コンテンツストラテジストも知っておきたいWeb広告の基本と考え方

3月8日allWebクリエイター塾が主催するセミナー第11回SwapSkills doubbbleが開催された。今回のセミナーのテーマは「Web広告」。「変わりゆくウェブで効果的に広告を出すスベを学ぼう!」と称し運用型広告、動画広告、Facebook広告といった主要な広告手法のノウハウがそれぞれの専門家によって紹介された。今回はそのセミナーで紹介されたノウハウのポイントをレポートする。

「運用型広告」のポイントはユーザーの関心事をとらえ続けること

最初のセッションでは「運用型広告がWeb広告の主役になっていく」と題し、運用型広告のコンサルティングなどを手掛けるアタラ合同会社の岡田吉弘取締役CCOが登壇した。岡田氏は、運用型広告の一つであるアドワーズが日本に上陸した2002年からこの分野に携わってきた。過去にはGoogle社でアドワーズ広告のアカウントマネージャーを5年間務めた経歴も持つ。

「広告を運用する際は、ユーザーの興味関心を考えることが一番大事。自分の自慢話ばかりする人っていやですよね。それと同じで広告主も商品のアピールばかりするといやがられてしまう」と語る岡田氏

まず岡田氏は運用型広告の定義について語った。

そもそも運用型広告とは、ネット広告の出稿や配信などにおいて、文字通り「運用」が必要になる広告のこと。ここでいう「運用」とは、あらかじめ設定した目標を達成するために、広告を出稿する検索キーワードの選定や入札の実施、各種設定の変更など複数の設定要素を調整していくことを指す。「運用型広告のポイントは広告の出稿量や費用、効果などの情報と評価指標を照らし合わせながら、PDCAをまわしていくことだ」。

そしてこの運用型広告の特徴の一つとして岡田氏が挙げるのは、その豊富な種類だ。たとえばユーザーが検索したキーワードに関連した広告を検索結果画面に表示させる「検索連動型広告」や、サイト内のコンテンツの内容に合わせて画像や動画などの形式で表示させる「コンテンツ連動型広告」、また過去の閲覧履歴や検索キーワードに関連した広告を表示させる「インタレストマッチ」など、ユーザーの行動に対応したメニューが豊富にある。

さらにこの運用型広告の市場規模は拡大している。2013年の日本の総広告費の伸びが前年比1.4%増、インターネット広告費が8.1%増と一ケタ台の中、運用型広告は約20%増と大きな伸びをみせている。「運用型広告の広告費自体も4,000億円超と、インターネット広告費の半分を占める規模にまで達している」と電通のデータを参照しながら岡田氏は語った。そして、この市場規模拡大の要因として岡田氏が挙げているのは「誰もがネット広告を出稿できるようになった環境」だ。「従来の広告出稿は、広告代理店を通さなくてはならなかった。しかし運用型広告はクレジットカードさえあれば誰でも広告を出稿できる」。このことが市場規模の拡大に貢献している、という見方を示した。

従来の広告との違いはほかにもある。運用型広告は従来のように、固定の広告枠を確保することはできない。検索連動型広告やディスプレイ広告、インタレストマッチにしてもユーザーの行動に合せて広告が表示される。「重要なのはユーザーの興味関心をいかに捉えた広告を制作し運用するかだ」と岡田氏は語る。運用型広告は、ユーザー、広告主、そしてメディアの3者がうまくwin-winになるよう設計されている。「その起点となるのがユーザーの興味関心だ。広告主はこの点に応えてあげなくてはならない」と岡田氏は強調した。

進化する動画広告。活用のコツは「惹きつけ、効率的に露出させる」こと

次のセッションでは「動画広告で成功する、作り方と使い方」と題し、また急速に普及している動画広告について語られた。スピーカーは映像制作会社ムービーインパクトの神酒大亮代表取締役。神酒氏はもともとテレビ番組制作を手掛けていたが、2006年にYouTubeに公開した「勝手広告」が大きな反響を呼んだことをきっかけに、2008年、同社を設立した。

