JTBDをコンテンツマーケティングに応用する(5)購買を左右する4つの力を理解する

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前回は、JTBDのツールである「ミニドキュメンタリーを撮影する手法」をペルソナ設定に利用する方法を紹介したが、今回はJTBDにおけるもう一つのツールを使ってペルソナ設定をさらに補強する方法について紹介したい。

顧客を取り巻く4つの力を理解する

JTBDでは、顧客がおかれた状況を理解するために、顧客に働く4つの力を分析する。このために使われるのが下記の図だ。

出典:UNPACKING THE PROGRESS MAKING FORCES DIAGRAM

この図は、顧客が現状から脱し新しい行動(通常は購買)に移るまでに顧客に作用する、4つの力を示している。左端が現状で、右端が新しい行動を起こした状態だ。その過程で顧客は、新しい行動への変化を促すプラスの力と、新しい行動を躊躇させるマイナスの力の影響を受ける。

図の上段がプラスの力で、下段がマイナスの力を示している。それぞれを見てみると、プラスの力はさらに二つに分解できる。一つ目はPush of the Situation(現状の圧力)だ。何か問題が起きたか、問題が起きつつあるので、その解決のために行動を促す力を意味する。例えば、洗濯機が壊れたという事象が起きた場合、修理や買い替えという解決方法を求めて人は行動を起こすはずである。

プラスの力のもう一つはMagnetism of New Solution(新しいソリューションの魅力)である。人は基本的には新しいモノや技術が好きだ。例えば「超音波を利用することで洗剤を使うよりも汚れが落ちる」という洗濯機があったとしたら、どんなものなのか気になる人が多いだろう。人に行動を促すためには好奇心に訴えるということも重要であることを理解する必要がある。

次に下段のマイナスの力について見てみよう。マイナスの力の一つ目はAnxiety of the New Solution(新しいモノを買って失敗したくないという気持ち)だ。失敗してもそれほど痛くない比較的安価な日用品であれば、この力は弱いが、高額な商品になればなるほどこの力は大きくなる。例えば新しい清涼飲料水を試してみて美味しくなかったとしても、多くの人はあきらめられるだろうが、高額な自動車の場合にはそうはいかない。人は購買の妥当性が担保できなければ、これで良いのかと躊躇するものだ。

もう一つは、Habit of the Present(現状を変えたくないという惰性)だ。人は、新しいモノが好きな一方、現状やこれまでの習慣を変えたくないという不思議な存在だ。英会話を勉強しなくてはいけないと思っているが、そう思い立ってから既に1年経っているという人も多いであろう。人を動かすには、現状から一歩踏み出す勇気を与えることも重要になる。

4つの力を分析することで顧客が置かれた状況が明確になってくるが、特にマイナスの引力を理解することが重要である。マーケターは主にプラスの力に目を向けることが多いだろう。しかし買う気は満々なのだが、それを上回るマイナスの引力が購買を妨げている場合、いくら商品の魅力で押してもうまくいかない。時には、マイナスの力を減少させることに注力する方が効果的な場合もあるということを知っておく必要がある。

では、洗濯機を例に4つの力について記述してみよう。ここでは、30代の既婚女性が、洗濯機の買い替えで悩んでいる状況を想定している。

  • 現状の圧力

    今の洗濯機は購入してから10年ほど経っている。以前は1時間以内で乾燥できていたが、最近では2時間近くかかるようになってきた。振動も大きく、夜洗濯するとうるさくて眠れない。修理するか買い替えないといけないとは思いながら、そんな状態が半年以上続いている。

  • 新しいソリューションの魅力

    乾燥時間が大幅に短縮され、電気代もかなり節約できる洗濯機が発売されたことをTVCFで知った。洗剤の量も節約できるらしく、デザイン的にも、今使っている洗濯機よりも魅力的だ。

  • 新しいモノを買って後悔したくないという気持ち

    新商品は魅力的だが、果たして20万円もかけて買い替えるべきか悩んでいる。今と同じ10万円位の洗濯機でも良いのではないか、例え買い替えるにしても、旦那さんにどう説明しようかと悩んでいる

  • 現状を変えたくないという惰性

    洗濯機を買い換えるとなると、昼間に家にいないといけない。今は繁忙期だから休みが取りにくい。設置の時に人がくるとなると、洗濯機周りを掃除しないと恥ずかしいが、掃除をするのはおっくうだ。

4つの視点で顧客を見つめてみると、色々なことが見えてくる。この要素をペルソナ設定にそのまま追加してもよいし、あるいはコンテンツ発想に利用してもよい。例えばそれぞれの力を強化・減衰させるためのコンテンツとして、下記のように考えることができるだろう。

  • 現状の圧力を強化するためのコンテンツ

    ・洗濯機の一般的な買い替え時期啓蒙コンテンツ

    ・修理か、買い替えかの判断ポイント解説コンテンツ

  • 新しいソリューションの魅力の力を強化するためのコンテンツ

    ・10年前の洗濯機と比べた進化解説コンテンツ(汚れ落ち、節水、電気代、乾燥時間、静音性等)

    ・新しい洗浄技術の解説動画コンテンツ

  • 新しいモノを買って後悔したくないという気持ちを解消するためのコンテンツ

    ・デモ実施店舗案内コンテンツ

    ・10年間の節約コスト実感コンテンツ

  • 現状を変えたくないという惰性を打破するためのコンテンツ

    ・土日設置サービスキャンペーンコンテンツ

    ・買い替え時、洗濯パン周り同時清掃サービスキャンペーンコンテンツ

ペルソナ設定を省略して、4つの力を分析するだけでも、必要なコンテンツをある程度把握することができる。また、きちんとペルソナ設定から初めて、最終的に必要になったコンテンツを4つの力の図にマッピングすれば、プラスの力が強化され、マイナスの力が低減されているのかを確認することができる。

4つの力の図に既存のコンテンツをマッピングすれば、それぞれの力の大きさに対応したコンテンツを用意できているか、コンテンツの過不足がないかということがチェックできる。下の図では、「後悔したくないという気持ち」を解消するためのコンテンツが無いことや、「現状の圧力」を強めるコンテンツが他と比較して多すぎること、「新しいソリューションの魅力」を強化するコンテンツが少なすぎることなどがわかる。

次回は、JTBDから発展して開発されたJob Storyの利用の仕方について紹介する予定だ。

執筆:渡辺一男(日本SPセンター)

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