JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(1)Job-To-Be-Doneとは何か?

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「顧客が欲しいのは4分の1インチのドリルではなく、4分の1インチの穴である」というマーケティング界の泰斗、セオドア・レビット教授の有名な言葉をご存じの方も多いだろう。顧客が必要としているのは、困り事や片づけるべき用事を済ませることであり、顧客はその解決手段として商品を選ぶ。しかし商品を売ることだけを考えていると、手段である商品ばかりに目が行き、顧客の本来の目的をつい忘れてしまいがちだ。これでは遅かれ早かれ、顧客のニーズと乖離した商品となってしまう。

レビット教授が冒頭の言葉を使って、プロダクトアウト型からマーケットイン型への発想の転換を訴えたのは1962年だが、50年以上の時を経て、この考えがJob-To-Be-Done(JTBD)と名前を変えて進化し続けている。

JTBDという言葉を一躍有名にしたのは、ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授だ。2003年に発売された著書「イノベーションへの解」の中で、破壊的イノベーションへの機会を見つけるための手法としてJTBD理論に触れている。

しかし元々このコンセプトをクリステンセン教授に紹介したのは、コンサルティング会社ストラテジン社のアンソニー・アルウィック氏だ。アルウィック氏は1990年頃から、「ドリルの穴」に着目したイノベーション手法、Outcome-Driven Innovationモデルを精緻化し続けている。

そして2016年10月、両者は、JTBD理論を広く普及させるために、それぞれ著書を発表した。クリステンセン教授が「Competing Against Luck」、アルウィック氏が「Job-to-be-Done, Theory to Practice」というタイトルだ。

上記の書籍は、2017年5月現在、まだ日本語に翻訳されていないが、2017年には日本でもこの概念が普及してくると思われる。基本的には商品開発を目的とした理論であるが、筆者はコンテンツマーケティングとの相性が非常に良いと考える。まずはJTBDとは何かについて説明しよう。

JTBD、「顧客の片づけるべき用事に着目する」とはどういうことなのか?

JTBDを理解するために、クリステンセン教授の著書「Competing Against Luck」から2つのエピソードを紹介する。原文は長いので要約しているが、「JTBD」を解決するために、顧客が商品を「雇う」という言い回しにも注目して欲しい。一つ目は、あるファーストフードチェーン店がミルクシェイクの売上を改善するために行った調査の話だ。

ミルクシェイクの売上げを改善するために、最初に行ったことは、ミルクシェイクの購入者属性を分析し、最も購入している顧客像を定義することだった。そしてこの属性を備えた人々を集めパネル調査を行い、もっとドロッとした方がいいのか、逆にサラっとした方がいいのか、チョコレート味の方が良いのかなどを尋ね理想的なミルクシェイクの味を探り、その結果を基に商品を改良した。しかし驚くべき事に、売上は全く変わらなかった。

そこで別の調査員が店に派遣され、顧客がどういったJTBD(片づけるべき用事)のためにミルクシェイクを雇っているのかを調査した。今回採ったのは、来店客をひたすら観察する手法だ。観察の結果、朝9時までにミルクシェイクを買う客が大半を占めることがわかった。しかもほとんどがテイクアウトであった。購入者になぜミルクシェイクを買ったのかを尋ねると、車での通勤時間が長く退屈なので、車の中で楽しめるものが欲しかったということがわかった。

ベーグルやコーヒーも試したが、車の中を汚す心配があったし、長持ちしなかったのでミルクシェイクに行き着いたということであった。車通勤中の暇つぶしになり、小腹を満たすという仕事(JTBD)を解決するためにミルクシェイクを雇ったという予想外の事実が判明したのだ。

この話はここで終わらない。実はこの男性が夕方に子供と一緒に同じ店を訪れた際には、片づけるべき用事(JTBD)が変わるのだ。子供にミルクシェイクをねだられた場合、やさしいお父さんを演じるためにミルクシェイクを買う必要がある。しかし妻から子供に甘いものを食べさせすぎてはいけないと言われているとしよう。この状況ではこの男性が片づけるべき用事(JTBD)は、罪悪感を最小限にしながら子供に優しいお父さんと思われることになる。その結果雇うのは、多分小さめのミルクシェイクということなる。

