本業とシナジーを生むメディア運営の秘訣とは?

1月22日、Ginzamarkets主催の『FOUND Conference in Tokyo』が開催された。同カンファレンスは「コンテンツマーケティングの現在と今後について考える」をコンセプトに、シリコンバレーやニューヨークなどで開催されており、今回アメリカ以外で初めて東京で開催されたカンファレンスだ。

第三部では「本業とシナジーを持つメディアを運営する」と題し、リコーシニアマネージャーの野口智弘氏、Webマガジン『エンジニアtype』編集長の伊藤健吾氏、オーマイグラス取締役COOの六人部生馬氏、モデレーターとしてインフォバーンコンテンツディレクターの長田真氏が登壇した。トークセッションの内容についてレポートする。

以下がセッションの模様(左より野口氏、伊藤氏、六人部氏、長田氏)

オウンドメディア立ち上げのきっかけ

登壇している3社は、どのようにしてオウンドメディアを始めるようになったのか。リコーは、コンパクトデジタルカメラのGRシリーズを2005年から販売。GRシリーズ発売前から、GRに関する情報を発信する「GR BLOG」を運用している。

プロダクトではなく、写真文化をどのように伝えるかがカメラメーカーとしての使命と語る、リコーシニアマネージャーの野口智弘氏

GR BLOGでは高画質で携帯性に優れたGRそのものだけではなく、カメラに関するさまざまな情報を発信し、写真の価値やスナップの楽しさを伝えるためにさまざまなコンテンツを発信している。

エンジニアtypeは、「@Type」など転職活動情報を提供するキャリアデザインセンターが運営しており、求人サイトへの送客は目的の一つだと『エンジニアtype』編集長の伊藤氏は語る。もう一つの役割として、独立メディアとしての広告事業なども展開しており、IT系やテクノロジーを扱うエンジニアへのインタビューや寄稿記事を含めたメディアとして、2011年から運営している。

「転職活動をしていない人たちに対して、有意義な情報を伝えるという中長期的な接点を持つことが大事」(伊藤氏)

オーマイグラスは「日本のものづくりを世界に」をミッションに、メガネのECサイトを運営しており、160ブランド1万種類のメガネを扱っている。メガネやサングラスに関するあらゆる情報を発信しようと「OMG Press」というオウンドメディアを設立。「読者がメガネに興味を持つこと、自分に合ったメガネ探しをサポートすること」をもとに、メガネのメディアとして国内1位を目指している。

ユーザ視点を持ったコンセプトを立てること

それぞれのメディアの、編集方針やコンセプトはどのようなものか。メーカーの哲学として、カメラというプロダクトをたくさん売るだけではなく、撮った写真がずっと手元にあるという写真文化を残していく考えを持っているとリコーの野口氏は語る。商品をPRするブログではなく、GRを通じたユーザーとのコミュニケーションを大事にする、コミュニティを作る場として機能させていくことがコンセプトだという。

「GRファンのクリエーターや著名人も多く、GRistというインタビューコンテンツでは普段の仕事で意識していることなど、生活と写真の関係について話を伺っている。著名人もすべて無償で取材を受けてもらっており、写真やカメラに対する愛情が伝わるようにすることで、写真文化の良さへとつながっていく」(野口氏)

オーマイグラスの六人部氏は、メガネ業界の課題として「メガネブランドの認知率の低さ」があるという。一般的に、度付きのメガネを購入するサイクルは数年に一度程度であり、ブランドを意識してメガネを購入する人も少なく、メガネ自体の知識も不足している。そこで、購入時以外でもメガネのことを知ってもらい、ブランド認知を含めたメガネ業界の支援をコンセプトにしている。

「自社のECでは扱っていないブランドも紹介するなど、あくまでメガネ業界の中でニュートラルな立ち位置で情報を発信している。ユーザーにとって、有益な情報を発信することが大切」(六人部氏)

エンジニアtypeは「転職情報は普段読まないからこそ、毎日読みたくなるメディアにしようと、立ち上げ時に考えた」と伊藤氏は語る。

エンジニアTypeWebサイトはコンセプトとして「読者の仕事に影響しそうなニュースの裏側や、ソースとなる人の経験知を深堀りし、創り手が新しい価値や新しいキャリアを創ることを応援する」ことを掲げている。

「IT系の他媒体と差異化を考え、エンジニアやプロダクトデザインに関わる人にフォーカスをしていこうと考えた。コンテンツの6−7割はインタビュー、残りは最先端で活躍しているエンジニアの寄稿などが中心だ」(伊藤氏)

コンセプトなきコンテンツは意味がない

編集方針やコンセプトを定めたら、次はどのようなコンテンツを制作していくかが重要だ。

12年以上の編集経験を持つエンジニアtypeの伊藤氏は、コンテンツがコンセプトに沿っているかを最も重視しているという。コンセプトと外れたコンテンツは発信しないことや、他では読めない情報をどう作り出すかにこだわって運営している。

「一部のメディアや、出版社だけが情報発信できた時代ではなくなった。誰もが発信できる時代だからこそ、メディアとしてのあり方を考えなければいけない。コンセプトなきコンテンツに意味はない。SEO重視や見出しだけのコンテンツではなく、タイトルも中身もきちんとしたものを愚直に作っていきたい」(伊藤氏)

