ビジネスに貢献するコンテンツを生みだすためのフレームワーク(後編)

前回は、コンテンツストラテジー開発フローを元にそれぞれの段階で必要なコンテンツの意義、方向性などを整理しお伝えしました。実際には、与件に応じて、ステップの順、比重、そもそもの必要性などを変えていく必要がありますし、必ずしもフローで示したようなリニアな流れになるわけではありません。このフローを基本形とし、商品やサービスにあわせカスタマイズされたコンテンツ戦略がパターン化されていくことが理想です。

コンテンツストラテジー開発フロー

購買検討熟度が「低い」段階にいる顧客から順に解説します。

1.「いつかは客」のための[いいね!コンテンツ]

「いつかは客」とは、将来必要になったとき当該企業の商品を選んでくれる可能性のある生活者です。この段階では、いわゆる企業イメージ、ブランドイメージを向上させるためのコンテンツ提供が中心となります。ただし、マス広告時代のイメージ広告とは異なり、WEBの表現・技術の洗練化により、ファン化や次ステップとしてのコンバージョンへとつなげることが容易になったため、購入へ向かう動機付けの端緒として機能します

したがって、ペイドメディア、アーンドメディアを活用した、オウンドメディアへの誘導が大きなミッションとなります(たとえば、Facebookのアーティクルから自社WEBへの誘導を図るなど)。

言ってしまえば、検討が未成熟な見込客の「創客」、「集客」ですが、このあとに続くコンテンツ設計により、検討速度をドライブできる可能性も高まります。

耐久消費財の販売においては、十分条件ではありません。そして、いうまでもなくコンテンツマーケティングとはここだけの話でもありません。

2.「そろそろ客」のための[自分ごと コンテンツ]

「そろそろ客」とは、企業やブランド、商品に対して必要性・欲望を自覚しはじめた顧客を指します。そして、 [自分ごと コンテンツ]とは、彼らの情報ニーズにフラグ(アテンション)を立てるコンテンツです。relevancy(関係性・自分ごと)の明示による「探客」という言い方もできます

固有の商品(自社商品)というより、商品カテゴリー総体での問題解決・ベネフィット・魅力を解きつつ、そのなかに固有商品のベネフィット、プレゼンスを埋め込んでいくようなコンテンツが求められます。

「問題・ISSUE・悩み」のフラグを立て、「あ、わたしのことだ」と気づいてもらうのもひとつの方法。典型的なものは「初めての○○選び」、「○○に成功する10の知恵」などの見出しの記事です。

いずれにしても、コンテンツ制作においては、「マーケティング目的の埋め込み」が重要な技術となるため、いわゆる「3C(顧客・競合他社・自社の状況)課題の解決」の強い認識を持ってコンテンツ設計を企図する必要があります。そこをスポイルしてしまうと、悪しきコンテンツファームとなってしまいます。

3-1.「いまはまだ客」のための[必要性刺激コンテンツ/学ぶコンテンツ]

見込客を「自分ごとコンテンツ」で呼び込めたとしても、一足とびで「比較・詳細コンテンツ」に進めてしまうと購買態度の変容がはかれない可能性が高くなります。その前に、二つのコンテンツ経験により「買いたい気持」を熟成させることが肝要です。

そのひとつが「必要性の刺激」。「その商品・サービスがいまの私にほんとうに必要かどうか?」と迷っている見込客(いまはまだ客)に対し、行動したほうが賢いことを、ロジカルに訴求するコンテンツ。もしくは、商品・サービスの生活シーンでの欠損によるダメージ、リスクを訴求するコンテンツです。そうしたコンテンツを提供することで「いまはまだ(いらない)」という態度を変容させます。

たとえば、旧型の家電製品と比べる省エネ性。動画のアーカイブが一本化できるハードウェアの利便性など。商品・サービスの導入が、顕在的な/潜在的な、生活上の問題の改善になることを、エビデンス、ベネフィット(ハードウェアのソフト語り)、テスティモニアル(推奨)などを利用し証明していく、といったコンテンツが考えられます。

言い換えれば「学ぶコンテンツ」であるといえるでしょう。アメリカの広告会社によって提唱されたFCBグリッドが定義する顧客関与度の高い商品群のうちInformativeなもの(検討情報の多い商品)の訴求手順が「学んで⇒感じる」であることと同じ発想です。

顧客関与度、FCBモデル(グリッド)とは?

アメリカの広告会社であるFCB社により提案されたコミュニケーション戦略モデル。

製品を顧客の関与度(低関与/高関与)と製品タイプ(思考型属性/感情型属性)の切り口2×2のマトリックスに分類し、各タイプにおける顧客との最適なコミュニケーション戦略を提示している。それぞれの製品タイプに別に理想的な態度変容段階モデルが設定されており、この発想がコンテンツマーケティングとシンクロする。

  • 思考型で高関与ならば、情報提示が重要。例として車や家、家電など。
    態度変容段階モデル:学習⇒感情⇒行動
  • 思考型で低関与ならば、習慣形成が重要。例として日用雑貨など。
    態度変容段階モデル:行動⇒学習⇒感情
  • 感情型で高関与ならば、イメージ訴求が重要。例とし宝石や洋服など。
    態度変容段階モデル:感情⇒学習⇒行動
  • 感情型で低関与ならば、個人的満足訴求が重要。例として食品や嗜好品など。
    態度変容モデル:行動⇒感情⇒学習

