顧客が求めている情報に注目した“効く”コンテンツのつくり方

企業やブランドが運営しているウェブサイトへの訪問者のうち、「商品購入の意思決定ができている人」はたった4%しかいないということがある調査で明らかになった。残りの96%は、購買を“最終決定”するためにサイトを訪問しているのではなく、情報収集を行ったり、比較検討を繰り返したりと、まだ購買プロセスの“途中”にいる状態でサイト上のコンテンツに触れているという。

このような事実がある一方で、多くのブランドサイトやSNSでは、購買を決める「最後の一押し」を目的としたセールス中心のコンテンツが展開されているように見受けられる。残念なことに、前述した訪問者の状況と照らし合わせて考えると、これらはほとんどの訪問者にとって、まだ必要のないコンテンツだということになる。

ターゲットにとって価値のない情報を一方的に発信するばかりでは、コミュニケーションは完全にすれ違い状態。「売り手」の視点だけで考えられたコンテンツ展開では、ビジネスチャンスを大きく取りこぼしている状態だと言えるだろう。コンテンツマーケティングの基本に立ち返って、一方的な売り込みではなく、コンテンツを通してターゲットが本当に求めている情報を提供し、関係性を深めることで、最終的に「顧客」になってもらうような流れをつくることを考えるべきだ。そこで重要なのは、各購買プロセスのステージにおいて、どのようなコンテンツが必要とされているのかを、ターゲットの視点から考えることに他ならない。

ターゲットが今購買プロセスのどの段階にいるのか――それを整理し、必用なコンテンツを明確にするために取り入れたい概念が、「カスタマーライフサイクル」というフレームワークだ。

【カスタマーライフサイクル】
ターゲットが商品・サービスを認知する前の潜在顧客(Prospect)の状態から、顧客(Client)になり、最終的に発言力をもったファン(Evangelist)に至るまでの流れを示している。この図からも明らかだが、ひと口に“ターゲット”と言っても、どのステージにいるかによって状況やニーズは異なり、求める情報の種類も大きく違っている。

当サイトではこれまでも、「購買プロセス」としてターゲットの変化について語ってきたが、「カスタマーライフサイクル」はもう少し長いスパンでターゲットの変化を捉えたものであると言える。つまり、一度きりの購入をゴールとするのではなく、購入後にも継続した関係性を保つことを視野に入れ、さらなる購買行動までをも狙ったものなのだ。

カスタマーライフサイクルをベースに考えてみると、各ステージで違った種類の情報が求められていることが明らかになる。それぞれのターゲットがどのような状況にあるのかを知り、どういったコンテンツが必要とされているのかを理解することで、ステージごとに有効なコンテンツを正しく配置することができるようになるだろう。

まずは、見込み客を顧客化する

1.Awareness ~認知~

ターゲットが企業・ブランドの「存在」や商品・サービスへの「ニーズ」に気づくのがこのステージだ。自身が持っている課題に対して、どのような解決策があるのかを調べ始めるステージなので、コンテンツとしては検索結果で発見されやすいブログ記事がおすすめだ。商品情報だけでなく、その分野における有益な情報が豊富に揃ったブログを用意しておけば、一度訪問してもらった後にも情報ソースとして有利なポジションを確立することができる。その他、インフォグラフィック、読み物、動画、オンラインニュースリリースなどのコンテンツも有効だ。またソーシャルメディアも活用し、コンテンツへの集客を図ったり、企業と顧客間の関係構築に役立てたりすることも考えよう。

2.Interest/Consideration ~興味・検討~

このステージで、ターゲットは課題解決するための方法や商品を探し始める。彼らはまだ即時に購入を決断できるほどの準備はできていないが、購入時によりよい決断をするために、詳細な情報への高いニーズを持っている。ここでコンテンツをうまく活用すれば、ただの“訪問者”を、購入の可能性を持った“見込み客”へと変化させることができる。よってこのステージでは、eBook、ホワイトペーパー、レポート、リサーチ結果、プレゼンテーションなど、情報のボリュームがあり、説得力の高いコンテンツを提供しよう。