コンセプトなきコンテンツに意味はなく、良質なコンテンツを地道に発信することが、ユーザーにとって一番価値のあることだと語る、Webマガジン『エンジニアtype』編集長の伊藤健吾氏

リコーの野口氏は、メーカーならではの視点を、GRの新規ファンにも読んでもらえるよう、できるだけ平易な内容にするよう心がけているという。新しい人からGR歴の長い人まで、すべての人たちが楽しんでもらえる内容にすることが、GRコミュニティを醸成していく一つの鍵だと野口氏は語る。

オーマイグラス六人部氏は、コンテンツとしての面白さを重要視しているという。ソーシャルメディアにおける反響やPVなどを参考にし、読者が求めるコンテンツづくりを心がけている。

OMG PRESS はニュートラルな立ち位置でメガネ情報を発信する場でもあるため、メガネに対する主義主張ではなく、客観的な事実を中心としたニュースなどを軸としたコンテンツづくりを行っているという。

目的に応じた運営体制を組み、効果的な制作環境を作ること

オウンドメディアを継続させていくために、3社それぞれどのような編集体制を組んでいるのか。

リコーの野口氏は、ブログによる収益化などは狙っておらず、あくまで社内プロジェクトの一つという位置づけだという。予算はサーバー代のみで、ブログを更新している10名の社員も、すべてブログ以外に本業を持つ人たちで、あくまでボランティアベースでブログを更新している。野口氏も、現在はGR関連の部署から異動しているが、いまだにブログを更新している。

「本業の仕事に影響を及ぼさない程度に、それぞれが休みの時間などで更新している。関わっているすべての社員がGRが好き、というだけで2005年から休まずに更新し続けている」(野口氏)

オーマイグラス六人部氏は、外部の編集者とライター6名程度で運営しているという。コンテンツはフォーマットを作成してマニュアルに落としこみ、誰でも運営できる体制を作っている。

業界としての根本的な課題を解決し、メガネに関する良質な情報を届けることで、明確なシナジー効果を生んでいると語る、オーマイグラス取締役COOの六人部生馬氏

エンジニアtypeは、2名の編集部以外は外部の編集やライターとやりとりをしながら運営している。毎日更新を目標に、月25-30本程度の記事を掲載している。社内予算として70万円を確保しているが、それだけではメディアとしての質を向上させることが難しい。中長期的な展開を視野に入れながら、外部からの予算確保を行うためにイベントや広告事業を展開。こうして得られた予算を活用してライターを確保しながら月の更新本数を増やしているという。

「予算を増やしたければ自分たちで儲けを作る、が根底にある。他媒体と同様に、マネタイズ含めた独立メディアとしてのブランド価値やプレゼンスを高めていかないといけない」(伊藤氏)

コンセプトがあれば、本業と効果的なシナジーを生むことが出来る。
本業とのシナジーを意識して運営していく上で、どのようなKPIを設定しているのか。また、運営を行ってきた中でどのようなシナジーが生まれているのか。

エンジニアtypeの伊藤氏は「KPIはUUのみ」だと語る。本業の求人サイトへの流入を増やすために試行錯誤してきた結果、UUを高めればコンバージョンの数値が上がることが、2年間の運営で明確になった、と語る。同時に、2年でメディアとしての売上も黒字化を達成し、UUを伸ばすことが転職サイトへの流入とメディアの広告事業に大きな効果があるという。

OMGPressは、すでに月間UU10万~15万のトラフィックを集め、UUの10.5%はECサイトへ遷移し、EC注文の10-20%はOMG Press経由になっていると六人部氏は語る。メディア運営のノウハウを貯めながら、予算拡大や今後の方向性についてこれから考えていくとのこと。KPIはPVではなくUUを重視し、どれだけ多くの人たちにメディアがリーチできたかが大切だとしている。

「メディアを運営してきて、自社の認知やユーザーとの関係構築ができてきた。営業だけではECで扱いができなかった著名ブランドが、記事掲載をきっかけにECサイトに出品してもらうなど、さまざまな面で本業とのシナジーが生まれている」(六人部氏)

リコーの野口氏は、PVなどの数字は参考にするが、あまり一喜一憂してはいけないと語る。本来のコンセプトは「いい写真をいかに残してもらうか」であり、メンバーもそうした思いを持って活動しているという。

「立ち上げた時から、運用するのが苦痛となったらやめよう、と言っている。しかし今まで続いているのは、写真文化に対する思いがあるからだ。カメラメーカーとしてブログ読者を大切にすることは、何百万もいるリコーのカメラユーザーを大切にする第一歩。続けることに意味がある」(野口氏)

カメラに関する情報発信や、GRを含めたカメラコミュニティを通じて、GR全体のブランディングにも大きく影響しており、社内でもブログ運営に対しての理解も浸透している。プロダクトに対する熱意を通じてカメラファンが増えることは、本業に対しても大きなシナジーだと言える。

3社それぞれ、いかにしてユーザーの視点に立った情報発信ができるかを心がけている。読み手を明確に設定し、コンセプトや編集方針をしっかりと定義してからコンテンツを作成し関係構築を図るという手法は、まさに雑誌作りにも共通する手法であり、コンテンツマーケティングが「Like a Publisher」と呼ばれる所以といえるだろう。

執筆:江口晋太朗編集:野口聖晃(日本SPセンター)

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