自分で操作できる」という実感につながった使い勝手の良さが評価されたという。

ツールの使い勝手については、HubSpot Japanの伊佐裕也氏(シニア マーケティング ディレクター)が、特長の一つ(「誰でも使える」)としてアピールした点でもある。

HubSpotの伊佐裕也氏(CMD登壇時)

こうして導入決定から約2か月の準備の末に、本番環境での活用開始までこぎ着けた。

HubSpot導入プロジェクトの概要

HubSpot活用に向けて部門間連係を強化

HubSpotを使いこなすにあたって、佐藤氏らがまず取り組んだことが、マーケティング・営業部門の連携強化だ。この連携がうまくいかず、MAの活用に失敗する例も多い。

見込客の顧客化を両部門が共同で実施することになるため、課題やその解決策についての共通認識が非常に重要になってくる

そのために16回ものミーティングを実施したという。

さらにマーケティングと営業をつなぐインサイドセールス、つまり見込客の育成・案件化を担う機能の強化も図った。

2017年4月に新設され、佐藤氏が7月からマネジメントを開始した結果、インサイドセールス部門によって、10月までの間に約1.1億円もの商談を創出することに成功した。

しかしインサイドセールスは初めての取り組みのため、当初は何から手をつけたら良いのか、メンバー一同不安だったという。

そこで、まずは活動量を増やすことで経験値を高めていく取り組みや、現在検討中の顧客へより効率的にコンタクトするために、行動データ(Webサイト閲覧やメール開封など)を活用したアプローチを開始した。

ニーズに応じた柔軟な出し分け施策

インサイドセールス部門によるナーチャリングで重要になったのが、個々のユーザーニーズに応じたクリエイティブの出し分けだ。

代表的な施策の一つが、企業サイトに表示されるトップバナーの出し分け。アクセスしてきたユーザーの業種や地域に応じて、あらかじめ決めておいたクリエイティブを表示する機能だ。

業種別での出し分け例

地域別での出し分け例

その他にも、ユーザーの行動パターンに応じたパーソナライズも実施した。たとえば「訪問回数3回以上」のユーザーに導入事例を訴求する、といった具合だ。

また「特に効果が高かった」と佐藤氏が語るのが、チャットによる個別対応だ。いわゆるチャットボットによる自動応答ではなく、実際のサポートスタッフが対応する点が特徴だ。

チャットで話しかけられた人は、人による対応に驚き、また丁寧な対応に感謝することが多いそうだ。

このような「人によるチャット」対応は、数値上の成果にもつながっている。

チャット経由で対応された見込客は、他の経路に比べ商談化率が2倍以上高く、受注単価も高い傾向にあるという。

また、HubSpotのチャットは、サポート担当者から話しかけられた訪問者のメールアドレスをCRMへ登録すると、会話の履歴が訪問者に送信される。こうした会話の履歴は、後ほど議事録として活用されることも多いという。

出し分け施策に必要なリード獲得方法

ここまで紹介してきた、見込客の属性や行動データに応じたクリエイティブの出し分け機能だが、アクセスしてきたユーザーであれば誰にでも使えるわけではない。

メールアドレスを取得済みで、なおかつ、クッキー化(フォーム送信またはメールクリック)されている必要がある。

ユーザーにメールアドレスを入力してもらうためのフックが、ダウンロードコンテンツだ。

ユーザーの情報ニーズに合わせて、適切なページにダウンロードボタンをポップアップ表示させる。たとえば特定の製品ページにその導入事例集、トップページにメルマガの購読ボタンを表示させる、といった具合だ。

さらにメールアドレスを取得した後は、メルマガによって他の関連情報を発信する。

ユーザーがメルマガ内のリンクをクリックすると、インサイドセールス部門へ通知が届くため、迅速なフォローが可能になる、という仕組みだ。

一方で「情報収集」している顧客に対して、ただ闇雲にアプローチしても成果が出ないことがわかってきたという。

そのため顧客の過去の折衝結果や商談の履歴、直近の行動履歴とHubSpotのビッグデータ解析から算出される「予測リードスコア」といった要素を複合的に評価することで、より商談化しやすい顧客のリストアップを図っている。

そうした施策のために常にHubSpotの設定を改善・調整しているとした。

ポイントは、その顧客(ペルソナ)がどのような背景や目的を持って、同社のWebサイトへ訪れているのか(カスタマージャーニー)、という考え方をインサイドセールスのメンバーがしっかり把握しつつ、顧客の課題やニーズに沿って、的確な情報提供や価値提案ができることだ。

このような取り組みを実現するために、インサイドセールスのメンバーは定期的にフィールド営業チームと話し合い、具体的な受注案件から、同社のバリュープロポジションを整理する活動を行っている。

テクノロジーの活用と共に、顧客ニーズを深く洞察し的確な提案ができるように日々の鍛錬がとても重要になるという。

タイアップ企画でCPA削減

またこうしたナーチャリング施策と同時に、オンラインを通じた新規見込客の獲得単価(CPA)を下げる試みも実施した。

2016年末にはリスティングなどの獲得系施策をやりつくし、CPAが下げ止まってしまったため、新たな施策の必要性に迫られたのだという。

それが2017年1月から始めた、ITmediaを中心とする外部メディアとのタイアップ企画だ。

Web会議やテレビ会議というクラウドサービスは、一般的に「会議」目的のツールと思われがちだが、実は「会議」以外の様々な用途やシーンでも利用されている。

そのような利活用シーンを実際の顧客事例を元に紹介し、時間と場所の制約から解放される新しい「仕事のしかた」を訴求することで、新しい需要を喚起しようとした。

ITmedia NEWS Special 新しい「仕事のしかた」シリーズ

佐藤氏によると、これらの記事を公開することで問い合わせ数が2割程度増える、という傾向をつかんだという。

この施策はリード獲得型ではないにも関わらず、記事の閲読者が同社のWebサイトにある顧客事例やブログ記事を閲覧した後、資料ダウンロードや問い合わせにまで至っていると感じたそうだ。

そこで、この傾向は、一時的であるかどうか検証する目的で、2017年下期にも以下の記事を公開したところ、やはり問い合わせ数が2割増加することを実感した。

そこで、2017年12月からは、広告配信を開始。2018年には14のコンテンツを公開した(2018年12月17日時点)。

広告効果を分析した結果、ITmedia NEWSとのタイアップコンテンツが、ディスプレイ系の施策と比べインバウンドの施策に最も貢献していることが判明したという。

GoogleやYahooのディスプレイ広告と比べ、コンバージョン数(直接・間接)が非常に多いことが分かる。佐藤氏は、「ネイティブ広告によるタイアップ記事への誘導CPCが、非常に安かった」と振り返る。

こうした「認知向上」を目的としたインバウンド施策を実施することで、カスタマージャーニーの認知から購買に至るまでの各フェーズに対応するコンテンツラインナップが揃った。

それぞれの購買フェーズに適した集客チャネルで流入させることで、購買までつながる導線が出来上がったのだ。

佐藤氏による今回のプレゼンは、マーケティングオートメーションによって成果を出すノウハウを具体的に紹介している点で、非常に貴重なものだった。

新しいテクノロジーを活用しているとはいえ、トリッキーな施策ではなく、デジタルマーケティングのセオリーに忠実なやり方を着実に実施していったという印象だ。ありきたりの言葉になってしまうが、MA活用のポイントは基本を忠実に実行するための体制づくりと継続性にあるようだ。

執筆:三友直樹(コンテンツマーケティングラボ編集長)

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