3-2.「どうしよう客」のための[欲望刺激コンテンツ/感じるコンテンツ]

2つめは、商品は必要だけれど「欲しい」という気持ちにはいたっていない「どうしよう客」へのコンテンツ刺激です。

「買いたい気持」をさらにピーク化していくための「欲望・欲求の刺激」としてコンテンツを機能させ、必要であることは自覚している客の「どうしよう」という迷いを「やっぱりいい、なにがなんでも欲しい」という決断に変容させることを企図します。

たとえば、「買った喜び」を明示し、「買わない焦燥」を煽るといったコンテツ。そのためには買った/使った姿をイメージさせる必要がありますが、有効なのはVOC(Voice of customer)の活用です。相似ユーザーの自慢話VOC、買った人と買っていない自分の致命的な差を想起させるコンテンツが効果的です。

また、必ずしもイノベーション商品やメインとなる商品特長の列挙が効くというわけでもなく、むしろその影に隠れてしまう、ちょっとしたtips(たとえば、モレスキンの拡張ポケット、システムキッチンの隠し収納ポケット)や、機能と直接関係のないデザインのディティール(Kindle paperwhiteのグリップ感、新型A Classにデザインされたスリーポインテッド・スターのサイズ)などが認知的不協和を誘発することもあります。

こちらもFCBグリッドに則れば「感じるコンテンツ」といえます。「感じて⇒学ぶ」という手順発想です。

「必要性刺激/学ぶ」、「欲望刺激/感じる」を、商品特性に応じてバランスよく配しながら、しかし、必ず両コンテンツを行きつ戻りつ経験いただいてこそ始めて次の「比較・詳細コンテンツ」が効いてくる、ということを重要なポイントとして意識する必要があります。

4.「もっと知りたい客」のための[比較・詳細コンテンツ]

「もっと知りたい客」とは、購買はほぼ決定的で、最後に相対的な判断材料を求めている見込客を指します。

そして[比較・詳細コンテンツ]とは、いわゆる従来のカタログ情報に近いものになります。ここまでくれば、あとは、自分を納得させる損得勘定、決定の正しさを確信させる情報をどれだけ多く提示できるか、といったことが重要になります。つまり、最後に背中を押すための情報です

とはいえ、この時点ですでに情報過多となってしまっている生活者に、大量の軸で提示されるスペック情報の羅列は厳しいものがあります。

大量の情報をいかに少量に見せるか、ストーリー化をはかれるか、差別化の要諦となる重要なスペックをいかに顧客の言葉に翻訳できるか、そもそも読まれやすくデザイン化できるか。こういった「読ませる技術」が重要になります。

同時に、タテ比べ(自社の過去の商品との比較)ヨコ比べ(競合他社商品との比較)が明示的でなければなりません。ヨコ比べは日本の市場には馴染まない(≒比較広告)と言われることが多いですし、実際に安易な比較は気分の悪い誹謗中傷に陥る危険もあります。好感度を維持しながら見込客の情報ニーズを満足させる比較表現の開発は、厳しい時代におけるマーケティング・ライターの命題でもあります。

いずれにしても[必要性刺激コンテンツ]、[欲望刺激コンテンツ]により、見込客にしっかりTeachできていない状態で、[比較・詳細]のための複雑な情報を提示しても、彼らにはたんなる大量の文字列にしか見えません。このことを最大限に留意すべきです。

5.「いますぐ客」のための[今ならお得コンテンツ]

「いますぐ客」とは、言うまでもなく「今日買いにきていて、最終的な決断に誰かの助力が欲しい人」です。

[今ならお得コンテンツ]は、ダイレクトマーケティングで言うオファーにあたる部分。「いまならオプション10万円分プレゼント」、「特別価格」、「特別エディション」、その他、オリジナルローン、クローズド検証、保証など経済的メリットの提供。したがってコンテンツというよりは施策ということかもしれません。

本来的には商品・サービスに対する購買意欲が高まっていない状態でオファーを提示したところで見込客にそっぽを向かれてしまいます。「いますぐ客」を顕在化するために購買フローの前半で「自分ごとコンテンツ」として提示することも場合によっては有効ですが、高額で多岐にわたる検討材料が必要な商品の場合、必ずしも集客が販売に直結するとは限りません。集客後はあらためて、「必要性」と「欲望」を刺激するコンテンツを提供し、このコンテンツ・フローに載せなおす必要があります。

じつは広告制作・コピーライティングの基本

以上が、CONTENT MARKETING LABが考える、ストラテジック・コンテンツ・フローの全体像です。コピーライティング経験がある人なら気づかれたと思いますが、このフレームは、一冊のカタログ、ひとつのWEBサイトのなかで展開していくことも可能です。

その点では、広告やカタログ制作における説得構造の原則をあらためて整理したに過ぎないと言えるかもしれませんが、一方で広告活動の原点がコンテンツマーケティングにより再起するという見方もできます。そして、再起後はもしかしたら広告とは呼ばれない手法になるかもしれません。

CONTENT MARKETING LABでは、今後も、具体的な「コンテンツ設計」、さらには「ペルソナ設計」「メディア&デバイス設計」についてのLAB WORK、を提起していきます。議論の材料としていただければ幸いです。

執筆:浦山隆行(株式会社日本SPセンター)編集:岡徳之(Noriyuki Oka Tokyo

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