勝手広告とは、クライアントからの依頼なしに、作り手が文字通り「勝手に」制作した広告だ。神酒氏が制作したヤマト運輸の勝手広告がテレビ番組で紹介されたほか、紹介記事がヤフートピックスにも掲載された実績を持つ。

神酒氏が制作したヤマト運輸の勝手広告。女性が投げる剛速球は、アニメーションで描いたという

神酒氏は数多くの企業の動画広告を手掛けてきた。1本の動画広告で300万回以上視聴されるなどの実績ももつ

神酒氏はまず動画広告にまつわる企業の取り組みについて語った。「近年では撮影・編集機材の価格が下がっているため、より低コストでの動画制作が可能になった。そしてそれが一因になり、企業による動画広告の取り組みは増えてきた」。しかしそのほとんどは「まだまだ実験段階だ」という。

そんな発展途上の段階だけあって企業からの要望も多い。「たとえば商品の細かい仕様の説明など、制限が多いテレビCMで出来ないことをWebでやりたいというような相談が増えている」と神酒氏は語る。そして今後テレビCMと動画広告のあり方についてこう予測する。「Webに掲載して効果があるかどうかを見極めた上で、テレビで放映するという逆の流れも増えるのではないか」。

神酒氏はWeb動画で効果を上げるにあたって2つのポイントを挙げる。そのひとつが“起転結刷”(きてんけっさつ)をわきまえたストーリーだ。「動画を作る上で、“起承転結”はもう古い。これからは“起転結刷”です」と神酒氏。

この考えは非常にユニークだ。まず話の展開を速くするために、“承”にあたる物語の背景情報は省く。そしてストーリーが盛り上がる“転”を“起”のあとにすぐに持ってきてしまう。そして最後の“刷”とはその動画を通じて伝えたいメッセージやキャッチコピーをユーザーへ「刷り込むこと」を意味する。テレビCMのように半強制的に視聴させることができないので視聴者を飽きさせない工夫が一層必要になるのだ。

しかし制作した動画をプラットフォームで目立たせるのは至難の業だ。YouTube では「1分間に約100時間分もの動画がアップされ続けている」(神酒氏)。ただ公開するだけでは、誰にも気づかれないまま埋もれてしまいかねない。そうならないために露出強化施策は非常に重要だという。そこで神酒氏も注目しているのがGoogleのプラットフォームで展開する動画広告フォーマット「TrueView」だ。

TrueViewとは、たとえばYouTubeでユーザーが動画を視聴する前や、動画の検索時などのタイミングで、表示させることができる動画広告。運用型広告のようにユーザーの興味関心にマッチしたうえで制作した動画の露出を増やせる点が特徴だ。

「動画広告を制作するにあたっては、ただ面白いだけではなく、TrueViewの特性に合わせることが重要になってきている」(神酒氏)という。たとえばYouTubeにて動画の閲覧前や閲覧中に動画広告が挟み込まれた経験はないだろうか。これは「TrueView インストリーム広告」というTrueViewが提供する広告メニューの一種だ。このメニューの特徴は広告が5秒間表示された後動画コンテンツを見るか広告コンテンツを見続けるのか選択できる点にある。視聴時間が30秒を超えた時に1視聴として広告料金が発生する仕組みなため、29秒以内の視聴であれば広告費を払う必要はない。「この29秒以内に言いたいことを全て詰め込み、あとは補足とするなどいろいろな作戦が考えられる」と神酒氏はいう。

Facebook広告運用のコツ、目的を明確に

最後のセッションは「Facebook広告をどう活かすか!?」というテーマで、ソーシャルメディアのコンサルティングを手掛けるグループライズの柴佳織氏が語った。

柴氏は、Facebookページのコンサルティングのほかにも、多くのWebメディアでソーシャルメディアに関する記事の執筆も手掛けている

Facebook広告とは、デスクトップ画面の右サイドバーとニュースフィード、モバイル画面のニュースフィードの3カ所に表示される広告のこと。ページのファンを増やすためのPage like adや、個々の投稿を宣伝するPromoted Postsなど、目的に応じて複数の種類が用意されている。

