コンテンツ“氾濫期”の今こそ実践すべき「戦略型コンテンツ」とは?

明確な方針・戦略は効果的なコンテンツマーケティングの第一歩

先日公開されたCMIの調査レポートによると、今やコンテンツマーケティングは、BtoB企業の90%以上で実践されている。しかしながら、その効果を実感できている割合はさほど高くないという。その原因は、コンテンツマーケティングの方針や戦略を「企画書化」していないことにあるのではないかと、セミナーのオープニングに登壇した、このセミナーを主催するCMI(CONTENT MARKETING INSTITUTE)の創設者Joe Pulizzi氏は語る。

Content Marketing World Master Classのオープニングに登壇するJoe Pulizzi氏

「何のために」「誰に対して」「どんな成果を出すために」コンテンツマーケティングを実行するのか――戦略を目に見える形で整理することは非常に重要だと同氏は強調する。コンテンツマーケティングプランをつくることの重要性とノウハウについては、「大企業と対峙する中小企業はどうコンテンツマーケティングを活用する?」をチェックしてほしい。記事の中でも触れているが、戦略を企画書化することは、コンテンツマーケティングに関わるすべてのスタッフがゴールを共有するために欠かせないステップなのだ。

企画書の中では、「誰に発信するものか」「何を目的とするのか」「どのようなフォーマットで発信するのか」など細かな定義を明示する。まずはそれらの定義の根底となる“戦略全体の方針”であるミッションステートメントを設定することが、ドキュメント化する際のもっとも重要なポイントだ。ミッションステートメントとは「コンテンツが顧客に対して果たすべき使命を宣言するもの」であると言えるだろう。ミッションステートメントが明確であるほど、狙ったターゲットにより“響く”コンテンツ展開が可能となる。セミナーでは優れた事例がいくつか紹介されていた。

例1) Home made simple.comの例

P&Gによって運営されているこのコンテンツは、「忙しい主婦が家族と過ごす時間を、より長く、より充実したものに」をミッションステートメントとし、時間や手間をかけずにできる料理のレシピや家事のノウハウを提供している。メルマガ会員が1000万人を超える、人気コンテンツとなっている。

「季節に合わせたサラダ」「ハーブの保存の仕方」「5分で作れるマグケーキ」など、主婦向けのコンテンツが掲載

例2) being girl.com

こちらもP&Gによって運営されているコンテンツ。「ティーンエイジャーの女の子に、自分の体について知ってもらい、誇りを持ってもらう」ことをミッションステートメントとし、体も心も成長する思春期の女の子が抱く様々な疑問に応えるコンテンツを充実させている。このコンテンツは、同時期に実施された他の広告やキャンペーンに比べ、約4倍の効果があったという。

掲載されているコンテンツは生理など身体に関するものだけでなく、男の子とのデートのコツや、ネット犯罪から身を守るための方法など幅広い

上記の2つの事例からも明らかなように、同じP&Gが運営するコンテンツであっても、ミッションステートメントが異なれば、コンテンツもまったく異なり、デザインや表現のトーンなどのアウトプットもまったく違うものとなっている。また、ミッションステートメントによってターゲットとゴールが明文化されているため、狙ったターゲットに狙ったメッセージがしっかりと伝わるコンテンツ展開だ。明確なミッションステートメントを策定する上で不可欠な要素として、Pulizzi氏は下記の3つを挙げている。

  1. core target audience……「誰に」向けたコンテンツマーケティングなのか。
  2. what will be delivered……「どんな付加価値」をターゲットに提供するのか。
  3. the outcome of the audience……各コンテンツを通してターゲットが「何を得られるのか」。

これらを文章として確立させることで、コンテンツマーケティングで目指すべき姿を常に意識することができるのだ。ミッションステートメントを含めたコンテテンツマーケティングプランがドキュメント化されることにより、改めて戦略の方向性と組織体制を見直すことができ、結果として成功に至った企業も少なくないとPulizzi氏は語り、オープニングスピーチは締めくくられた。

コンテンツ氾濫期の今こそ見直したい、「ターゲット設定」と「関係性の構築」

続いて登壇したのはCMI(CONTENT MARKETING INSTITUTE)のコンテンツストラテジスト、Robert Rose氏。SNSやブログなどを通して誰もが手軽にコンテンツを発信できるようになったことでコンテンツの量は増える一方――マーケターにとっては非常に難しい時代が到来していると同氏は語る。

