欧州のマーケティング担当者らが語る、魅了的なコンテンツを提供するためのエッセンスとは

昨年11月28日、イギリスはロンドンで、コンテンツマーケティングのカンファレンス「The International Content Marketing Summit 2012」が開催された。CONTENT MARKETING LABの編集部も現地に飛び、カンファレンスに参加した背景には、北米とは異なるコンテンツマーケティングの語られ方をしているように感じたからである。

当カンファレンスのレポート前編でも語られていることではあるが、主催団体のContent Marketing Association(CMA) は、Association of Publishing Agenciesを前身とする。その名前からもわかるように、もともとの出自は出版系の会社の集合体、つまりコンテンツ編集のプロたちだ。

米国のコンテンツマーケティング界隈とはやや毛色の異なる、コンテンツ編集のバックグラウンドを持つ欧州のプロたちが集う当カンファレンス。そこで語られたエッセンスから、読者に“刺さる”コンテンツ作りの技と心を盗みたい。

Session 1 - Anticipate : The future of content
“共感性の高いストーリー”がコンテンツの核となる。

近年、コンテンツマーケティングが重要視されるようになった背景には、人々の行動と生活環境の変化がある。イギリスの広告代理店Story WorldwideのJon Kingによると、Post-advertising ageと呼ばれる今、消費者は自ら情報を目利きし、選ぶようになっただけでなく、企業発信の情報よりも消費者が発信するレビューや口コミを信頼する傾向にあるという。

よって、従来のマス広告のような、1つの簡単なメッセージを投げかけ、繰り返し刷り込むという企業目線でのコミュニケーション設計では消費者を動かすことは難しい。消費者に聞く耳を持たせるためには、コンテンツを通して、“共感性の高いストーリー”を語ることが重要だ。

素晴らしいストーリーは人の心を魅了するだけでなく、さらに“別の人に伝えたくなる”ような力を持っているという。よって、ストーリーを持ったマーケティングコミュニケ―ションは、人から人へと伝承されることにより、広いリーチを得ることができる。しかも刷り込まれたメッセージではなく、共感したストーリーとして浸透していくため、エンゲージメントも高いということがスピーカーたちのディスカッションで主張されていた。

ソーシャルメディアやスマートフォンの登場により、人とつながることがより簡単になった今こそ、ストーリーを軸に展開するコンテンツマーケティングが力を発揮する。

セッション1に登壇したStory Worldwide社のJon King氏

Session 2 - Plan : The ideal content strategy
消費者がメディアと接触する“流れ”を捉え、適切なコンテンツを配置する。

コンテンツを提供する上で、共感性の高いストーリーや、導きたいゴールへの道筋がなくては、消費者にとって有益で魅力的なものとは認識されない。専門家の間では“従来型の広告の9割はノイズと認識され、印象に残らず見過ごされている”と言われているが、いくら人を引き付けるコンテンツであっても、戦略とコンテキストに欠けていれば、同じようにノイズになってしまうだろう。

このセッションに登壇したコンテンツ制作会社 SpafaxのArjun Basu氏は、「それぞれのメディアを単体で考えるのではなく、消費者が最終的なゴールに辿り着くまでに接触するメディアとの接触点をシナリオとして洗い出し、それにあわせて戦略的にコンテンツを配置していくことが重要だ」と語っていた。ビジネスゴールを達成するためには、メディアとコンテンツがどのように消費者を動かすかを“流れ”で考えた、統合的な戦略が必要だといえるだろう。

その結果として、彼が紹介したエコシステムの中心には、“ストーリーを語るためのコンテンツ”があり、“メディアはコンテンツの適性や消費者の接触方法と掛け合わせて決めていくもの”であるという位置づけにあった。

消費者の行動やメディアの特徴を考え、適切なコンテンツ配置を行っていく戦略があってこそ、消費者にとって有益なコンテンツ提供ができるのではないだろうか。

Session 3 - Monetize : Making money out of content
Weight Watchers社のベストプラクティスから見る、収益増に貢献するコンテンツ提供のポイント。

消費者を取り巻く環境はインターネットの無料コンテンツやソーシャルメディアなどのノイズで溢れかえっている。一方、2012年は企業によるコンテンツの数も前年に比べて5倍になったというデータもある。

数多く流通するコンテンツの中で埋もれることなく、消費者に“選ばれる”コンテンツをどのように作り出していくのか、そしてどのように売り上げにつなげていくのかは、企業にとって大きな課題だ。

ヨーロッパやアメリカで成功するダイエットプログラム提供会社 Weight Watchers は、コンテンツを活用し、会員や見込み客とのエンゲージメントを図っている。

「世の中にあらゆるダイエット情報メディアがある中で、選ばれるコンテンツ提供者になるためには、情報の“信頼性=Authenticity”に着目した」とWeight Watchers EuropeのMelanie Stubbing氏は語る。「ダイエットは効果が見えないと、続けることが難しい」という会員の声に耳を傾け、会員の実体験に基づく成功事例や、商材の紹介を超えた有益な情報の提供を行ったという。

