良質なコンテンツは、正しい顧客理解から生まれる。 米DELLに学ぶ、ウェブコンテンツの「ペルソナ設定」術

コンテンツストラテジーは体系化されてこなかった。

ウェブサイトやブログを使って、潜在顧客の目を引きたいと考える企業は多い。記事を執筆すること自体に費用はかからないし、FacebookやTwitterで拡散すれば、ある程度のひとには読んでもらえる。「あとは、顧客の目を引くような記事を書き続けよう」と社員を奮起するひともいるだろう。

そうは言っても、顧客の目を引き続けるような記事は一筋縄では行かない。社員は元々、執筆のプロでもなければ、それを確認する上司も編集のプロでもない。コンテンツマーケティングの現場において、最も大切といっても過言ではない「コンテンツストラテジー」については、これまであまり語られてこなかった。

コンテンツ企画と一口に言っても、記事ネタを考える企画力から訪問者を飽きさせない語彙の使い方まで、その内容は様々だ。コンテンツは顧客にとって有益なものであるべき。だとするならば、まずは顧客がなにを求めているかを正しく理解するべきだろう。そこで今回は、顧客の「ペルソナ設定」について米DELLの事例をもとに解説する。皆さんは自社で運営するウェブサイトやブログの訪問者、顧客を、きちんと理解できているだろうか。

訪問者の「会社のサイズ」で見るべき場所が変わる。

家電メーカーのウェブサイトと言われれば、製品群ごとに導線が設計されており、トップページには企業がテレビCMでプッシュしている製品やキャンペーンが大きく打ち出されているイメージが湧く。DELLのサイトが特徴的なのは、サイト訪問者が所属する「会社のサイズ」によって、導線が異なることだ。

米DELL法人向けウェブサイトのトップページ

トップページの最上段、グローバルナビを見てほしい。For Small & Home Office(SOHO向け)、For Small & Medium Business(中小企業向け)、For Education Government & Healthcare(教育・政府・ヘルスケア向け)、For Large Enterprise(大企業向け)とある。自分がどこを見ればよいか一目瞭然だ。

ためしにSOHO向けをのぞいてみよう。Shop for Dell Productsとあり、ラップトップ、デスクトップ、サーバ、その他アクセサリーと、それぞれの群で製品が紹介されている。ここは一般的な家電メーカーのサイトと変わらない。

続いて、中小企業向けを見てみる。ページ中段以降に「Featured Solutions」とある。Mobile Device Management Solutions(モバイル端末の管理)、Networking Solutions(ネットワーク)、Layered Security Solutions(セキュリティー)など、発生する頻度が高そうな課題が列挙されている。

中小企業向けページにある課題別コラム

「自分の会社は外回りの営業マンがタブレット端末で仕事をすることが多く、情報管理が心配だな」そう思った訪問者は、Mobile Device〜のコラムを読むと、解決の方向性を見いだすことができる。文末では、電話やチャットでの問い合わせができるようになっている。

顧客の課題を左右するキーを見つけ出す。

DELLはなぜ、「会社のサイズ」で導線を変えているのだろうか。それは、会社の人数や拠点数が、パソコンに関する課題を決めるからだ。

大企業向けのページを見てみる。「Business Strategy and Process」というカテゴリーでは、企業が正しい情報に基づいて迅速な意思決定をするために必要なBI(ビジネスインテリジェンス)や、社員をモチベートするためのHR(ヒューマンリソース)の在り方までが解説されている。

会社のサイズが大きくなるにつれ、ITインフラの最終意思決定者が抱える課題は、企業経営におけるそれと直結するようになる。そのような課題を抱えている顧客に製品群とそのスペックを紹介しても、まったくののれんに腕押しだろう。さらに、ペルソナ設定を精緻に行っているのが、教育・政府・ヘルスケア向けのページだ。ページを訪れるとState & Local Government(国家・地方政府)、Federal(連邦政府)、K-12(幼稚園〜高校)、Higher Education(大学・大学院)、Healthcare(ヘルスケア)で細分化されている。これは推測だが、教育・政府・ヘルスケア向けでは、その「カテゴリー」が顧客の課題を左右するのであろう。

