コンテンツマーケティングの情報構造(前編)

多彩なアーティクルでターゲットの関心を惹く~Mint.com(家計簿ソフト)のブログ活用事例

家計簿ソフトMint.comのサイト

今回取り上げるのは、家計簿ソフトMint.comだ。Mint.comはいわゆるSaaS型の家計簿ソフトである。このソフトの特長としては、高いセキュリティ環境下で、あらゆるお金の流れが簡単な入力だけで一元管理でき、さらにモバイルとの連動により、家計の全体像がわかりやすいビジュアルによっていつでもどこでも確認できることにある。さらに、ユーザーが設定した貯蓄や投資の“目標”に到達するためのサポートが充実していることも、ユーザーにとっての大きなメリットだと言えるだろう。

ここで、サイトを通じてまだ利用したことがないユーザーに対し利用してもらうことを訴求する場合を考えてみよう。一般的な家計簿ソフトならば「入力がいかに簡単であるか」「予算管理がどのようにできるか」など「いかにこの商品が素晴らしいか」の訴求に重点が置かれることが容易に考えられる。もちろんMint.com内にもこのようなコンテンツは用意されている。

Mint.comによるブログ"MintLife"

しかし Mint.comの場合、注目するべき点は別にある。それはMintLifeという“ブログ”だ。ブログというと、日記などを思い浮かべる人も多いかもしれないが、それとはまったく異なるので注意が必要だ。

欧米においてのブログ、とくに企業が運営するブログは、アーティクルの発信およびアーカイブ場所として活用されている。実際にMintLifeでは、たとえば下記のようなアーティクルが毎日アップされ、アーカイブされている。

How Do I Start Saving for My Child’s College Education?
~子供を大学に入れるために、どのように貯蓄を始めるべきか?~

Picking Up Healthier Eating Habits Without Picking Up a Bigger Grocery Bill
~食費をかけずに健康的な食生活をおくる秘訣~

What do Airline Mergers Mean for Your Wallet?
~航空会社の合併があなたの家計にもたらす影響~

The Lifetime Costs of Pets
~ペットにかかる生涯費用~

テーマは多岐に渡るが、すべてのアーティクルに共通しているのは“家計にまつわる”テーマである、という点だ。

家計簿ソフトに詳しいユーザーであれば、自分で情報を収集して最適なソフトを見つけることができるかもしれない。しかし、ほとんどのユーザーは、「節約はしたいけれど、どうしたらよいかわからず、何もしない」という状態にある。こういったステータスクオ(現状維持)のユーザーの背中を押すのがこれらのアーティクルなのだ。

例えば、お母さんが子供の将来についてふと考えるタイミングがあったとしよう。大学を卒業するまで一体いくらかかるのだろう…そんな疑問を抱き、検索エンジンでヒットしたページをいくつか見るうちにMintLifeにたどり着く。そこで家計にまつわる様々な情報や家計簿ソフトMint.comを知ることになる。ここですぐにMint.comを試すユーザーもいるだろう。また、この時点では試さなかったとしても、節約のための有益な情報が多くアーカイブされていることを知ると、少なくともブックマーク、あるいはRSSやe-mailの登録をするユーザーも多いのではないだろうか。このように、ステータスクオのユーザーに適切なコンテンツを提供することで、将来の購買につながるアクションを促すことがコンテンツマーケティングの狙いの一つなのだ。

ターゲットに関連する情報で集客し、より深い情報へ導く・・これがコンテンツマーケティングの基本構造だ

Mint.comの例からもわかるように、コンテンツマーケティングの情報構造は、大まかには「ハードセル情報」と「関連情報」の二層構造であると言える。中心にあるのは、従来からマーケティングコミュニケーションの中核に存在し続けてきた「ハードセル情報」。そしてそのハードセル情報にユーザーを導く役割を果たすのが、周りにある「関連情報」である。

関連情報の役割は集客であるから、ハードセル情報で扱うよりも幅広いテーマが必要となる。こういった幅広いテーマを扱うためには論理的なツリー構造よりも、雑多なコンテンツをうまく格納できるブログ形式の方がフィットしている。これがコンテンツマーケティングにおけるブログのあり方である。

台頭するコンテンツマーケティングがマス広告との関係を変えていく

先の例に示したように、商品情報で引きつけるのではなく、商品に関連した情報でターゲットユーザーを引きつける。これがコンテンツマーケティングを通じて行う集客の基本的な考え方である。

これまでの情報環境では、ターゲットごとに情報を別々に用意したところで、用意されていること自体を知る手段がユーザー側にはほとんどなかったといえる。しかし今ではインターネットの発達により情報環境が一変。検索エンジンで、能動的に調べることはいまや当たり前だし、日常的にアクセスしているソーシャルメディアを通じて自分が欲している情報に格段とアクセスしやすくなった。そんな情報環境下においては、マス広告主体のマーケティングコミュニケーションに比べて、商品に関連した情報でターゲットユーザーを引きつけるほうが効率の良い仕組みが構築できるのではないだろうか。

もちろん「認知」という観点でみるならば、マス広告が果たす役割は非常に重要、という事実は変わりない。しかし、検索エンジンやソーシャルメディアなどによってユーザーが能動的に情報に接触できる手段を持った今、例えば今まで認知に8割、コンテンツに2割のお金を使っていたのであれば、認知に2割、コンテンツに8割かけた方が本当に情報を求めているユーザーに対して親切ではないか、というのがコンテンツマーケティング支持者の共通認識の一つだ。

以前の記事でも紹介したが、今回の事例で提示したブログを筆頭に、関連情報の伝達役として有効な42の手法をアメリカのCMI(コンテンツマーケティング協会)がまとめた資料がダウンロードできる。そのまま日本市場に導入できるものばかりではないかもしれないが、ターゲットに合わせて最適な集客手法を考える際に役立つのではないかと思う。

ハードセル情報と関連情報に大別されるコンテンツマーケティングにおける基本的な情報構造。このハードセル情報へユーザーを導くために、たくさんの関連情報(アーティクル)は存在する。そしてこの“盛り沢山”なコンテンツ構成が、ターゲットとの出会いを広げ、関係強化を実現し、購買行動へと導くのだ。

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以下はアメリカでコンテンツマーケティングが盛り上がり始めた2012年に行ったインタビューの記事です。コンテンツマーケティング初期の記事なのでこれからコンテンツマーケティングについて勉強したい方に分かりやすい内容になっています。

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