また、メディアに関しては、見込み客とブランドの接点を調べた結果、紙で発行している雑誌が最初の接点になっているケースが多いということが判明したため、ヨーロッパ圏での雑誌の発行に力をいれてきたそうだ。時代がデジタル化に向かうから流れに乗る、という考え方ではなく、どこに自社の見込み客がいるのかをしっかり分析した結果だったと言えるだろう。

この例からもわかるように、見込み客が“いつ、どこで、どのような内容のコンテンツを、どんな形で欲しがっているか”をしっかり理解すれば、売上につながるコンテンツを作り出せるのではないだろうか。

Session 4 - Engage : The power of the story
企業が伝えたいこと、消費者が考えていることの中間にある“Content hotspot”を見つける。

ストーリーとは、語り手のためにあるのではなく聞き手のためにあるものである。よって、聞き手となる消費者の思考や特徴をよく理解しておくことが重要だ。

企業が商品を売るために伝えようとしていることと、消費者が考えていることや求めていることにギャップが生じているケースを多く見かけるが、その中間地点にある“Content hotspot”を見つけだすことができれば、的確なコンテンツでストーリーを届け、エンゲージメントを図ることができるはずだ。

ISA(個人貯蓄口座)を取り扱うバークレー銀行は他社と比べて、いかに自社のISAが魅力的かを語るために、条件や利子率など複雑な数字や専門用語を多く含む説明を提供していたが、そもそもこの口座サービスについて知らない人からすると「ISAって何?」という初心者向けの説明が必要であることがわかった。このギャップこそが同社にとってのContent hotspotだったのだ。

企業が商品を売るために伝えようとしていることと、消費者が考えていることや求めていることの中間地点にある“Content hotspot”

また、Content hotspotは情報ニーズだけではなく、“誰に語りかけるべきか”というところでも発生することがある。

例えば、これから大学に進学する学生向けにバークレーのISAの案内をする場合は、学生に語りかけるよりも、これから大学生になる子供を持つ親へ語りかけたほうが効果的だったという。これは単純に親のほうが銀行口座に関する知識があったらというだけでなく、子供が進学するにあたり、信頼できる銀行を選ぶことで、今後の子供の成長や素晴らしい大学生活につながるという、感情的なメッセージが伝わった結果だった。

的確なオーディエンスは誰なのかを見つけ出し、関連性の高いストーリーを投げかけ、人の心を動かすことができれば、購買意欲をそそることができるのではないだろうか。

Session 5 - Create : The vital role of the content creative
人を魅了するためのコンテンツ企画・制作・編集とは?

コンテンツマーケティングを取り入れるには、従来の広告モデルにはなかった、消費者を引き込むような企画力・制作力・編集力が問われる。その際に参考にしたいのが、雑誌の編集方法だ。

このセッションの講演者の一人として登壇したのは、ファッショナブルなライフスタイルを支える英国の『STYLIST』という雑誌の編集者 Lisa Smosarski氏。彼女曰く、「既成概念にとらわれない思考で考え、今までにないようなコンテンツを作り上げていくこと」が、メディアとして成功する秘訣だそうだ。STYLISTの成功の鍵を握るのは、5つのルールだという。

  1. 購読者と交流を持つこと。
  2. 毎号「最高」を追求しつつけること。
  3. イベントに合わせた内容にすること。
  4. 他のクリエイティブエキスパートと一緒に協業すること。
  5. 現在の栄光に満足しないこと。

結果として、STYLISTは、1冊まるまる読者の投稿や意見を反映させた100号目の記念号や、AR(Augmented Reality)=拡張現実の技術を活用したオリンピック特集など、印象的なコンテンツで素晴らしい反響を得ることができたという。斬新な姿勢でコンテンツを届け、毎号読者に新しいエクスペリエンスを提供してきたからこそ、読者に愛される、エンゲージメント性の高いメディアとして成功したのだろう。

カバーのデザインも読者の作品から選んだ記念すべき第100号(右)
ARを使い、アプリをインストールしたスマートフォンをかざすと動画が流れ出す仕組みを取り入れたオリンピック特集号(左)

ここまで、いかがだっただろうか?米国での概念に対して、ややエモーショナルで、アーティスティックな感覚でコンテンツマーケティングが語られているのがお分かりだろう。

いかがだっただろうか?このカンファレンスでは、ストーリーを軸にしたコンテンツの展開により、いかに消費者にとって有益で、共感性の高いコンテンツを提供していくかということが大きなトピックスになっていた。コンテンツを制作するだけではなく、適格なタイミングと媒体を見極めて提供する「編集力」も大切であることを改めて感じさせられたカンファレンスであった。

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