3.Evaluation/Purchase ~評価・購入~

集めた情報をもとに取捨選択をするのがこのステージ。ターゲットは最終的な候補リストから一つへ絞り込むための比較検討を繰り返しているため、ここでは従来のマーケティングでも活用されてきた定番の販促コンテンツが力を発揮する。詳しい製品情報、データ集、事例集、デモ、無料お試しなどが一例だが、その他にも、ケーススタディ、他者による推薦、プレゼンテーション、ウェブセミナーなども有効だろう。また、コンテンツとしてあまり認識されていないが、提案書も非常に重要な要素である。単に概要や金額を提示するだけではなく、プラスアルファの価値が感じられるような工夫をしてみるとよいだろう。

そして、一度購入した顧客との関係性をさらに深める

4.Satisfaction/Retention ~満足感アップ・関係性の深化~

ターゲットが顧客となった後に、満足度向上や、さらなる関係性の深化による囲い込みを図るのがこのステージ。長期的にビジネスチャンスを拡大するためには、一度購入に至った顧客もターゲットとして考えることも重要なのだ。顧客が商品から得られるエクスペリエンスだけでなく、付随するコンテンツからもよい体験をすることができれば、ブランドへの信頼と期待をさらに増やすことができるだろう。よい関係性を継続させる上で大切なのは、既存顧客にもノウハウや専門知識を継続的に提供していくことだ。顧客限定のセミナーやイベントの開催、製品やサービスについての意見や疑問に答えるFAQやユーザーガイド、顧客向けのブログ記事などを取り入れてみよう。

5.Cross-Selling/Up-Selling ~関連商品や上位商品の購入~

このステージは、関連商品や上位商品のさらなる購入を促すためのフェーズだ。なぜなら、既存顧客から売上を獲得するのは、新規顧客を獲得するよりもずっとコストがかからず、効率的な方法であるからだ。リピーターを生み出すことができれば、継続的に売上が見込めるようになる。また、顧客に熱心なファンになってもらい、口コミなどの販売促進に貢献してもらうことも考えるべきだ。そのためには、製品やサービスの品質を高めることが大前提だが、コンテンツとしても、さらなる啓蒙を目的としたワークショップの開催、既存顧客を対象とした限定プロモーション活動、商品のユーザーにとってお役立ち感のあるメルマガ配信などが考えられる。

最終的なゴールは「発言力を持ったファン」になってもらうこと

商材にもよるが、実は既存顧客を囲い込み、ファン化して、継続的に買い続けてもらうことは、新規顧客を獲得するよりもずっと簡単でコストがかからない。例えば、Bain&Company社の調査によると、一人の既存顧客を維持するコストは、一人の新規顧客を獲得するコストのたった1/7で済むというようなデータもある。もし自社のコンテンツが新規顧客の獲得だけにフォーカスしたものであれば、既存顧客という貴重なリソースを活用できていない状態だと言えるだろう。そうならないためにも、カスタマーライフサイクル全体を捉え、各ステージのターゲットがどういうニーズを抱えているのか、どういうことに興味を持っているのかを慎重に見極めた上で、適切なコンテンツを配置することを考えるべきだ。継続的なコミュニケーションが可能になれば、見込み客を顧客に、さらに熱心なファンへと育成することができるようになるのだ。

「購入や契約だけにフォーカスしたコンテンツは、訪問者の9割以上のニーズに応えられていない」という冒頭のデータからも、まずは“ターゲット目線”で考え、購入意欲の変化に合わせてコンテンツを適切に配置していくことの重要性を再確認していただけたのではないだろうか。また、販促(販売促進)を実現するためのコンテンツマーケティングというと、どうしても新規顧客の獲得という流れだけで売上アップに向けた施策を考えてしまいがちだが、実は既存顧客にも売上につながるポテンシャルが多く眠っているということも心に留めておきたいポイントだ。この機会に、カスタマーライフサイクルという考え方を活用し、コンテンツの適材適所による継続したコミュニケーションを考えてみてはいかがだろうか。深化した顧客との関係性は、企業にとってビジネスチャンスを効率的に生み出す、この上ない財産になるはずだ。

執筆:隠岐由起子

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