コンテンツマーケティング限界論に反響の嵐、著名マーケターらも反応

1月以降、アメリカのコンテンツマーケティング界隈で、話題となっている“Content Shock”論争を紹介する今回のシリーズ。3本の記事を通じて、“Content Shock”論の紹介と、それに対する反響、問題を乗り越えるための戦略をお伝えする。2回目の今回は、”Content Shock”論に寄せられた様々な声をまとめた。

コメント数、通常の投稿の十倍以上

前回の記事では、1月に著名なコンテンツマーケターであるMark Schaefer氏が投げかけた”Content Shock”論について紹介した。人々の処理能力を超える勢いで、世の中のコンテンツの量が増えている。そのためコンテンツを消費してもらうまでに必要な施策のコストが増加しており、資金力のある大手企業に有利な状況が発生しているという内容だ。

この“Content Shock”論は、関係者の間で大いに話題となった。投稿からわずか3週間足らずで、記事には350件以上のコメントが寄せられた。普段の投稿へのコメント数が20~30件ほどであることから、反響の大きさが伺える。

コメント欄では、「(”Content Shock”への対策として)人々の興味を惹くには、短時間で消費できる短いコンテンツがより重要になりそうだ」、「問題は”Content Shock”ではなく”Content Schlock”(コンテンツの質の低下)ではないか」など、活発な議論が巻き起こった。

Schaefer氏による”Content Shock”の記事のコメント欄。Schaefer氏がコメントの一つ一つに返答し、それがさらなる議論につながるなど、発展的な場になっているようだ

また同氏のもとには電話やメールが殺到したほか、この”Content Shock”の内容を扱ったブログ記事は75本以上に上ったという。さらに投稿から約2カ月たった3月までのTwitterでのリツイート数は約1200回に上る。「非常に興味深い」、「これは必読記事だ」などの賛同の声が大半を占める一方で、「面白いが、賛成はできない」、「未来を予言しているのか、不安を煽っているだけなのか」と距離を置いた意見もわずかに見られた。FacebookでのShareの数も同時期に700回を超えるなど、同ブログの平均的な記事の10倍以上にも及んでいる。

著名マーケターが賛同、「コンテンツ作成以外にもコストをかけなくてはならない」

Schaefer氏の記事の翌日には、著名なマーケターでサンフランシスコ大学で教鞭をとるChristopher Penn氏が、いち早く“Content Shock”に関するブログ記事を投稿した。

Penn氏によるブログ。PRの視点でウェブマーケティングに関する情報を伝えている

2012年にForbesの「影響力のあるソーシャルマーケター50人」に選ばれたこともある同氏は、「コンテンツマーケティングにおいて、資金力のある企業が有利になるという考えは正しい」と”Content Shock”論に賛同した上で、以下のように補足した。

同氏によると、コンテンツマーケティングでは、質の高いコンテンツによってオウンドメディアを充実させるだけでは不十分だ。SNSのようなアーンドメディア、広告を出稿するペイドメディアも組み合わせた戦略が必要になる。

This doesn’t mean that you have to spend a million dollars just to have someone red your blog. It does mean that to get the results that your company is looking for, you need to invest in your content beyond merely its creation.

「ブログ記事を読んでもらうために数百万ドルもの大金を投入する必要はないが、コンテンツの作成以外の部分にもコストをかけなくてはならない」


第一人者が反論、コンテンツマーケティングのエバンジェリストJoe Pulizzi氏による反応

しかしこのように肯定的な意見だけではない。コンテンツマーケティングの第一人者で“Content Marketing Institute”の運営者でもあるJoe Pulizzi氏はこう述べている。

I disagree with Mark’s take, and recommend a revised title: Content Marketing Without a Strategy Is Not Sustainable.

