小さい成功体験の繰り返しが秘訣…コンテンツマーケターに学ぶ鉄則

1月22日、Ginzamarkets主催の『FOUND Conference in Tokyo』が開催された。同カンファレンスは「コンテンツマーケティングの現在と今後について考える」をコンセプトに、シリコンバレーやニューヨークなどで開催されており、今回アメリカ以外で初めて、東京にて開催されたカンファレンスだ。

今回レポートする第二部では「コンテンツマーケティングの概念を社内に浸透させ、活動を開始すること」と題し、東急リゾートグループリーダーの浅羽秀樹氏、パソナプロモーション企画マネージャーの森川芳樹氏、千趣会イイハナウェブプロデューサーの二ノ宮博士氏、モデレーターとして、マーケティングエンジンセールスマーケティングマネジャーの森田裕美氏が登壇した。トークセッションの内容についてレポートする。

左より浅羽氏、森川氏、二ノ宮氏、森田氏

認知から顧客獲得まで…三社三様のコンテンツマーケティングに取り組んだ理由

3社とも、コンテンツマーケティングに最近注力し始めた企業だ。これまでのウェブマーケティングと異なる取り組みを、なぜ選んだのか。

東急リゾートの浅羽氏は自社における導入の要因を内外に切り分けて語った。外的要因として挙げられるのはリーマンショック以降の景気の影響により、リゾートに関する意識が低下している、という点。内的要因としては、問い合わせの7-8割がWeb経由であるなかリスティング広告は大きく貢献しているが、よりコンバージョン率を向上させたいという点である。これら要因からコンテンツマーケティングに期待したいと考えている。

新規顧客獲得のために、新しい施策としてコンテンツマーケティングを実施していると語る、東急リゾートグループリーダーの浅羽秀樹氏

東急リゾートでは、リゾートの選び方などの物件選びガイドなどをもとに、コンテンツをサイト内で発信している

パソナは、派遣や転職などを斡旋する事業を展開している。そもそも転職などのイベントは人生でも数少ない出来事のひとつである。この数少ないイベントに対して、パソナとして広告の費用対効果を考えながら、企業の認知向上・企業のブランド価値や信頼性を高めるには、と考えたことがきっかけだと森川氏はいう。

「ウェブのゴールは派遣を増やすこと。認知、理解、登録というそれぞれのフェーズがあるが、とくに登録という新規顧客獲得への取り組みが足りていないことが課題だった。コンテンツマーケティングを通じて、見込顧客とのエンゲージメントを高め、登録数を増やすことが目的」(森川氏)

フラワーギフト事業を手がけている千趣会イイハナは、一般男性におけるフラワーギフトの認知が高くないという課題があった。どういった時にフラワーギフトを行うのか、どのようなシチュエーションだと喜ばれるか。ギフトの啓発活動を通じてギフト購入者を増やすために、コンテンツマーケティングによって販路と認知が拡大するのではと二ノ宮氏は考えた。

「園芸やガーデニングに関する情報、花の手入れやフラワーギフトの作法などのハウツー知識を発信している。ユーザーに楽しんでもらうことを軸にコンテンツ制作を行ない、自社の認知やフラワーギフトの機会提供を行っていきたい」(二ノ宮氏)

社内理解を浸透させるために必要だった啓発活動

コンテンツマーケティングを実施するにあたり、社内の反応や調整はどうだったのか。パソナの森川氏は、さまざまな分野の情報収集を日々している中で、早い段階からコンテンツマーケティングの重要性に気づいたという。しかし、社内のコンテンツマーケティングに対する認知は低く、当初は理解が得られなかったという。そこで、1年以上かけてコンテンツマーケティングに関する情報やニュースなどを社内に発信し啓発した結果、熱意が通じて理解者が増え実施へと至ることができたという。

社内でのコンテンツマーケティングの理解を浸透させるための地道な啓発活動が効いてきている、と語るパソナプロモーション企画マネージャーの森川芳樹氏

パソナでは、派遣のハウツー情報やQ&Aなどの情報を網羅したページを運営している。

千趣会イイハナの二ノ宮氏も、コンテンツマーケティングに対する社内の理解は浅く、ブランディング効果や売上への影響を理解してもらうのは難しかったという。しかし、二ノ宮氏がもともとSEOを担当する部署にいたことからSEOへの理解は社内にあり、コンテンツを通じてSEOの効果が高まる、といったことから取り組みに対する理解へとつなげていったという。

逆に東急リゾート内では、戦略立案の中でコンテンツマーケティングへの理解はすでにあり「早くやったほうがいい」という意見が大きく、大きな反対はなかったと浅羽氏は語る。

「コンテンツマーケティングは、さまざま戦略の中の一つの位置づけだと考えており、大きくはインバウンドマーケティングとして社内には説明している。もともと「インバウンド」は「外国人向けの別荘」という意味の業界用語でもあったため、当初はインバウンドという言葉では意味のすれ違いはあったが、概ね理解は示された」(浅羽氏)

運営体制の基本は「数名の社内担当者」+「パートナー」

3社それぞれがコンテンツマーケティングを実施し始めた中で、制作体制はどのように築いているのか。千趣会イイハナの二ノ宮氏は、コンテンツマーケティングに関する社内の理解と予算の関係から、社内外で協力してくれる人達の助言をもとに一人で運用しているという。コンテンツに関しては、社内でヒアリングしたり、普段から関係のある外部のライターや専門家に、テーマを絞って原稿を依頼したりしている。

