同じ商品でも売れ方が違うのはなぜ?マーケティング先進企業から学ぶ「ターゲット設定」の妙

“クルマ離れ”が著しいこの時代に、富士重工業の「スバル BRZ」が売れている。

富士重工業「スバル BRZ」

このクルマ、トヨタとの共同開発により誕生したもので、富士重工業は「スバル BRZ」、トヨタは「86(ハチロク)」の名称で販売している。「86」といえば、1983年にトヨタが発売したカローラとスプリンターのスポーツモデルAE86。昔からのクルマファンなら誰もが知る名車だ。

女性ターゲットで“クルマ離れ”の若者に売れたクルマ

ZAKZAKの連載「こんな時代のヒット力」によると、トヨタは“伝説の86”復活とばかりに、男性をターゲットにプロモーションを展開。一方のスバルはこのBRZを、女性をターゲットにして売り出した。

テレビCMには女優黒木メイサを起用。『最近、面白いもの見つけちゃいました。運転です』とクルマの楽しみを女性に向け発信したこの展開は業界を驚かせ、さらに予想に反して“クルマ離れ”といわれた20代、30代の若い男性層に飛び火し、ヒット作となった。あらためてマーケティングの威力を思い知った。

前置きが長くなったが、このように同じ商品でも打ち出し方が変われば売れ方も変わる。そして前出の例にもある通り、打ち出し方の肝を握るのはターゲットの設定だ。同じ商品でも、ターゲットが異なれば打ち出し方が変わる。このことをオウンドメディアで実践している企業がある。

Miller Electric社はアメリカウィスコンシン州に拠点を置く、世界最大の溶接器具メーカー。溶接器具と聞いて馴染みの深い読者は少ないと思うが、自動車や建設機械などの大型な金属製品から、日曜大工の小さなものまでを、溶かしたり圧をかけることで加工する器具のことだ。町工場を取材するテレビ番組などで見たことがあるかもしれない。

Miller Electric社Webサイト

「溶接器具を買ってほしいターゲットは工場で働く機械工」、だと定義するならばそれは、Miller社からすればピントを絞りきれていないことになる。

農家と建設業者、日曜大工のお父さん…“機械工”もさまざま

Miller Electric社の公式ウェブサイト内「Industries & Interests」

同社のウェブサイトでは、ターゲットを業界別にセグメントしている。例えば、「Farm & Ranch(農場と牧場)」では『Farm Welding Repair: Rebuilding a Trailer Hitch』という動画コンテンツを配信している。同社のプロダクトマネジャーと顧客である農家が出演し、壊れた農耕機具を修理する模様が紹介されている。

動画コンテンツ『Farm Welding Repair: Rebuilding a Trailer Hitch』

一方、「Construction(建築業)」では、『Mechanical Contractor Cuts Fuel and Vehicle Costs in Half by Combining Stick/TIG Inverter with Welder Generator』という記事コンテンツを公開している。同社の製品を上手く組み合わせることで、燃料費など作業にかかる他のコストを削減できることを、数値データに基づいて語っている。

また、ターゲットはビジネスユースに留まらない。誰でも自分でモノが作れてしまう「メイカーズブーム」も花盛りだが、そんな自分でモノづくりをしたいDIY(Do It Yourself)の精神を持った顧客には、クルマやバイク、トラックなど自分が所有する身の回りのマシンを溶接するためのティップスも紹介している。

このように、ターゲットが変われば、発信するコンテンツの内容も、そして形式(動画か記事)も変わってくるのだ。

同社はターゲットセグメントのほかにも、ウェブサイトに工夫を凝らしている。例えば、前出のような「業界」ではなく、溶接したい「素材のサイズ」で商品を選びたい顧客に対しては、下の画像のような「SELECTION GUIDE」を設けている。

また、同じウェブページでは「GUYER’S GUIDE(http://www.millerwelds.com/pdf/MMMBG.pdf)」と称された、製品購入の手引きがPDFで配布されている。素人の目には違いが分かりにくい商品多く抱えていても、これを読めばストレス無く欲しい商品を絞り込んでいけるだろう。

「GUYER’S GUIDE」

このブログでも何度か言及したが、コンテンツマーケティングの成功を左右する鍵の一つは、ターゲット設定。ターゲットが変われば、コンテキストが変わり、商品の打ち出し方も変わる。そのターゲットの切り出し方こそ、マーケターの腕の見せ所だろう。

執筆:岡徳之(Noriyuki Oka Tokyo

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