オウンドメディア成功へのガイド~傑作オウンドメディアを分析してわかった戦略と工夫~

はじめに

2023年7月に開催された、コンテンツマーケティング業界最大のコミュニティイベント「コンテンツマーケティング・デイ2023 コンテンツVer.

このイベントには、「コンテンツマーケティング・グランプリ2022」を受賞した方々をはじめ、業界を代表するオウンドメディアの編集長や、編集者の皆様に数多くご登壇いただきました。

私たちコンテンツマーケティング・アカデミーは「優れたオウンドメディアとはどんなものなのか?」「優れたオウンドメディアになるにはどうしたらいいのか?」という観点で、それぞれのオウンドメディアの目的、体制、経緯などついて、登壇者のみなさんに詳しくお話を伺いしました。

そして、そこから得た情報を元に、優れたオウンドメディアになるには、どのようなプロセスや思想が必要なのかを1枚にまとめたマップ「オウンドメディア冒険の旅路」を作成しました。

本記事では、このマップを使って「オウンドメディアが生き延び、成功するための戦略と工夫」を紐解いていきます。単なる「オウンドメディアのビジネス貢献」という言葉だけでは表せない、オウンドメディアの目的や運営についての深く面白い世界を感じていただければ幸いです。

パート1:オウンドメディアとは何か?

本題に入る前に、改めて「オウンドメディアとは何か?」についておさらいしておきましょう。

オウンドメディアとは、端的に以下のように定義されていることが多いようです。

  • 企業(組織)が保有しているメディアであること
  • ペイドメディア、アーンドメディアではないこと(メディア事業単体として収益を追求していないもの)

オウンドメディアの定義上、媒体や目的、コンテンツについての制約はありません。媒体は、ブログ、製品サイト、製品カタログ、パンフレット…など自由。目的についても、見込み顧客(リード)獲得、CSR、採用…など自由。コンテンツも、取材記事、インタビュー、動画、音声…など自由です。

なお、本記事ではオウンドメディアに訪問する読者・訪問者・視聴者…を、ひとことで「オーディエンス」と呼ぶことにしています。

オウンドメディアがなぜ必要なのか?

それでは、企業(組織)が、オウンドメディアを運営するメリットは何でしょうか?代表的なものを挙げてみたいと思います。

メリット1:伝えたいことをそのまま伝え続けられる

オウンドメディアは、自分達で自由にコンテンツを企画・制作・配信できるメディアです。ペイドメディアに広告を出稿するとなると、文字数・期間・内容・対象者・更新頻度…などの制約がありますが、オウンドメディアであれば、自分達で自由に決めることができます。

アーンドメディア(SNS)でも自分達の言いたいことは伝えられるのですが、意外と制約があります。「SNS=自由な発信の場」ということも言われますが、実際にはコミュニケーションのスタイルや作法、前後の文脈や空気といったあいまいなものが複雑に絡み合ったハイコンテクストなメディアです。シンプルに自分たちが伝えたいことを伝えようとするには、意外と面倒です。

さらにそのうえ、X(旧Twitter)の買収騒動のように、突然サービス規約や機能が変わってしまうこともあります。もしかすると、予告なくサービスが停止してしまうかもしれません。その場合、自分たちが発信してきた内容は全て消えてしまうのでしょうか?…オウンドメディアであれば、すくなくとも自分達で消去しない限りは、コンテンツは永続的に残り、再利用可能なものとなります。

「伝えたいことをそのまま伝え続けられる」というメリットを最大限に活かすには、伝えたいこと、伝える言葉、伝え方といった重要な部分を他人任せにせずに、自分達で練り上げていくことが重要です。そのうえで、どこまで外注するのか、どんな企業(専門家)に外注するのかを慎重に選ばなければいけません。

メリット2:広告よりも低コストで認知を獲得できる

日々多額の広告費用を支払い続けている企業にとっては、非常に魅力的なメリットです。オウンドメディアが成長し、自社の顧客となりえるオーディエンスをある程度集められるようになっていれば、メディア企業に高額な広告費を支払うことなく、効率的に見込み顧客へメッセージを届けることができるようになります。

また、既存の広告施策との組み合わせにも効果が期待できます。例えば、サービス名や企業名などの浅い情報の認知拡大のために、TVCMなどのマスメディアを活用して、さらに製品にまつわる深い情報には、オウンドメディアを活用するといった具合です。

オウンドメディアへのアクセスを増やすためには、オーディエンスが関心をもつキーワードで、検索順位を上げることも重要になるでしょう。「コンテンツSEO」という手法が一般的で、オウンドメディア運営者たちによく好まれています。競合サイトが何も対策をしていない場合などでは、検索上位を狙うことも可能で、アクセスを一気に増やすことができます。