教育・政府・ヘルスケア向けのページは、ペルソナ設定がさらに細分化されている

大口顧客となりうるペルソナにはリッチな情報を提供。

ペルソナが変われば、課題が変わる。課題が変われば、予算も変わる。となると、DELLとしても大口顧客に対しては手厚い対応が必要になる。

大企業向けのページはリッチなコンテンツが目白押しだ。サーバ管理のソフトウェアをフリーダウンロードできる特設サイトに、サーバのパフォーマンスを向上させるハウツーレポートの配布。クラウド活用に関する調査レポートの配布に、ニュースレター。さらに、ソリューションを記事風にまとめた、PDF版のマガジンまでダウンロードが可能だ。

さらに分かりやすいのが、ヘルスケア内にある「バーチャルツアー」だ。訪れると、病院の敷地を上空から俯瞰したような画像が現れる。敷地内にはHospital(病院)、Physicians Center(医師センター)、Health Plans(ヘルスプラン)、External Data Center(外部のデータセンター)が配置されており、それぞれクリッカブルな状態にある。

ヘルスケア内にある「バーチャルツアー」

Hospitalをクリックすると、俯瞰して画像を表示していたカメラが大きく旋回し、一気に建物に接近。すると、Patient Room(病室)やNurses Station(ナースステーション)など、さらに細分化された状態で表示される。Patient Roomをクリックすると、カメラが病室の一室のズームインし、タブレット端末を手にした医師と患者が会話するムービーが始まる。

会話が終わると、病室内のあらゆる電子機器がクリッカブルになる。先ほどのタブレット端末をクリックすると、そこには高いセキュリティーを持つ、端末内ソフトウェアへのログインを簡易化するDELLのシステムの紹介文が表示される。ほかにも病室内のモニターをクリックすると、患者の過去の検査結果を記録するためのソフトウェアの存在を知ることができる。

医師と患者が会話するムービーは、会話が終わるとインタラクティブなページに変わる

ペルソナ設定を精緻化することの副産物

DELLがやっていることは、パソコンやサーバを組み合わせて販売しているにすぎない。しかし、彼らはパソコンの販売員ではなく、あたかもITコンサルタントのように振る舞っている。この姿勢に、ペルソナを精緻化することの副産物が隠れている。

訪問者の課題や意思決定のプロセスを知れば、自ずと自社だけでなく、製品や業界の周辺情報を知り、顧客をサポートする必要が生まれる。例えば、あなたが液晶メーカーのマーケティング担当者だとする。従来であれば、テレビや白物家電メーカーが主な顧客対象だったが、いまではスマートフォンなどのデジタル家電やデジタルサイネージを扱う商業施設なども対象に入れられるはずだ。

デジタル家電メーカーや商業施設が対象であれば、ユーザーの操作性を大事にするため、液晶にタッチしたときの感度や画像解像度、消費電力などを重視するだろう。となると、研究すべき領域や社員のノウハウの幅が広がり、また新しいソリューション開発にもつながりそうだ。ペルソナ設定は、正しい顧客理解を促し、結果として事業成長の一端にもなりうるのだ。

ペルソナ設定の鍵は営業とコンテンツマーケターの戦略的連係プレー

顧客の声を社内で一番聞いているのは誰か。おそらく「営業」と答える会社が多いだろう。だとすれば、コンテンツマーケターはペルソナ設定を精緻化するために営業担当者と積極的に連係するべきだ。

また、逆もしかりだ。営業担当者が売り出していきたい製品や、新しく開発したいソリューションがあれば、その周辺情報や類似事例のリサーチに、マーケティング担当者を巻き込むことができる。マーケティング担当者がそのレポートをウェブサイトやブログで発信すれば、顧客からは専門家として見えるだろう。そうやって、ペルソナの精緻化とそれにフィットしたコンテンツの拡充が、相乗効果を起こしていければ、顧客開発の効率も高まるだろう。

コンテンツとは、それに触れてくれる顧客あってのものだ。煮詰まったときは、愚直に顧客像=ペルソナに立ち返りたい。

執筆:岡徳之(Noriyuki Oka Tokyo

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