最初に実施したパネル調査で売上が改善しなかった原因はここにある。この男性にミルクシェイクの味の好みについて質問したならば、それなりに答えたであろう。しかし、いくら言うとおりに味を変えたとしても彼のJTBDとは全く関係がない。おそらく購入頻度に影響を及ぼさないであろう。通勤時間別のサイズバリエーションを用意したり、子供用の小さいサイズを用意したりした方が売上を向上させる可能性が高かったと思われる。

購買体験全体にもJTBDは隠れている

次に紹介するのはマットレスの話だ。ある夫婦が一年ほどの検討期間を経て、自宅ベッド用のマットレスを購入するまでの話だ。

マットレスの買い換えを検討し始めたのは夫の方だ。今使っているマットレスは4年前に購入したが、3年目を過ぎた頃から、朝起きた時に頭、首、背中が痛くなるようになったという。しばらくすると妻も同じ症状を訴えるようになった。

そこで色々とマットレスについて調べて、形状記憶フォームを使用したマットレスにしようというところまでは決めていたようだ。グルポンのウェブサイトで安いマットレスを見つけたが、もし気に入らなかったら返品手続きが大変そうだと不安になり、購入には至らなかった。

そんな状況の中、家族でコストコに買い物に出かけ、レジの近くでマットレスを見つけた。クッションを手で押してみたが寝心地は問題なさそうだし、値段もほどほどだ。コストコなら車で5分かからず返品も楽だ。妻にもその場で了解を得ることができたので購入を決断した。このコストコでの検討中、ボックススプリング方式とフォーム方式の違い等、事前に調べた知識を思い出すことはなかったという。

なんと1年ほどマットレスについて買い換えを検討し、クッションについても色々と調べて形状記憶フォームと決めていた人物が、結局購入したのはコストコで偶然見つけたマットレスだったのだ。しかし彼のJTBDに着目すると、この行動は不可解ではなくなる。夜ぐっすり眠ることができそうであること、妻の同意を得ていること、返品が容易であることという用事が解決されているのだ。いくら安くて、機能がよくても、これらのJTBDをうまく解決できないマットレスではダメだったというわけだ。

JTBDはマーケティングに因果関係の視点をもたらす

以上2つのエピソードを紹介したが、共通するのは「顧客が自分の仕事を解決するために、何を雇うか」という考え方の重要性である。一つ目の話は商品そのものに対するJTBDの発見、そして二つ目の話は購買体験全体に対するJTBDの発見から、顧客が何を雇おうとしているのかを見つけだしている。

JTBDに着目するということは、実は相関関係ではなく、因果関係を見つけることにつながる。マットレス購入の事例でいうならば、データ分析によりレジ付近でマットレスが売れていることがわかった場合、他の店舗でもレジ付近にマットレスを置くという増販策が考えられるだろう。もちろんそれでうまく行くこともあるだろうが、その根源的な理由がわからないから応用が利かない。一方JTBDに着目して得られた「マットレスを買い換えるには、妻の同意を得る必要がある」という洞察は因果関係だ。この洞察からは、夫婦が相談しやすいようにキッズスペースを作る、など対応策を発想することができる。

クレイトン教授は、ビッグデータやアトリビューション分析には、やや否定的な立場を取っている。なぜならそれらから得られるのは基本的には相関関係だからだ。例えば、「64歳、身長6フィート8インチ、靴のサイズが16、子供はいるが全員大学に入学し同居していない、ボストンの郊外に住んでホンダのミニバンを運転している等々」、こういった属性データをいくら集めても、今日クリステン教授がニューヨークタイムズを買ったということを説明できないからだという。

確かに、顧客の属性と購買行動の間には、因果関係がない。しかし我々は往々にして相関関係と因果関係を取り違い、誤った策を弄してしまうことがある。JTBDに着目し、顧客は何を解決したいのかという問いから始めると購買につながる一連の因果関係を見つけ、改善策を見つけることができる。この手法はカスタマージャーニーを通して、顧客の知りたいことを段階的に提供していくコンテンツマーケティングに応用可能だ。その手法について紹介していく予定だが、JTBDをさらに理解するために、次回はその適用範囲について紹介する。

執筆:渡辺一男(日本SPセンター)

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