検索順位は、数字でわかりやすく示せるうえに、競合サイトとの違いがわかりやすいので、オウンドメディアの価値を示すためによく使われる指標なのですが、注意点もあり、こだわりすぎるのはあまりおススメできません。コンテンツの品質を下げたり、伝えるべき内容を変えたり、その企業の強みやブランドを失ってまでも検索順位を上げる必要はあるのでしょうか?ただアクセスを増やしたいために、オウンドメディアを始めたのでしょうか?あくまでもSEOは、アクセス増のための手段のひとつに留めておくべきです。

重要なのは、オウンドメディアのアクセスよりも、そこで集まったオーディエンスの内訳です。ただやみくもに「数」を増やせばよいというわけではなく、その内訳をしっかり分析しなければいけません。自社に重要な見込み客や、私たちの価値観に共感してくれるファンはどれだけ集まっているでしょうか?SEOテクニックを駆使した当たり障りのないコンテンツよりも、オリジナリティがあり情報に深みのある良質なコンテンツのほうが、ファンは確実に集まります。

メリット3:問合せや商談など、既存のビジネスプロセスに組み込むことができる

オウンドメディアは媒体や目的、コンテンツが自由なので、認知~関心~比較検討~購入といった、顧客の購買プロセスのいずれの段階にも活用することができます。

例えば、専用のLP(ランディングページ)や問い合わせフォームをオウンドメディア内に設けることで、コンテンツを通じたリード獲得や顧客とのコミュニケーションを円滑に行うことができます。または、営業担当者が顧客に訪問する際に、オウンドメディアを通じて集めた「お客様の声」パンフレットを持参して、自社の優位性を効果的に伝えることもできます。または、大々的な広告キャンペーンでは扱えないような、ニッチな訴求をオウンドメディアで実験的に展開するといった、マーケティングのPoCにも活用できます。

オウンドメディアは非常に柔軟なマーケティング施策ですので、問合せや商談といった既存のビジネスプロセスを大きく変えることなく、精緻化・効率化することができます。

メリット4:オーディエンスからの信頼を構築することができる

「信頼の構築」は、オウンドメディアにとって最も重要な価値です。現代のように情報が溢れた状況では、広告キャンペーンのような、一時的で断片的な情報発信だけで信頼を構築するのは不可能です。オウンドメディアでは、オーディエンスの疑問や関心(私たちは「情報ニーズ」と呼んでいます)をとらえ、良質なコンテンツとして直接オーディエンスへ届けることで、段階的に信頼を構築していくことができます。そして、自分たちの企業や製品に対しても信頼が高まり、それが「買ってもいいな」とか「ここから買いたいな」という気持ちにつながるのです。

そうして作られたオウンドメディアのコンテンツは、自社の資産として残り続けます。例えばWEBサイトであれば、格納されたWEBサーバーを維持し続ける限りは、インターネット上に残り続け、検索流入などで半永久的にオーディエンスとの信頼を構築し続けます。

注意しなければいけないのは、人々の元には常に情報が洪水のように押し寄せている、ということです。私たちは、人々に選んでもらう工夫をしなければいけません。発信するメッセージが顧客の情報ニーズに沿ったものでなければなりません。ただやみくもに、自分たちが言いたいことを発信しつづけるオウンドメディアでは、多くの人に選んでもらえないのです。

パート2:オウンドメディア成功のための「冒険の旅路」

それでは、いよいよ本題です。優れたオウンドメディアになるためには、どうしたらいいのでしょうか?

冒頭でご紹介したマップ「オウンドメディア冒険の旅路」を見ながら、解説していきます。

クリックでPDF版がダウンロードできます

Lv.1 冒険の始まり

オウンドメディアを立ち上げる目的には、いくつかのパターンがあります。見込み顧客の獲得のため、自社のブランディングのため、リクルート活動の効率化のため、などです。社内稟議を通したり、予算を獲得するために、この初期の目的は、何かしら明確なものとなります。そして、その目的遂行のために「誰に向けて」「誰が」「何を」「いつ」発信していくのかをしっかり決めておく必要があります。特に今回インタビューしたオウンドメディア担当者の方々は、みなさん「誰に向けて」について、メディアの立ち上げ当初からかなり具体的なイメージを持っていました。成功のポイントとして、注目すべき特徴です。

Lv.2~10 基本スキル習得

オウンドメディアを運営していく中で、はじめの半年~1年の間は、一気にノウハウが蓄積されて、メディアが成長する期間です。実際にメディア運営をする中で、コンテンツ企画制作のルーチン化のやり方が見えてきたり、いつ何を発信するのかのコンテンツカレンダーがこなれてきたりします。計画通りに、コンテンツの質と量を担保することに集中している時期です。

Lv.11~20 ターニングポイント

だいたい1年ほどオウンドメディアを運営し、一通りのことが回るようになると、成果が数字で見えてくるようになります。オウンドメディアは、基本的にはすぐに成果が出る施策ではない反面、社内からの期待値も高く、社内への成果報告に苦労する時期です。その中で運営メンバーのモチベーションにも変化が現れて「運営疲れ」が出てきます。ここであきらめて閉鎖してしまうオウンドメディアもあるでしょう。今回インタビューした成功オウンドメディアを分析すると、この時期を乗り越えるために、大きく2つのパターンに方針が分かれていきます。