「自分がやりたいと社内で通したこともあり、自分一人で完結するようにしている。一人で活動しているためスピード感をもって運用でき、ある程度自由にやらせてもらっているので承認も取りやすい」(二ノ宮氏)

東急リゾートの浅羽氏は、コンテンツ制作はすべて外注し、自社で戦略を考えるといった切り分けを行っているという。コンテンツマーケティング実施からまだ日が浅いが、今後の運用の展開を考えると規模感は大きくなると予測。当初から制作は外注して自社でコントロールすることで、戦略とコンテンツそれぞれの成果も見えてくるのではと考えている。

パソナの森川氏は、現在は担当は1人だが兼任で2、3人が内部で関わっているという。制作に関しては、編集プロダクションとコミュニケーションを通じてコンテンツの方向性を確認し、編集プロダクション経由でライターなどへ原稿を依頼している。

「これまで、パソナではライティングの外注をほとんどしてこなかった。パソナとしてのトーン&マナーにある程度合わせる必要はあるが、あまりトンマナを重視しすぎるとせっかくのコンテンツの面白さも半減する。どこまでトンマナを守っていくかを考えながら、編集プロダクションの方と日々やりとりをしながら、それまでのパソナとは違った面白さを伝えていきたい」(森川氏)

ミニマムの予算による実施から、成功体験の積み重ねによる社内理解を広めることが大事

質の高いコンテンツを制作していくためにも、予算確保は重要だ。社内の体制や社内の理解に応じて状況は変わる中、三社ともどのように予算確保を行っているのか。

東急リゾートの浅羽氏は、既存のマーケティング関連の予算から捻出しているという。コンテンツマーケティングを始めたばかりのため、どのくらいの予算になるかは運用しながらこれから調整していくと語る。

千趣会イイハナの二ノ宮氏は、ウェブ制作費の一部や、他の予算を削りながら低予算で制作にあたっているという。1人での運用のため、必要最低限の予算を確保しながら、まずは成果を出していくことが大事であり、成果を出し今後の予算確保を容易なものにしていきたい、と考えている。

社内での理解をもとに、デザインやコーディングなどを1人で実施しながら、成果を出すために日々奔走していると語る、千趣会イイハナウェブプロデューサーの二ノ宮博士氏

季節毎の特集や、お花の手入れ、花言葉辞典や花を贈る際のマニュアルなどをまとめたハウツーコンテンツを制作している。

パソナ森川氏は、従来のウェブサイト制作と同様な形で予算を捻出。しかし、ウェブサイトと違うのは、コーポレートサイトのトラフィックの何倍もの数字を集める施策を考えなければいけない、と語る。

「最終的な求人登録のコンバージョンを上げる一つの指標として、まずはコーポレートサイトの数倍のトラフィックを目標にしなければ、コンバージョンは上がらない。そのため、ある程度の予算規模を投入しなければ効果は出ないと社内には説明している。まだまだ、期待しているほどの予算は獲得できていないが、成果を出しながら少しづつ予算確保をしていきたい」(森川氏)

KPI設定やスマホ対応は、ターゲットと目的に応じて対応していく

予算確保含めた社内の理解を広めるためにも、KPIの設定をしなければいけない。PVやUUといった指標だけではなく、近年ではスマートフォンの重要性も増してくる中、3社はどのような指標設定を行っているのか。

パソナ森川氏は、2013年12月からスタートのため、目立った成果はこれからと語る。社内としても、テストマーケティングの一つとして理解を示しているという。PVやUUなどの指標がコーポレートサイトの何倍にもなることは最低条件だが、集まったトラフィックがどのように自社の利益に反映されるかをデータ分析していきながら、仮説検証を踏まえ運用していくという。スマホ対応に関しては「転職情報は、じっくり読みたい人が多くPCからのトラフィックの割合が高いが、コンテンツはスマホでも気軽に読めるように意識して制作するといった、スマホ対応を心がけている」と語る。

千趣会イイハナの二ノ宮氏は、社内ではSEOの一つとしての理解のため、検索や流入、コンバージョンといった指標をもとに、コンテンツづくりを意識しているという。

「数字を意識することで、施策の結果がギフト購入というコンバージョンに直結しやすい。レスポンシブWebデザインにした結果、サイト直帰率も低くなるなど、効果は次第に出てきている。継続していきながら成果をだしていきたい」(二ノ宮氏)

東急リゾートの浅羽氏は、ターゲットが高齢者のためPC経由が約8割、スマートフォンは約2割程度のためスマホ対応の優先順位は高くないという。KPIは、PVではなく問合せや購入といったコンバージョンに重きを置いており、数ヶ月毎に戦略の見直しをしながら実施していきたいと語る。

3社ともコンテンツマーケティングを始めたばかりであるため、成果はこれからだ。社内としては、まずは小さな成果が得られるかどうかで、今後のマーケティングの方向性を見定めようとしている。パソナ森川氏や千趣会イイハナ二ノ宮氏のように、社内で熱意をもって取り組む人間に対して、いかに裁量を与えて実施できるかどうか。企業として、新しい取り組みを始めることに価値を見出すことが重要なのかもしれない。

執筆:江口晋太朗

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