「現代は、企業だけでなく個人までもがメディアとなり、ユーザーを奪い合う時代だ」と語るRobert Rose氏。

もはや、コンテンツマーケティングの課題は、コンテンツをいかに量産するかではなく、いかに戦略的に考えることができるかだとRose氏は強調した。そのためには「適切なターゲット設定」と「ターゲットとの関係性を築き上げることを意識したコンテンツ制作」が重要だという。

まず考えるべきは「適切なターゲット設定」だ。これは、言い換えるならばターゲットの設定の見直しだ。ターゲットペルソナとして描くことが多いのは、主に「購買者(あるいは購買見込み客)」だ。しかしコンテンツマーケティングにおいては、コンテンツに触れるすべての「閲覧者」のペルソナも、購買者に影響を与えるという点から重要視する必要がある。セミナーではこの「購買者(あるいは購買見込み客)」と「閲覧者」という2種のペルソナを描くことの実践例として「Symrise社」が紹介された。

「Symrise社」のWebサイト

BtoB企業であるSymrise社の「購買者」として想定されるのは、香料を購入する食品メーカーだ。しかし同社はそれ以外にも、その香料を含む食材や素材を使うことになるシェフ・バーテンダー・バリスタなどを「閲覧者」として想定。直接香料を購入することはない層に対しても広くリーチすることで「テイストやフレーバーのトレンド」を生み出すことを狙う。そしてそのテイストやフレーバーを使った食品へのニーズを高めることで、結果として自社のビジネスを拡大するというスキームを構築した。

続いて考えるべきは「ターゲットとの関係性を築き上げることを意識したコンテンツ制作」だ。

コンテンツマーケティングで競合コンテンツとなるのは、競合企業のコンテンツだけではない。ターゲットは同業種の企業のコンテンツだけを見比べているのではなく、世の中の“すべての”コンテンツに時間を費やしていることを忘れてはいけない。ターゲットの関心が向いているのは、異業種のコンテンツや個人のブログかもしれない。製品やサービスとまったく関係のない、おもしろ動画やかわいい子猫の記事など、世の中のあらゆるコンテンツが「競合コンテンツ」になりうるのだ。

そんな多種多様な競合に打ち勝ち、ターゲットの心をつかむコンテンツを生み出すにはどうすればいいのか?その秘訣は、コンテンツを通してターゲットとどのような「関係性」を築きあげるべきかをしっかりと意識することだとRose氏は語った。

それには以下の3つの視点がある。

1.awareness builder……「見つけてもらう」ためのコンテンツ

これはより多くのターゲットと出会い、認知を拡大することで、コンテンツマーケティングの可能性を広げることを目的としている。
例)検索で上位表示されやすいコンテンツ、インバウンドマーケティングにつながるコンテンツなど

2.thought leadership……「啓蒙する、利便性を提供する」ことを目的としたコンテンツ

ターゲットのニッチなニーズや関心に応えることで、“より可能性の高い見込み客”に変える役割を持つ。
例)啓蒙的コンテンツ、利便性の高いコンテンツなど。

3.story teller……「ターゲットと感情で結びつき、他社との差別化を図る」ためのコンテンツ

ロジカルな面だけでなく、「楽しみたい」「嫌なことを避けたい」など、ターゲットの感情的ニーズを満たすコンテンツ。ターゲットとの感情的な結びつきを深める役割を担う。
例)自社のブランドバリューを訴求するコンテンツなど。

これらは、どれか一つを実行すればいいというものではない。うまく3つのバランスをとって統合的に戦略を立てていく必要があるのだ。そのためには、前述の「コンテンツマーケティングプラン」の存在が重要となる。戦略全体が向かうべき方向性を理解することで、コンテンツの種類と配置を考えていくことができるのだ。

今回参加したContent Marketing Master Classは、過去のセミナーでは語られていなかった内容がたくさん含まれており、コンテンツマーケティングの普及と発展を改めて感じることができた。これまでは、基礎知識や初心者向けのhow-toが多かったのに対し、今回は「実践しているコンテンツマーケティングでより大きな成果を出すためにはどうするべきか?」という改善ポイントが述べられていたことが印象的であった。登壇した2人のストラテジストも強調していたのが、消費者のマインドやデジタル環境は日々変化しているということ。その変化の流れにあわせて、むやみにコンテンツを量産するのではなく「なぜコンテンツマーケティングを行うのか」「誰のために行うのか」「どういう関係性を築いていくべきなのか」を見直すことこそ、成功につながる秘訣なのではないだろうか。

執筆:隠岐由起子

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