「Mark(Schaefer)の意見には反対だ。彼の記事のタイトルはこう修正するべきだ」

Pulizzi氏はこのように述べ、以下のように記事のタイトルを修正するよう提案した。

“Why content marketing is not a sustainable strategy”
(コンテンツマーケティングはなぜ持続的な戦略にはならないのか?)
⇒“Content Marketing without a Strategy Is Not Sustainable”
(戦略のないコンテンツマーケティングは持続できない)

Joe Pulizzi氏。コンテンツマーケティングの世界的なイベント”Content Marketing World”を主催するなど、第一人者として知られている

そのPulizzi氏が、“Content Shock”論に関する「優れた意見だ」として紹介したのが、企業の広報やIRなどの分野で実績のあるShel Holtz氏による記事だ。“Six reasons there will be no Content Shock”(”Content Shock”が起こらない6つの理由)と題された同記事でHoltz氏は、「情報の氾濫については、これまでも何度か唱えられてきた。“Content Shock”もその一つに過ぎない」と一蹴している。

Holtz氏による投稿。「企業の資金力にかかわらず、良いコンテンツがいつも勝つ」

“Content Shock”が問題にならない理由として、Holtz氏は以下の6つの要因を挙げた。

1.このような問題提起は過去にもあった
情報を処理しきれなくなるという問題はこれまで繰り返し唱えられてきたが、まだ実際には起きていない。古代ローマの哲学者セネカは1世紀の時点で、「本の増え過ぎが人々の気を散らしている」と警鐘を鳴らしていた。

2.情報の増大によって圧倒されているより、パワーを感じている人のほうが多い
2012年にノースウェスタン大学が実施した調査によると、情報の増大に圧倒されていると感じる人はごく少数で、ほとんどの人々はパワーを得られていると感じている。

3.別に全てを読まなくてはならないわけではない
われわれは主にニッチなコンテンツの消費者なのだ。本屋の雑誌売り場を思い浮かべてほしい。様々な雑誌が並んでコンテンツが氾濫しているようにみえる。しかし全てを読まなくてはいけないわけではない。

4.情報収集ツールが補完してくれる
情報収集ツールは日々進化している。例えばソーシャルニュースマガジンのFlipboardはユーザーの嗜好にあわせてコンテンツをキュレーションしているが、このようなサービスによって質の高いコンテンツを見つけることが容易になった。

5.コンテンツの質が高ければ注目を集めることができる。
小説家のTerry Fallisは彼の作品を出してくれる出版社を見つけることができなかった。そこで作品を録音してポッドキャストで配信したところ、結果として書籍の出版やドラマ化されるまでに至った。彼のコンテンツが無名からのし上がることができたのは、内容の質が高かったことと、それを拡散するためのPR施策によって、読者・オーディエンスの心をつかむことができたからだ。

6.コンテンツを発信する新たな手段が出てきている。
動画共有ツールのVineやコミュニケーションアプリのSnapChatをはじめとする新たなツールが登場している。企業はコンテンツを人々に届けるために、これらのツールを活用する方法を見つけ出すだろう。

このように”Content Shock”論のまわりには、大きな反響が巻き起こった。Schaefer氏は、コンテンツマーケティングをやめるべきだと唱えているのだろうか?そうではないようだ。「コンテンツマーケティングが終わったわけではない」と同氏は言う。“Content Shock”を乗り越えるために、次なるイノベーションが必要だと、あくまで前向きな形で語っているのだ。次回では、Schaefer氏が示した、”Content Shock”を乗り越えるための戦略を紹介していく。

“Content Shock”論で語られた通り、世の中のコンテンツは飛躍的に増大しているようにみえる。そのような状況の中で、やみくもにコンテンツを作っても、目的を達成できず、予算や人手などのリソースを浪費するだけになりそうだ。今回の反論を含む、一連の議論が示唆しているのは、コンテンツ間の競争が激しくなっているからこそ、目的を達成するために、どのようなコンテンツを作って、誰にどう届けるのかという戦略を緻密に考えることの重要性ではないか。

また記事中で紹介した通り、Pulizzi氏がSchaefer氏の記事のタイトルについて、正しくは“Content Marketing without a Strategy Is Not Sustainable”(戦略のないコンテンツマーケティングは持続できない)とするべきだと主張したことも、戦略的にコンテンツを発信することの重要性を示しているといえるだろう。

執筆:三友直樹(日本SPセンター)

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