1.ガツンとくる一撃必殺系

自分たちのオウンドメディアならではの「真の価値」を追求しようとする姿勢が強く現れます。真の価値とは、顧客にとって本当に何が価値であるのかということで、そして自分たちはそのために、どんなコンテンツを発信できるのかと考えます。そのために、他にない独自の世界観・価値観を確立する方向にまい進していきます。例えば記事コンテンツであれば、他にはないテーマ設定、型にはまらない文体、読者の離脱を恐れない長文化などです。会社の方針や検閲と戦いながらも、顧客の心をつかむために、よりクリエイティブに先鋭化していきます。

2. 逃げ場のない多彩な攻撃系

これまで以上に、「自社のビジネス貢献のために何ができるのか」を、追求しようとする姿勢が強く現れます。そのために、よりマーケティング戦略を洗練させて、これまでよりも読者の関心に寄り添ったテーマや、読者が求めるコンテンツのスタイルを模索していきます。ここで重要になるのが「企業理念の内省」です。自社の経営理念やビジネスの大方針を、オウンドメディアのコンセプトに融合させることで、自社のビジネス貢献と、読者の関心にこたえることを両立できます。オウンドメディアのチームは、他の部署と調整しながら、記事、セミナー、ホワイトペーパーなどの顧客接点となるコンテンツ全体に影響を与えていくようになります。

Lv.21~99 コンテンツマスターへ

ここまで来ることができると、社内からも信頼され、オーディエンスの中から特に熱心なファンも出てくるオウンドメディアとなります。今回調査した著名オウンドメディアはそれぞれの強みをもち、独自の手法を追求していましたが、いくつかのグループに分類することができます。

例えば、「ガツンとくる一撃必殺系」の進化パターンに分類できる、「Q by Livesence」や「SHARP 公式note」であれば、独自の視点・表現スタイルを過剰に追求しているグループです。ありきたりなレベルではなく、今現在のレベルにも妥協せず、常に一つ上のレベルを目指している「過剰さ」こそが、ファンが増え続ける源泉でしょう。強烈な個性と、優れたクリエイティビティを感じます。

ほかにも、「逃げ場のない多彩な攻撃系」の進化パターンに分類できる、「e☆イヤホン」「となりのカインズさん」「なるほどジョブメドレー」「アークのブログ」は、顧客の関心に合わせて、扱うテーマや記事のスタイルを、どんどん横滑りしていくグループです。顧客の関心に敏感で、自社のビジネス価値と、顧客の関心をどうすり合わせるかを追求しています。

オウンドメディアを始めた当初は、企業から顧客へ一方的に価値(主にコンテンツを通じた情報としての価値)を提供していたのですが、だんだんレベルが上がっていくと、顧客から企業への価値も発生しやすくなり、双方向性を帯びてきます。顧客が作ったコンテンツのnote寄稿だったり、顧客インタビューのコンテンツ化だったり、顧客企業とのコラボ企画だったり…と、オウンドメディアを中心に様々な価値が発生していきます。オウンドメディアの最終形として、様々な人やビジネスをつなぐ「場=コミュニティ」となり、さらに発展していくのです。

パート3:まとめ~オウンドメディア成功のポイント~

最後にオウンドメディア成功のポイントのまとめです。

  • オウンドメディアの最大のメリットは「信頼の構築」。ただアクセス数を増やすことだけを目指すのはやめよう。
  • オウンドメディアを始める前の戦略設計が重要。特に「誰に向けて」を具体化することがポイント。
  • 成果が出にくい踊り場を乗り越えるための方法はいくつかある。「顧客視点⇒クリエイティブ視点」(ガツンと来る一撃必殺系)または、「マーケティング視点⇒経営視点」(逃げ場のない多彩な攻撃系)のどちらかから取り組んでみよう。
  • 企業から顧客への価値だけでなく、顧客からの価値を創出する仕組みを考えて実行しよう。

多くのオウンドメディアの方々が口にしていたのが、運営するときに重要なのは「情熱」だということです。

私たちは、オウンドメディアを運営することで、自らの表現で、自らが伝えたいように発信することができます。広告やPRと異なり、他者ではなく自分達の言葉とやり方で、自分たちの「思い」や、ときには「情熱」までも、コンテンツという形で伝えることができます。

また、さらにその先にはビジネスの枠を超えた、受け手と送り手がひとりの人間同士として向き合い、共に楽しみ感動しあう関係にまで発展することもできます。これは「生きがい」や「生きる意味」といえるでしょう。

Content Marketing Academy は、オウンドメディア運営に関心がある方々をつなぎ、支え合うコミュニティです。今後とも、CONTENT MARKETING DAYや、CONTENT MARKETING GRANDPRIXにご参加いただければ幸いです。

今回お話を伺ったオウンドメディアの方々については、こちらの動画をご覧ください。

執筆:Content Marketing Academy 村上 健太

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