現在のコンテンツマーケティングはまだ不完全、今後の発展の余地を考える

「適切な人に対して適切なメッセージを適切なタイミングで届ける」。これはコンテンツマーケティングの本質にかかわる重要な考え方だ。

しかし著名なアナリストで「Think Like a Publisher」をはじめとするコンテンツマーケティングの著作を持つレベッカ・リーブ氏はこう語る。「マーケティングで重要とされるこの言葉が嫌いだ」(”I hate this message from marketing holy grail”)。

場所は今年9月に米国クリーブランドで開催されたContent Marketing World 2016。コンテンツマーケティング業界で高い知名度を誇る彼女のセッションには、大勢の参加者たちが詰めかけていた。

今のマーケティングで想定している「適切さ」の水準は不十分だ、というのが彼女の不満だ。

「まだまだ改善できることはたくさんある。位置情報を使って”適切な場所”という情報を加える余地があるし、消費者の行動データや天気などのリアルタイムデータを活用することで、さらに消費者を取り巻く文脈(コンテクスト)を明確にできる」。

データを活用することで消費者を取り巻く状況がより明確になれば、「適切さ」を狙うマーケティングコンテンツの質も大きく変わってくるというのだ。

こういった変化を起こす要因としてリーブ氏が挙げるのが、新たなテクノロジーによって得られる消費者データだ。たとえばIoT(モノのインターネット)による製品の利用データ、スマートフォンやウェアラブル端末から得られる位置情報、センサー機器を使った店舗での販売データなど。

つまり従来のようにネット上での行動データだけでなく、リアルな世界でのデータも併せて分析することで、消費者をより深く理解できるようになる。ひいてはコンテンツマーケティングによる「適切さ」の精度をより高められるというのだ。

ネットとリアルを含む多数のタッチポイントの統合に必要な要素を示した図。そもそものメッセージを伝えるコンテンツ(Content)と、複数のタッチポイントでぶれない一貫性(Consistency)、ユーザーの状況(Context)に関する理解が重要だという。

まだ発展途上なコンテンツマーケティング

そもそも現在のコンテンツマーケティングのブームは、Googleによる検索技術の発展やソーシャルメディアの普及をきっかけとしている。

こうした新たなコンテンツ発信の手段によって、企業は個々の消費者のニーズに合わせたきめ細かい情報を発信できるようになったほか、双方向のコミュニケーションも可能になった。画一的なメッセージを一方的に発信していた従来のマス広告ではできなかったことだ。

つまり「適切な人に対して適切なメッセージを適切なタイミングで届ける」というコンテンツマーケティングの思想を実践できる環境が、整ってきたということだ。

ただ現在のコンテンツマーケティングによる「適切さ」が完璧かというと、もちろんそうではないだろう。コンテンツの制作や改善を進めるために必要な消費者理解が、ネット上の行動データからの示唆に偏りがちなためだ。

さらにネット上の行動ですら、現在のようにCookieを中心とする追跡では、個々のユーザーを一貫して追い続けることは難しい。リアルでの行動データまで考慮した上で、コンテンツを作る試みもまだ一般的ではない。

これでは個々の消費者を完全に満足させるような、適切なコンテンツを発信できているとは言い難い。確かにコンテンツマーケティングには、まだまだ発展の余地がありそうだ。

コンテンツマーケティングの将来、求められる多様性と柔軟性

「今後はターゲットのコンテクストに合った情報発信や、より詳細な顧客データの獲得が可能になる。マーケターは近い将来、次のレベルの“適切さ”を実現できるだろう」。

Content Marketing Worldでのセッションでこう語ったリーブ氏は、企業による先進的な取り組み例をいくつか紹介している。

ユニリーバによる調味料ブランドMailleは、米ロサンゼルスとシカゴの食料品店でビーコン技術を使った施策を実施。自社のアプリをスマートフォンにインストールしたユーザーが店舗に入ると、アプリ経由でプッシュ通知が送られる。内容はレシピや食料品のリストなど。まさに購買が発生するタイミングで情報を発信することで、自社商品の購買へつなげる狙いだという。

またカーナビアプリなどを手掛けるWaze Mobileは、Taco Bellと協業。Taco Bellの店舗に近づいたユーザーに対してクーポンを送信する施策を実施した。しかも自動車を運転するユーザーの安全を考慮し、送信のタイミングは赤信号で停止した時に限定している。

こうした位置情報を活用した取り組みはクーポンやキャンペーン情報のプッシュ通知にとどまるケースが目立つものの、工夫によってコンテンツ施策にも応用できるだろう。

そうなるとユーザーを取り巻く環境をより詳細に理解した上で、コンテンツを作る必要性が増してくる。

現在のコンテンツマーケティングで中心となっているブログやSNSだけでは、ユーザーの期待に応えきれなくなる。次世代のコンテンツマーケティングには、多様性や柔軟性がより求められることになりそうだ。

コンテンツマーケティングを成功させるために重要な柱が、いかに「適切(Relevant)なコンテンツ」を届けるか。

これはリーブ氏だけでなく、ジョー・プリッツィー氏やContent Marketing Instituteによる「コンテンツマーケティング」に関する定義に共通して出てくる考えだ。

IoTの時代を迎え、いつでもコンテンツに接触できるようになればなるほど、いかに「適切さ」を突き詰められるかが焦点となるといえるだろう。そこで重要になってくるのが、ユーザーの置かれた状況に適切であるかどうかというコンテクスト視点だ。

IoTやデータサイエンスを取り入れることで、コンテンツマーケティングは次の段階に進んでいるようだ。

執筆:三友直樹(日本SPセンター)

NEWS LETTERをお届けします!

コンテンツマーケティングラボの最新情報を、
定期的にEメールでまとめて、お知らせします

当月の更新情報を翌月初にお届けします。

(購読すると弊社の書籍発売イベントの特典資料をダウンロードできます)

関連する記事