同氏によると、その最大の特徴は、「ターゲティング精度の高さ」だという。性別や年代、居住地などの基本的な属性だけでなく、好きな音楽のアーティスト名や、「半年以内に結婚した人」など、Facebook上の情報に基づいた細かな絞り込みが可能になる。この高いターゲティング精度がもたらす効果として「よりニッチな層に向けて、効果的な広告が打てるということ」と語った。

ある企業の事例では、居住国や性別や年齢など基本的な属性だけでターゲティングした場合のコンバージョン率は1.2%だった。それに対して、興味・関心で細かく絞り込んだ場合、コンバージョン率が3.8%まで跳ね上がったという。さらに獲得単価も前者が54円だったのに対し、後者では18円まで抑えることができた。精緻なターゲティングによって、より少ないコストで高いコンバージョン率を達成することができたのだ。

一方Facebookページの運用について柴氏は次のように語る。「ファン数はとても分かりやすい指標なので、闇雲にファン数を増やそうとしてしまいがちになる。しかしファン数が増えることで、投稿が届きにくくなることも知っておくべき」。

投稿した内容はファン全員に届くわけではない。「ファン数が1,000人未満のページで投稿のリーチ率は平均29.7%。1万人以上では16.6%、10万人以上では8.7%まで下がる」というコムニコによる調査データを紹介しながらファン数の増加とともにリーチ率が減少する傾向について指摘した。さらに投稿に対して「いいね」やコメントなどの反応がない状態が続くと、投稿がさらに届きにくくなってしまう。このような状況ゆえ、「自社のページとマッチしたファンに絞ることが重要。結果コメントやシェアが増えてページが盛り上がる」と柴氏は語る。

このようなFacebookページの特性を踏まえた上でどのようにFacebook広告を活用していくべきなのか。柴氏は「適切なターゲティングに加えて、ページの成長段階に合わせた適切な広告活用が重要」という。たとえばページを立ち上げたばかりであれば、まずはターゲティングに気を配りながらファン数を増やすための広告を打つ。そしてファン数が増えてきたら、投稿のリーチ率を上げるための広告を打つなど、自社ページの状況に応じた広告運用が求められるのだ。

続いて、実際のFacebook広告制作のコツについても紹介した。まず原則として「内容が伝わりやすくなるように、画像とテキストをシンプルにする」ことが重要と語る。デザインが細かすぎると、表示された際に分かりづらくなるためだ。またFacebookのデザインは、白と青が基調なため、文字はオレンジやピンクなど目立つ色が好ましいという。また商品写真も白を背景にすると、背景色が白のFacebook上でも映えやすくなるとした。

ただし上記は「あくまで原則」。実際の広告出稿では「細かい検証が重要」だ。たとえばある企業が複数の広告パターンでFacebook広告の効果を検証した際、事前の予想に反した結果が出たという。シンプルで短いテキストを盛り込んだ広告のコンバージョン率が0.5%にとどまったのに対して、最も長いテキストを含む広告のコンバージョン率が1.6%ほどまで伸びたのだ。

「どのような広告が効果を発揮するかは、企業や商品など他の要因にも左右される。そのため広告を制作する際は基本原則を参考にしつつも、その都度検証することで、コンバージョン率が高く、獲得単価が安い広告に最適化していく必要がある」と語った。

Web広告の全体像が俯瞰できた有益なセミナーであった。この3つのセッションを通じて感じたのは、Web広告を検討するにあたってもユーザーの関心事へのきめ細かいフォーカスは切り離せなくなってきている、ということだ。広告を含め、「ユーザーの関心事」を起点に一貫したコンテンツ戦略を作ることが必要不可欠になってきているといえるだろう。

執筆:三友直樹(日本SPセンター)

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